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「昨日のことを怒られると思ったの。それに先ほど、皇帝陛下のお洋服によだれを垂らしたから、もうダメかと……」



キャンディスがそう言うとユーゴは腹を抱えて笑っている。



「くくっ、確かに普段なら首を斬られていたかもしれませんね」


「……えっ!?」


「今日の皇帝陛下は珍しく機嫌がよさそうでしたけどねぇ」



ユーゴの最初に言った「普段なら首を斬られていた」という言葉しか聞こえずに、キャンディスはショックを受けてワナワナと震えていた。


(普段ならば間違いなく殺されていたということ……!?今日はたまたま運がよかったのね。今までみんなに優しくしていたおかげかしら……)


こんなに運気が上がるのなら、もっと人に優しくせねばと思ったキャンディスは己の首が繋がっていたことに喜んでいた。

部屋にはいつのまにか数人の侍女が入ってきて、目の前で食器を片付けていく。


そしてキャンディスらケーキを下げようとする侍女に声をかけた。

はしたないかもしれないと思いつつもケーキを持ち帰りたいと頼む。



「皇女殿下はそんなにケーキが気に入ったのですか?」



ユーゴの言葉にキャンディスは頷きつつ訳を説明する。



「とても美味しかったから……アルチュールに食べさせたいと思ったの。きっと喜ぶと思うわ」


「アルチュール殿下に?」


「は、はしたなかったかしら!?」


「……いえ、そんなことはありませんよ」



ユーゴの瞳が細まったような気がした。

キャンディスは侍女に箱に詰めてもらったケーキを見てワクワクしていた。


(アルチュールはこのケーキを食べてどんな反応をするかしら。楽しみだわ)


気持ちよく寝ていたせいで乱れた髪とドレスを直しつつ部屋の外に出ると、エヴァとローズが涙目でこちらを見ている。



「エヴァ!ローズ!」


「「キャンディス皇女様っ……!」」



双子ならではの息ぴったりの声、二人はキャンディスを思いきり抱きしめた。

キャンディスも無事を喜ぶように背に手を回す。

感動の再会のように二人と抱き合っていた。


エヴァとローズはバイオレット宮殿の侍女たちに気がついて、すぐに背筋を伸ばす。

ケーキをエヴァが受け取って、ユーゴにお礼を言ってからキャンディスは機嫌よく去って行った。


ユーゴの後ろには影が膝をついて控えている。

それを見たユーゴは口を開いた。



「このままホワイト宮殿の監視を続けて、都度皇女の様子を報告しろ」


「はっ!」



キャンディスの背中を見ながらユーゴは「面白くなりそうだ」と呟いてヴァロンタンの元へと向かった。




その頃、キャンディスは部屋に戻り再びエヴァとローズと再会を喜び抱き合っていた。

そして二人に部屋であったことを話すとエヴァとローズの表情が青ざめていく。



「そして一緒にケーキを食べて解放されたのだけれど……その前に眠ってしまってヨダレを垂らした時には死ぬかと思ったわ」


「ヨ、ヨダレ……っ!?」


「皇帝陛下の膝にヨダレを垂らして生きて帰ってきたのは、きっと皇女様だけですよ!」



確かに今、考えるとあの恐ろしくて冷たい皇帝に膝枕をしてもらっていたというのは衝撃的であろう。

あの時は焦ってしまったが泣いた理由を問われたことも意外だった。


(まるで普通の親子みたいな会話だったわ。結局、目的はなんだったのかしら……やっぱり試されていたのよね?)


キャンディスの記憶からみると血も涙もない冷徹なイメージがあるが、今ではまた違った感じに思えた。



「昨日、緊張して眠れなかったの。やっぱりヨダレはまずかったかしら……」


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