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差し出されたのは先ほど放り投げた本。

どうやらヴァロンタンはキャンディスの落とした本を手渡そうとしただけのようだ。


(わっ、わっ、わたくしったら泣いてばかりで……!)


こんなところでベソベソと泣いていたら更に嫌われるどころか、軽蔑されてしまうのではないかと思い、なんとか冷静さを取り戻す。


(大失態ですわ……!淑女としてあるまじき行為ではなくって!?穴があったら入りたいっ)


記憶の混乱から感情の起伏の激しくなってしまったようだ。

チラリとヴァロンタンを見ると、まだ無表情でコチラを見ているではないか。


(こんなことになるくらいなら、ちゃんと前を見て歩けばよかったわ……!今度からバイオレット宮殿に行く時は気をつけないといけませんわね)


そんな湧き上がる後悔を押し込めて、キャンディスはヴァロンタンから差し出された本を震える手で受け取った。

小さく頭を下げてから、なるべくこの場を早く去るための言葉を紡ぐ。



「も、申し訳ございませんでした。本を取ってくださりありがとうございました」


「…………!」



キャンディスは口角を上げて無理矢理に笑みを浮かべた。

その顔をじっと見ていたヴァロンタンは、またもや無言でキャンディスを見ている。


(言いたいことがあるなら言ってくださいませ!もうお父様とこれ以上関わるのはごめんだわ)


キャンディスはあまりの気まずさに早々にこの場から立ち去ろうとした時だった。



「…………明日、来い」



ヴァロンタンはそう言うとキャンディスに背を向けて立ち去ってしまう。

キャンディスがポカンと口を開けたままその姿を見ていると、ユーゴが補足するように「明日、バイオレット宮殿の皇帝陛下の部屋にいらっしゃってください」と言った。

キャンディスは二人の姿が見えなくなってもその場で動けなかった。


(わたくしの人生が、終わった……!)


そんな感想が頭に思い浮かんでいた。

きっと先ほどの態度でヴァロンタンを怒らせたのだと思った。


キャンディスの鼻からタラリと鼻水が流れる。

そのまま呆然としていると何かを啜る音が聞こえて上を見上げた。

エヴァとローズが後ろで手を合わせながら鼻を啜り涙を流しているではないか。



「二人とも……どうして泣いてるのよ?」


「だ、だって怖かったんですもの!」


「私たちっ、殺されるかと思いましたぁ」



エヴァとローズがそう思うくらいなのだ。

やはり彼の圧力は半端ではない。

あんな冷酷な父親を前に以前のキャンディスは「お父様ぁ」と言って腕を組んだり触れたりしていたのだ。


(ど、どうしてわたくしは今まで殺されなかったのかしら)


今までよく平気だったと、そのメンタルの強さを見習いたいくらいである。

だがヴァロンタンを前にキャンディスは声を殺して泣いただけマシだっただろう。

普通の子供ならば間違いなく恐怖で泣き叫ぶはずだ。


アルチュールがいたら、彼を守ろうとキャンディスもまた違った対応ができていただろうが、まさか至って普通にキャンディスの本を拾って手渡すとは思いもしなかった。

いつもならば間違いなくキャンディスのことなどスルーでユーゴが対応するはずなのに。


(まさかお父様がわたくしに話しかけてくるなんて絶対におかしいわ……!何か、何か悪いことが起こるのよっ)


キャンディスはハンカチで鼻水を拭ってからローズに返して御礼を言うと、フラフラと自分の部屋に戻った。

そしてパタンと扉が閉まったのを確認してからベッドに倒れこむ。


そして自分の失態を思い出してうめき声を上げながらゴロゴロとベッドの上を転がっていた。

『明日、来い』その言葉の意味を考えては絶望しかなかった。


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