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それにまだ基礎的なマナーしか知らずに、宮殿内では好き放題していた時期だろうか。


正直、今はラジヴィー公爵には絶対に会いたくないと思っていた。

理由は怒りを押さえるのが大変そうなのと、どんなに頑張ったとしても母には会えなかった虚無感を思い出すからだ。


(はぁ……まさかお祖父様が来るなんて。面倒だわ)


しかし今までは『会いに来て』ばかり言っていたキャンディスが、一カ月も会うのを拒否すれば不思議に思うのも無理はない。

今日は何の用事があってきたのか知らないが、キャンディスはテーブルに散らばったラジヴィー公爵の手紙を探していた。


キャンディスは一番新しい手紙を読みながら嫌な予感をひしひして感じていた。

そろそろラジヴィー公爵がキャンディスを鍛えるために色々な講師たちを送り込んでくる時期だとわかったからだ。


(わたくしを完璧な皇女にするためにと、お祖父様はたくさんの講師を用意している。遊ぶ暇もなかったし、この時期から更に厳しい人を送り込んできたもの)


実際はキャンディスが宮殿で好き放題してわがままが酷すぎてヴァロンタンがラジヴィー公爵に「どうにかしろ」と言われて更に講師が送られてくることになるのだが、キャンディスがそんな事情を知る由もない。


五歳からラジヴィー公爵が用意した講師たちと朝から晩まで勉強、ダンス、マナーとみっちりとしごかれる不自由な日々はじまってしまう。


(それにわたくしがいくら頑張ったって、お母様には会わせてもらえなかったわ)


キャンディスはグッと手のひらを握り込んだ。

今だからわかるがラジヴィー公爵はキャンディスの『母親に会いたい』と言う気持ちを利用したのだ。

その結果、無事に皇女としてのマナーは身についたものの、逆にキャンディスのストレスは増していき、周囲に当たり散らすことになる。


宮殿内での評判は悪くなる一方で『悪の皇女』への道を進んでいくのだろう。


そして結局は母親に永遠に会うことはできないまま死んでしまった。

どうして一度も会いに来てくれなかったのか。

手紙を書いても返事がないのはなぜなのか。

キャンディスはあんなにも焦がれていた母に対してすら激しい怒りを覚えた。

それと同時に湧き上がる悲しみ。


(お母様は……わたくしのことなんてどうでもよかったのよ)


対価はもらえることなく、餌に釣られていただけだと理解したのは今だからだ。

今、キャンディスはラジヴィー公爵に強い不信感を抱いている。


(お祖父様の嘘つきだわ……!一度もお母様に会わせてくれないなんて)


ラジヴィー公爵は母親が死んでしまいキャンディスを思い通りに動かせなくなると思ったのか、ここまでキャンディスにかけた労力が金が惜しかったのかはわからないが、今度は『父』に対象をすり替えた。


そこから父親であるヴァロンタンに対する執着がはじまったのだ。

キャンディスは震える手で首元を押さえた。



「キャンディス皇女殿下、顔色が悪いですが大丈夫ですか?」


「え……?ああ、大丈夫よ」


「そろそろ行きましょう。でなければラジヴィー公爵が……」


「…………」



どう対処すればいいかわからないのもあるが、単純に気が重い。


(ただ、愛されたいと思っただけなのに……)


いつかはラジヴィー公爵と向き合わなければならないと思っていた。

記憶を取り戻してから、理由をつけて講師たちの授業を休んでアルチュールと過ごしていたこともあり、心配しているのかもしれない、

また「母に会うこと」を引き合いに出してくるのだろう。

問題はどうすればラジヴィー公爵を黙らせることができるのか、だ。


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