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【11/12 コミック1巻発売中】悪の皇女はもう誰も殺さない  作者: やきいもほくほく
二章 悪の皇女は変化する

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* * *



アルチュールとのお茶会は終始、和やかな雰囲気だった。

また夕食の時に会おう、とアルチュールと約束してから別れた。

エヴァとローズと談笑しながら中庭を経由して部屋に戻ろうとしていた時だった。


剣を片手に首に掛けた布で汗を拭っているマクソンスと目が合った。

恐らく剣の稽古から部屋に戻る途中なのだろう。

エヴァとローズがマクソンスに深々と頭を下げる。


中庭は子供たちが住む宮殿と皇帝が住むバイオレット宮殿の入り口にある。

中は三つに分かれていて、ホワイト、レッド、ブルーとそれぞれ割り振られている。

偶然にも一日でリュカとマクソンスと会ったことに驚いていた。


マクソンスもキャンディスに気づいたのか、わずかに目を見張る。

キャンディスは母親に会いに行くこともないため、基本的にはホワイト宮殿に篭りきりだからだ。

頻繁に出入りするリュカとマクソンスと違って、キャンディスが珍しく見えたのだろう。


リュカと同じように今までマクソンスは『筋肉馬鹿』『汗臭い』と馬鹿にしていた。

毒で動けなくなっていたマクソンスをレイピアで心臓を一突きで殺したのだ。

あの時の自分は本当にどうにかしていたと思う。


(こんなわたくしがお父様に愛されることなんて絶対にないのに……馬鹿ね)


死刑回避のために真逆な対応を心がけようとキャンディスは今までとは違うにこやかな笑顔を作った。



「マクソンスお兄様、ごきげんよう」


「…………」


「剣の稽古をされていたのですか?」


「…………」



しかしこちらを睨みつけたままマクソンスは動かない。

カシスレッドの髪はあんなに短かったのに今は結えており、汗で額に張りついている。

吊り目で恐ろしい圧を発しているマクソンスだが、今はまだ成長した時よりも雰囲気が柔らかい。


だが剣のことしか頭にないのは相変わらずのようだ。

リュカの時と同じように、二人の間に気まずい沈黙が流れていく。

キャンディスの笑顔が引き攣りだした時にマクソンスは重たい口を開いた。



「…………オレに話しかけるな」



キャンディスは笑みを貼り付けたまま固まっていた。

そう言って横を通り過ぎたマクソンスに対して沸々と怒りが湧いてくる。


(わたくしが折角、挨拶をしたのになんなのよ!めちゃくちゃ腹立つわ……!あの筋肉野郎がっ)


キャンディスが頑張って振りまいた愛想を返してもらいたいくらいだ。

今度からは絶対にマクソンスに話しかけたりしないと思えるほどに苛立っていたキャンディスはエヴァとローズを連れて部屋に戻る。



「あの態度はなんですの!わたくしの笑顔を返しなさいよ!許さなくってよ!」



部屋に入るやいなやベッドの上にあるクッションに八つ当たりをはじめたキャンディスにエヴァを宥めるように言った。



「キャンディス皇女殿下、落ち着いてください」


「折角、アルチュールとお茶をして美味しいお菓子を食べたのに……いい気分が台無しだわ!」


「マクソンス殿下はああいうお方らしいので」


「先輩の侍女たちもマクソンス殿下のお世話は大変だと言っていましたよ。何より大変なのは護衛の方々で〝オレよりも弱い奴は護衛として認めない〟と言って、マクソンス殿下直々に叩きのめされるそうですわ」


「ふーん、そうなの……」



今までキャンディスからマクソンスに近づいたことはない。

自分と似たような雰囲気を感じ取っていたのかもしれない。

気に入らない奴を次々に切り刻んでいく辺りが……。

そのことを思い出してキャンディスは痛む胃を押さえた。


(毎日、剣の稽古をしているらしいし、とてもストイックなのね。わたくしもリュカお兄様の毒がなければ、さすがにあの脳筋には勝てませんもの)


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