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こんなに優しくしてくれるはずはないと思いつつもキャンディスはニコリと笑みを浮かべた。



「と、とても美味しいですね!」


「……たまには悪くない」



怒られて処刑されるのかと早とちりしていたが、どうやらまだキャンディスの首は繋がったままでいられるようだ。

何故キャンディスを嫌っているはずなのに部屋に呼び出したりケーキを与えられたりしたのか理由がまったくわからないが、生きて帰れたらそれでいい。

キャンディスが安心感からホッと息を吐き出したのも束の間、ヴァロンタンから昨日のことが問いかけられる。



「昨日は何故泣いた?」


「……ッ!」



キャンディスはまさかこのタイミングで問われるとは思わずに体を固くした。


キャンディスは必死に言い訳を考えていた。

しかしいい言い訳も思いつかずに口篭っていると、再び感じる圧力のある視線。

ケーキを食べて機嫌もよさそうだったのに今は鋭い視線をこちらに送っている。


(このまま何も抵抗できないまま殺されるなんて嫌よ……!)


焦ったキャンディスは何か言わなければと思うものの、前の時間軸では死ぬほど嫌われていて、首を斬られた記憶があるということはさすがに言えないし説明もできない。

だが理由をきちんと言わなければ解放されないことだけはわかる。

パクパクと唇を開きながら言い訳を捻り出す。



「わ、わたくしが泣いたのは……っ」


「……?」


「───皇帝陛下の顔が怖かったからです!」


「ブハッ!」



音もなく部屋の中にいて、扉のそばにいたユーゴが吹き出している。

キャンディスの言葉を聞いて、ヴァロンタンがどう思ったのかわからない。

しかしこれ以上、何かを口にしては死が近づくだけだと口をつぐんだ。



「…………そうか」



しかし意外にも薄い反応が返ってきたことに安堵しつつも、次は何を言い出すかを警戒していたが、口元を押さえたまま何も言ってくることはなかった。

今度は逆に何故怒られないのかが不思議でしょうがない。


(おかしいわ。こんなに優しいのはどうして?いいえっ、これは何かの試練なのよ……!)


その考えを裏付けるように次々にされる質問。

質問されたら答えを返す…ということを繰り返していた。

キャンディスが紅茶を飲み終わる頃を見計らってかヴァロンタンは立ち上がる。


ユーゴや侍女にキャンディスを指さして何か合図を送った後に背を向けてしまった。

このまま立ち去るつもりだと思ったキャンディスはソファから降りてヴァロンタンを追いかけた。



「待ってください、お父様……!」



無意識にお父様と呼んでいたことにも気づかないまま服の裾を引いた。

今までにないくらい驚いているヴァロンタンを見て、自分が何を言ったのかに気づいて口元を押さえた。

しかし今は照れている場合ではないと「皇帝陛下、この度は美味しいケーキをありがとうございました」と目を見てお礼を言った。


(ジャンヌに何かをしてもらった時はお礼をと教えてもらったもの!)


キャンディスはお礼を言えたことに得意げだった。

しかしヴァロンタンは僅かに振り向いてから何も言わずに去っていってしまった。

それにはさすがにショックを受けた。


(わたくしからの御礼なんていらないと……そういうこと!?)


キャンディスはユーゴに声をかけられるまでその場で立ち尽くしていた。



「皇女様、もうお部屋に戻られますか?」



キャンディスはゴクリと唾を飲み込んでゆっくりとユーゴを見た。



「ユーゴ、わたくし……生き残ったわ」


「…………はい?」


「わたくし殺されなかったのよ!」


「どんな決意でここにいらしたんですか?」


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