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キャンディスは無意識に自分の頬に触る。

以前、肌が荒れ放題だったキャンディスは認めたくはなかったがルイーズの珠のような肌に憧れていた。


それにキャンディスが決めたルール通りに動くとしたら『偏食ばかりして好きなものだけしか食べなかった』の反対は『バランスよく食事をする』である。


キャンディスは震える手でフォークを持って、サラダに手を伸ばす。

ゴクリと喉を鳴らしたキャンディスは色とりどりのサラダを頬張っていた。


(葉はあまり美味しくないけれど、このソースはなかなか美味しいじゃない。苦くて酸っぱいけれど悪くはないわ)


初めて食べるサラダの味に密かに感動しつつ、一つ一つ味を確かめながら口に運ぶ。


(牢の中での空腹とカビパンに比べたらなんだって美味しいわよ!)


ヤケクソな気持ちでキャンディスはサラダを口にしていた。



「これからはバランスのいい食事を……うぷっ」


「キャンディス皇女様っ」


「──このくらい耐えてみせますわ!」



キャンディスは強烈な苦味のある葉を吐き出しそうになるのを必死に堪えながら咀嚼する。

やはり今まで食わず嫌いだったものを気合いだけでいきなり食べられるわけではないようだ。

シェフはもはや理解するのを諦めたのか、ただただ首を横に振っている。



「皇女様……あの、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」


「何ですの?」


「突然、どうしたのですか?……具合が悪いとか」


「わたくしがそう決めたからに決まっているでしょう!?」


「かっ、かしこまりました……!」



キャンディスは鼻息をフンと吐いてからアルチュールに視線を送る。

ギュルギュルとお腹が鳴っているのに何も手を出さないアルチュールを不思議に思いつつ、キャンディスはなんて声を掛けようかと迷っていた。


必死に考えた結果、食べ物に気づいてないのかもしれないとさりげなくお皿をアルチュールの方へと寄せる。

アルチュールはキャンディスから差し出された皿を見つめながら固まっている。

ジャンヌも心配そうにソワソワしている。



「アルチュール、肉は嫌いなのかしら?」



キャンディスの問いかけにアルチュールは首を横に振った。

何を言っても食べようとしないアルチュールに困惑したキャンディスは怒りを込めつつもジャンヌに視線を送る。



「キャンディス皇女様、アルチュール殿下はまだテーブルマナーを知りません」



どうやらアルチュールはテーブルマナーを知らないことを気にしているらしい。

キャンディスの前でしおらしい態度を見せるアルチュールを見て、すっかり気分がよくなった。


(わたくしはもう、そんな些細なことを気にする女じゃなくってよ!)


一度死を経験したからこそ、マナーよりも大切なことがあると知った。

キャンディスはアルチュールに向かって、ある言葉を掛ける。



「あら、そんな些細なことを気にしていたの?なら今日は好きに食べることをこのわたくしが許可してさしあげますわ!」


「……!」



その言葉にアルチュールは驚いたように目を見開いている。

そしてアルチュールはある言葉を口にする。



「マナーをおしえてくださるのですか?」


「こ、このわたくしがあなたにマナーを教えろというの!?」


「だめですか?」



アルチュールがピンクパープルの大きな瞳が真っ直ぐにこちらを見つめている。


(も、もしかしてこの子……わたくしを試しているというの!?)


アルチュールの一言にキャンディスの心が騒ついた。

当然、お前はできるんだろうな、そういう意味にとらえたキャンディスはゴクリと唾を飲み込む。


(アルチュール、もしかしてこの子はすべて見透かしているというの!?なんて恐ろしいのかしら)


しかしここは負けるわけにはいかない。

キャンディスはアルチュールを毛嫌いしていたことなどすっかり忘れて、あることを提案してしまう。



「……っ、仕方ないわね。わたくしがあなたにテーブルマナーを教えてあげてもよくってよ!」


「……!」



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