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普段のキャンディスの様子を知るものたちの間に戦慄が走る。

ここにいるのが本当にキャンディスなのか顔を確認するほどだ。


アルチュールは目を見開いたまま呆然としていた。

ピンクパープルの瞳が揺れ動いているのを見て、キャンディスはどこかで見た顔だと首を捻った。


(この顔、誰かに似ているような……うーん、誰だったかしら)


周囲が静寂に包まれる中、アルチュールがキャンディスの手のひらに恐る恐る小さな手を乗せる。



「エヴァ、シェフにアルチュールの分も用意するように伝えてくれる?」


「…………」


「エヴァ、聞いてるのかしら?」


「あっ、は、はい!」



エヴァは慌ててキャンディスのダイニングルームと向かった。

キャンディスはアルチュールの手のひらを掴んで引き上げるが、今までアルチュールに触れたことなど一度もないため違和感は拭えない。

アルチュールは大きな瞳でこちらを見つめているが、キャンディスはアルチュールから視線を逸らす。


(わたくしは死を回避するためにアルチュールに優しくする。わたくしは死を回避するためにアルチュールに優しくする。わたくしは死を回避するためにアルチュールに優しくするんだから……っ!)


呪文のように何度も何度も言い聞かせるようにして心の中で呟いていた。

ふとフラフラと覚束ない足取りで立ち上がったアルチュールの細い腕や足は心配になるほどだった。


(……空腹って、本当だったのね)


そういえばジャンヌも他の侍女たちに比べると痩せこけている。

アルチュールが置かれた状況に興味をもったことがなく、事情をあまり知らずにいたキャンディスだったが、ふと自分が牢の中にいたことを思い出す。

カビだらけのパンで飢えを凌がなければならないほど追い詰められていた。

今ならば空腹の苦しさを誰よりも知っているではないか。


(お腹空いている時は美味しいものをお腹いっぱい食べるがいいわ!あんなに苦しい思いは、もう絶対にしたくないもの)


手を離すタイミングを見失いアルチュールと手を繋いだままキャンディス専用のダイニングルームへと歩き出す。

そんな後ろ姿を見ながら、キャンディスの変化に驚いて動けずにいたローズとジャンヌがハッとして二人の後を追いかけていく。


キャンディスは怯えながらもチラチラとこちらの様子を伺うアルチュールを見て、キャンディスはいつもの癖で睨みつけてしまう。

泣きそうになるアルチュールを見て、キャンディスは唇を無理矢理引き上げて笑顔を作りつつアルチュールに話しかける。



「ア、アルチュールはどんな食べ物が好きなのかしら」


「えっ、あ……っ、ぼくですか?」


「そうよ。わたくしは甘いものが好きなの。アルチュールは?」


「ぼくは……なんでも」


「あら、そうなの」



会話が続いたことにキャンディスは感動していた。


(わ、わたくしちゃんとアルチュールとコミュニケーションを取れた!喋れたのよ!これでわたくしとアルチュールは仲良し、ということなのかしら)


キャンディスにはその傲慢すぎる性格で友人が一人もいなかった。

それにキャンディスの気の触ることをしてしまえば殺されてしまうと噂が広まり、誰も近づいてこなくなる。


友人の作り方も知らず、侍女や従者たちにも一方的に話していただけだったので今回のアルチュールとの些細な会話でも、キャンディスにとっては大きな一歩だった。


(わたくしが本気を出せば、友人だってたくさんできたんじゃないかしら……!)


そんなことを考えながら長い長い宮殿の廊下を歩いていき、やっとダイニングルームへと到着したキャンディスは久しぶりにぐったりとしていた。

子どもながらに結構な距離を移動したような気がしたからだ。


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― 新着の感想 ―
優しくするのが主人公にとって苦行と言う中々の展開。
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