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「……?」



キャンディスは固い枕に不満を持ちながら目を覚ました。

目の前にはバイオレットの瞳があり、その瞬間……時が止まった。

自分の置かれた状況を思い出すまでにどのくらいの時間を要しただろうか。

今、キャンディスはどこで寝ているのか、何をする予定だったのかを思い出したのと同時に血の気が引いていく。


(わ、わっ、わたくし……寝てしまったの!?)


どうやら居眠りをしながら何故かヴァロンタンに膝枕をしてもらっていたらしい。

最近、エヴァとローズに「皇女様、寝相が悪すぎですよ!」「どこで寝てるんですか!」と毎朝言われていることを思い出す。



「……目が覚めたのなら起きろ」


「ひゃい!」



キャンディスは低い声を聞いて慌てて体を起こした。

チラリと視線を横に流すと、なんとズボンにヨダレまで垂らしているではないか。

寝間着に染み付いているヨダレの跡を見てキャンディスは気絶しそうになる。


(──イャアァアアアアッ!?や、やっぱりわたくしのやり直し皇女ライフはここまでということ!?ここで殺されてしまうのは嫌よぉ!)


考え込んでいるタイミングで溜息が聞こえたキャンディスは大きく肩を跳ねさせた。

キャンディスは急いでハンカチを取り出して、ヴァロンタンの寝間着についたヨダレを拭き取るために服を掴む。



「ご、ごめんなさいっ」


「…………」


「待っている間に眠くなってしまいましたの……!」



しかしヴァロンタンの表情を見ると明らかに不機嫌そうで、今にもキレてしまうのではないかと思ったが震える手を伸ばした。

鋭い眼光に頭上に刺さっている唇を噛みながらヨダレまみれの衣服を叩こうとするとヴァロンタンはキャンディスの行動を制止した後に突然、するり寝間着を脱ぐ。

傷だらけの皮膚に引き締まったバランスのいい肉体を見てキャンディスも驚いて動きを止めた。



「…………着替え」



その一言で外に待機していた侍女がヴァロンタンのシワひとつない新しい寝間着を持って現れる。

そしてヴァロンタンが部屋の隅で着替えている間にキャンディスの前には新しい紅茶やお菓子、ケーキが置かれていく。



「???」



絶対に怒られてしまうと思っていたキャンディスの頭は疑問だらけだった。

ヨダレを垂らして怒られないだけでなく、何故か目の前に置かれていく豪華なティーセット。


体勢を立て直したヴァロンタンは向かい側のソファに腰掛ける。

ユーゴはヴァロンタンが見ていた資料をめんどくさそうにかき集めている。

キャンディスはユーゴに助けを求めるように視線を送るも笑顔でかわされてしまう。


皇帝の膝枕で寝て起きたらヨダレが垂れていたが、怒られることはなく目の前に用意されるお茶とお菓子。

ちなみに起きろと言われてからキャンディスに声をかけられることはない。


(どうしろというの……!?だれか教えなさいよっ!)


ヴァロンタンは何事もなかったかのように目の前で気怠そうに紅茶を飲んでいる。

キャンディスはとりあえず「申し訳ありません」と小さな声で呟いた。



「……」


「……」



しかし返事が返ってくることはない。


(これは怒ってるのよね!?お父様とこうやって二人きりで過ごしたことなんて一度もないからどうしたらいいのかわかんないわ。何故嫌っているわたくしにこんなことをしてくるの?……毒?もしかしてこれには毒がっ!?)


キャンディスの思考はどんどんと悪い方へと向かっていく。

息が詰まりそうな空気にソファの上で座りながら固まっていた。

改めて挨拶をした方がいいのか、出直した方がいいのか考え込んでいると……




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