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キャンディスが肩を震わせながらクスクスと笑っていると周囲は青ざめていく。

そんな反応に気づいて咳払いをしたキャンディスはアルチュールに挨拶をする。



「ごきげんよう。アルチュール」



キャンディスが至って普通にアルチュールに向かって挨拶をしたことで辺りの時間が止まったように誰も動かなくなった。


そしてキャンディスが挨拶をしただけなのに今にも涙が溢れ落ちそうなアルチュールを見て、キャンディスはブチ切れそうになっていた。


(このわたくしが挨拶をしてやっているのに泣きそうになるなんて……どういうつもりかしら!?)


今更ながら躓いて額をぶつけたことにも怒りが湧いてくる。

込み上げる怒りを今までならばすぐに発散していたが今、そうするわけにはいかない。


キャンディスは挨拶したまま固まっていた。

額には青筋が浮かぶ。

このままではアルチュールと仲良くすることなど絶対に不可能ではないか。

そう思っていると見兼ねたジャンヌが小さく声を上げる。



「キャンディス皇女様、申し訳ありません。アルチュール皇子は今、あまり気分がすぐれないようでして……」


「気分がすぐれないですって?それはどういう意味かしら。今すぐに説明なさい」


「キャンディス皇女様が気にされるほどのことではございませんから」



まさかキャンディスが挨拶したから気分が優れない、という意味でジャンヌが言葉を返したことに怒りを感じて思いきり睨みつける。

ジャンヌはニッコリと笑みを浮かべているが、アルチュールの肩がビクリと跳ねた。

キャンディスの言葉にエヴァとローズは右往左往している。



「もう一度聞くわ。どういう意味なのか説明しなさい」 


「…………」



キャンディスとジャンヌの一即触発の雰囲気にエヴァとローズ、アルチュールは慌てている。

キャンディスがジャンヌの言葉を待っていると、アルチュールのお腹がグゥーと大きな音を立てて鳴る。

そういえば先ほどもアルチュールは「いい匂いがして」と言っていたことを思い出す。

あまりの大きな音に目を丸くしたキャンディスはアルチュールに問いかける。



「もしかしてあなた……お腹が空いているの?」



キャンディスの問いかけにアルチュールはどうしようかと悩んでいるようだったが控えめに頷いた。



「ふーん、そう……」



キャンディスの唇が綺麗な弧を描く。

この時、周囲で黙ってことの成り行きを見守っていた侍女や侍従たちはキャンディスの行動を予想していた。

いつものようにアルチュールを馬鹿にすることだろう、と。


キャンディスがアルチュールに会えばすることは侍女にアルチュールを退けるように言うか、これだから汚れた血を引く奴はと、目の前から消えるまで馬鹿にするかの二択だ。

今回はキャンディスがアルチュールを馬鹿にするのだと誰もが思っていた。


アルチュールが宮殿内での居場所はなく冷遇されている理由は、生まれが不明でマクソンス、リュカ、キャンディスのように母親に権力はなく、後ろ盾もない彼に侍女や侍従たちも媚びる意味がないからだ。


この時、アルチュールの面倒を見ているのは乳母であるジャンヌだけ。

周囲はジャンヌの「後悔しますよ?」という言葉に耳を貸すことはなかった。

そしてキャンディスや他の兄姉から疎まれるアルチュールに優しくする必要もなく、お腹を空かせて泣いていたアルチュールにキャンディスは運悪く出くわしたのだ。


キャンディスはアルチュールの前にしゃがみ込んで手を差し出した。

ジャンヌがアルチュールを守るために動こうと思った時だった。



「わたくしも今から食事なの。一緒に食べてあげてもよくってよ」


「……!?」


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― 新着の感想 ―
まあ第三王子側からしたら今まで、散々冷遇されてた相手からいきなり食事誘われたら、毒でも盛られると思うだろうな。
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