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【書籍化】悪の皇女はもう誰も殺さない  作者: やきいもほくほく
二章 悪の皇女は変化する
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ヴァロンタンが動いて腰にある剣が動いた音にキャンディスの背筋が凍る。

そして意地でもこの体制をキープしてしなければと踏ん張っていた。


(宮殿の内なのに、どうして剣なんか持っているのよ……!)


あの時、キャンディスの首を斬り落とした剣と同じ。

気が動転してるせいか、あの時のように斬られてしまうかもという最悪な考えが頭に浮かぶ。

そのままキャンディスのすぐ横にヴァロンタンが腰を屈めているのが横目に見えた。

剣の鞘がキャンディスの薄ピンクのドレスを掠める。

心臓の音が聞こえてしまいそうなくらいドクドクと音を立てていた。


(わ、わたくしのやり直し人生がぁ……!)


気に入らないという理由で殺されたくはないが、そんな理由でキャンディスもずっと人を殺めていたので自分もそうされるのかと思うと恐ろしいが受け入れなければと歯を食いしばっていた。

するとキャンディスの予想に反してヴァロンタンは剣に手をかけることなく立ち上がると、キャンディスに向かって問いかける。



「……これはなんだ?」



まさかヴァロンタンの方からキャンディスに話しかけられるとは思わずに驚いていた。

もう少しで足が震えて倒れてしまいそうだったため、そこは助かったと思うべきなのだろうか。


ヴァロンタンの手には先ほどリュカに教えてもらい選んでもらった本がある。

キャンディスがぶつかった拍子に落としたものが廊下に落ちてしまったのだろう。



「……っ、ぁ……!」


「……?」



今更ではあるがヴァロンタンの圧力や迫力が記憶と混ざり合ってしまい恐ろしいと感じていた。

目の前には自分よりずっと大きい体に低い声。

冷や汗をかいていたのと恐怖からかうまく言葉が出てこない。

ヴァロンタンはキャンディスが問いかけに答えないことに苛立っているのか、ますます威圧感は増していく。


(この頃からお父様に嫌われていたのね。そんなことに気づかずにわたくしは……)


暫くの沈黙が流れて、キャンディスはドレスの裾を掴んだ。

『ああ……愛おしいお父様!』

そんな声が頭の中で響いたような気がした。

父親を求めるキャンディスの声が脳内に響く。

キャンディスの肩が小さく揺れて次第に息が乱れていく。

足が崩れ落ちそうになるのを力を入れて必死に耐えていた。


『愛されたかった』

(もう愛されることはない)


『お父様はわたくしが好き』

(嫌われている)


『わたくしを見て!』

(このままだと殺されてしまう)


頭と体がバラバラになってしまいそうな違和感と死への恐怖や不安でいっぱいになる。

それはヴァロンタンから見て、今までのキャンディスからは想像できないしおらしい態度に見えたことだろう。


混乱からか頬には次々に涙が伝っていく。

キャンディスが泣いていることに驚いたのはユーゴだけではない。

ヴァロンタンも大きく目が開いているのが、ぼやけた視界で見えたが涙を拭うために小さな両手で顔を覆う。

喉を鳴らして涙する姿を見てユーゴが慌てている。



「ひっく……うぇっ」


「ああ、どうしましょう!皇女様が皇帝陛下の顔が怖すぎたのか泣いてますよ!?」


「…………」



ユーゴの言葉にヴァロンタンの眉が再びピクリと動く。

なんとか泣き止もうとするものの、蛇口の水のように一度溢れた涙はなかなか止まらない。

こんな風に感情が暴走してしまうのは子供だからなのだろうか。

ハラハラと溢れていく涙を見て、ユーゴたちは困惑しているようにも見える。


手の甲で目を擦って涙を拭っていたキャンディスを見かねてか、ローズが後ろから震える手を伸ばしてハンカチを差し出してくれた。


ハンカチで涙を拭っている間にヴァロンタンが目の前で膝をついているのを見て、キャンディスは動きを止める。


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