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【書籍化】悪の皇女はもう誰も殺さない  作者: やきいもほくほく
一章 悪の皇女はもう誰も殺さない
5/75

05


目を開くと見覚えのある真っ白な天井が目に入った。



「え……?」



自分の声に違和感を感じていた。

喉に手を当てようと持ち上げると、小さな手のひらに気づいて驚き目を開く。


(子供の手……?どうして子供がいるの?)


俯いたことでハラリとホワイトブロンドの髪が目の前にパラパラと落ちたことで心臓がドクリと音を立てた。


(何か……何か大切なことを思い出せそうな気がするわ。ここはわたくしの部屋、よね?)


慌てて立ち上がると手足の長さや感覚が違うからかベッドから転げ落ちてしまう。

額をぶつけながらも起き上がり鏡に向かって走った。

そうしなければならないと思った。


目の前には大きな椅子がある。

ガタガタと揺れる椅子になんとかよじ登って、鏡台に捕まりながら身を乗り出した。

鏡に映る自身の顔に小さな手のひらを当てる。

美しいラベンダー色の宝石のような瞳と目があった瞬間にすべてを理解する。


(わたくしはキャンディス……キャンディス・ドル・ディアガルドだわ。なのにどうしてこんなに胸がざわつくの?)


鏡から手を離して頬を撫でる。

そのせいでバランスを崩したのか体がゆっくりと後ろに倒れ込む。

ガタンッという大きな音と共に、キャンディスは後頭部を強く頭を打ちつけてしまう。

遠くから女性達が駆け寄ってくる。



「キャンディス皇女様!?」


「キャンディス皇女様、しっかりなさってくださいっ」



そんな声がぼんやりと耳に届いた。

遠くなっていく意識と頭が強く痛むのを感じながらキャンディスは目を閉じた。



───ディアガルド帝国。



広大な領地と複数の民族を支配する絶対的な君主が存在した。

それがヴァロンタン・ドル・ディアガルド。

グレージュの髪にアメジストのような瞳を持つ男性だ。


ヴァロンタン皇帝は先代皇帝を殺した後に兄弟たちを皆殺しにして、腐敗していた内部を破壊して新しい時代をもたらした美しき暴君である。


先代皇帝モアメッドの十番目の息子だった彼は爵位も持たぬ娘の子供だった。

モアメッド皇帝は街で働き、平民だったヴァロンタンの母を『美しい』という理由だけで召し上げる。

そのため、後宮での居場所はなく母とヴァロンタンは虐げられて心を病んでいく。

ヴァロンタンはそんな影響を大きく受けて歪んだ幼少期を過ごす。


女好きだったモアメッド皇帝の後宮には帝国から集められた女達で溢れかえっていた。

兄姉たちは爵位を持ち、後ろ盾も十分。

やりたい放題だった。

しかし力のないものたちは宮殿内で玩具にされ死んでいく。

その中にヴァロンタンの母も含まれていた。

ヴァロンタンの前で母親は自決。彼の前で母は最期にこう言った。

『アイツらを皆殺しにして……』

その言葉を残して息絶えた。


財政は枯渇しているにも関わらず、欲に溺れた皇帝を見てヴァロンタンは寝る間も惜しんで剣に打ち込みつつ、水面下で味方を増やしていった。


ヴァロンタンは帝国民と当時は平和で蔑ろにしていた軍部を味方につけた。

重い税制に苦しんでいた帝国民はヴァロンタンを支持した。

女性に入り浸り帝国軍を蔑ろにしていると不満を持っていた軍部はヴァロンタンに手を貸したのだ。


圧倒的な軍事力と民を味方につけて、皇帝を退位に追い込み、その後に宮殿に住む全ての者達を殺害。

宮殿と後宮は血に塗れた。

今も圧倒的な軍事力で帝国を支配しており何人も彼に逆らうことは許されない。


そしてヴァロンタンの子供は四人だけ。

それは国のバランスを取るために婚姻が組まれて、皇后一人につき一人だけ子供を授かった。

皆、母親が違い、水面下では自分の子供を後継にするために熾烈な争いが繰り広げられていた。


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― 新着の感想 ―
元々、皇女が除魔物排除の思想持ったのは父帝即位時からの素地有ったか。 逆にそれなら彼女責めるの酷な気も。 (自分の即位時、やむ無しと言え、血の粛清しまくり、その後の自分の治世も早めに後継決めて固めれば…
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