表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/94

46.ヴァロンタンside2


キャンディスが寝息を立ててソファの上に丸まって眠っているのを見たヴァロンタンはその場で立ち止まる。

暫くキャンディスが寝ている様子を観察していた。


また以前のように泣かれてはたまらないと距離を取りつつ、サラサラのホワイトブロンドの髪をスッと一束掴んでみると、するりと手から滑り落ちていく。



「んぅ……?」



唸ったかと思いきやヴァロンタンの手をパチンと音が鳴るほどに払い除けたキャンディスに表情が曇る。

キャンディスはヘラヘラと笑ったと思いきや、突然に真顔に戻る。


扉が開いてお茶とケーキを持ってきたバイオレット宮殿の侍女たちがヴァロンタンが人差し指で唇を押さえる様子を見て、なるべく音を出さらないようにテーブルに並べていく。

一緒に部屋に入ってきたユーゴにヴァロンタンは『資料を寄越せ』と口パクで言ってから手をヒラヒラと動かした。


ヴァロンタンはユーゴが持ってきた資料を見ながらキャンディスが起きるまで待っていた。


キャンディスが突然、態度が変わって別人のようになったとホワイト宮殿で噂になっているとユーゴに聞いた時は多少の驚きはあった。

しかし実際に会ってみるとすっかり身なりや髪型、纏う雰囲気が大きく変わっていることに気づく。

アルチュールと笑い合う姿は母親のリナによく似ていると思った。


唯一の皇女、キャンディスはまだ五歳だが高圧的で我儘、気性も荒く浪費が激しく侍女をすぐクビにする。

ヴァロンタンも報告を受けていたが正直、面倒で近づきたくはないと思っていた。


何故なら幼い頃に母を甚振った女たちによく似ている。

それが心の奥底の触れてはいけない部分を刺激した。


マクソンスやリュカとは何度か顔を合わせたこともあるが、キャンディスは金切り声を聞いていつも引き返す。


しかしキャンディスはラジヴィー公爵の思惑から母親にも会えずにいるらしい。

キャンディスを操り人形にするつもりなのだろうが、危害がない限り、介入するつもりはなかった。

侍女や侍従も親しくなる前にやめさせてしまうため、ホワイト宮殿は常に人手不足。

ホワイト宮殿に篭りきりなのも気になっていた。


パーティーで顔を合わせた際にユーゴを大声で罵倒していた。

「皇女様、暗殺してきてもいいですか?」

そう冗談を言っていたユーゴだったが、昨日はキャンディスは当然のようにユーゴに御礼を言っていた。

まるで別人のようだと思い、驚いてしまう。


そのことで少し話してみるかと気が向いたものの、目の前で泣かれてしまうのはさすがに予想外だった。

ラベンダー色の大きな瞳からハラハラ涙が流れていく様子を見て戸惑ったのは事実だ。


子どもが好きそうなケーキなどを用意するように言って呼び出したが話す前に爆睡である。

確かに約束の時間に遅れたのは自分だが、この短時間に寝るとは思わなかった。


(図太いのか、神経質なのか……わからんな)


ヴァロンタンは資料を読みながら頬をつつく。

あまりのサラサラな皮膚とぽよんと跳ね返る柔らかさに衝撃を受けた。

ヴァロンタンはキャンディスの頬に触れて遊んでいた。



「待って……アル……めっ、むぅ……」



寝言なのかヘラヘラしながら嬉しそうにしているかと思いきや、突然と勢いよく起き上がったキャンディスに視線を送る。

しかし体勢を反対側に変えて、膝の上に頭を乗せるとモゾモゾ動いてから頭を再び気持ちよさそうに眠りはじめた。

さすがにそろそろ起こそうと思い、肩に触れて揺らすがキャンディスは起きるつもりはないようだ。



「へへ、らいすき……」



そんな言葉に手を止めた。柔らかくて細い、膝が異様に温かった。

小さくため息を吐いてから、再び資料に目を通していた。


そろそろ起きた頃かと部屋に様子を見に来たユーゴがヴァロンタンの膝の上で眠るキャンディスを見た瞬間、音もなく吹き出して腹を抱えている。

ギロリと睨みつけるとスッと視線を逸らしてから再び肩を揺らして笑いながら出て行ってしまう。


再び頭が動き、下を向いて確認すると、ラベンダー色の瞳が大きく見開かれていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ