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『お母様』という言葉にキャンディスの心がじくじくと痛む。

リュカはよく母親と共にいた。

リュカの母親、マリアはキャンディスにも優しく声を掛けてくれたこともある。

まさにキャンディスの理想の母親だった。

それを見たくなくてキャンディスはリュカを避けていたし、リュカがキャンディスの前に現れただけで「根暗がうつるわ。あっち行ってよ」と言って一蹴していた。


しかし今は不思議とリュカが親切心からそう言っているのだと気づくことができる。

チラリと後ろを振り向くとリュカはキャンディスに意見を言えたことが嬉しいのかほんのり頬を染めている。


改めて思うとキャンディスの記憶にある彼らとは違う。

幼いリュカはまだ人と仲良くしたり近づこうとしているのだとわかる。

しかしリュカの言う通りにアルチュールを避けるかと言ったらキャンディスの答えはノーだ。



「ですが、わたくしはこれからもアルチュールと一緒に過ごしますわ」


「え……?」



リュカの声色が一気に暗くなる。

キャンディスは背を向けたまま言葉を続けた。



「でっ、でも……お母様がっ!」


「わたくしはアルチュールと一緒にいたいと思うからいるのです」


「一緒に、いたいと思うから……?」


「えぇ。それに今は一緒に食事をしていて、このわたくしがマナーを教えてあげているのですよ!」


「……!」



キャンディスは驚くリュカを前に自慢げにフンと鼻息を吐き出した。

キャンディスはちょうど誰かにアルチュールがマナーを身につけたことをふんぞり返って自慢したい気分だったからだ。


(アルチュールはわたくしの手によって生まれ変わったのよ!)


再び流れる沈黙にキャンディスはそろそろアルチュールの元に行かなければと口を開いた。

いつもならリュカの肩にわざとぶつかって去っていくところだが、キャンディスはもう子供じみたことはやめたのだ。

ドレスの裾を掴んで丁寧に挨拶をする。



「リュカお兄様とお話できて嬉しかったですわ。わたくしはここで失礼いたします」



キャンディスがくるりと背を向けて笑みを浮かべるとリュカが肩を揺らしたのがわかった。

これ以上、リュカが話しかけてくることはなかったため早足でアルチュールの元へと向かう。


この間、キャンディスはアルチュールに初めて服をプレゼントしたのだ。

いつも同じボロボロな服を着て隣にいるアルチュールが自分の隣にいるのが許せない、という単純な理由だった。


(わたくしと一緒にいるのに、みっともない格好をされたらたまんないもの!)


今日はジャンヌに「これを着てくるように」と、アルチュールに服を渡していた。

キャンディスが買った服を着たアルチュールがソワソワしながらジャンヌと共に待っていた。



「アルチュール、待たせたわね」


「キャンディスお姉様……っ!」


「な、なかなか似合っているじゃない!」



不安そうだったアルチュールの表情がキャンディスの笑顔を見てパッと明るくなる。

上品な白のシャツに紺色のパンツを着るとそれなりに皇子として見えてくる。

天使のような見た目が最大限に引き出される上品な服にキャンディスは大満足だった。


(そうだわ、違うものも買ってあげましょう!次は何色がいいかしら。毎回、この一着だけ着てきたらみっともないから仕方なくよ!そう、仕方なく!)


キャンディスの元に定期的にやってくる商人にアルチュールが着れそうな服を次から持ってくるように頼んだ。

キャンディスは今まで商人がドレスや宝石を持ってくる度に値段を気にすることなく少しでも気に入れば何でも大量に購入していた。

そのせいでホワイト宮殿はゴテゴテの意味がわからない物で溢れ返っていた。

誰かが何かを言おうものなら即クビである。


「もっとマシなものはないの?わかってないわね!」

「わたくしが気にいるのもを持ってきなさい!そしたら全部買ってあげるわ」


商人にいつも上から目線で命令していた。

しかし商人からすればキャンディスはいいカモだったに違いない。

 

今回、そんなキャンディスを止めたのは侍女のエヴァとローズだった。

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