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存在を無視するようになったのは成長してから。

それまでは平民出身の母を持ち、何の後ろ盾もないアルチュールを見下していたのだ。

よく見るとジャンヌや抱きしめられているアルチュールの服はボロボロで着古している。


とても宮殿に住んでいる第三皇子とは思えない。

そのことが気になったキャンディスはアルチュールをよく観察するために近くに寄る。


周囲に緊迫感が走った。

アルチュールはキャンディスの姿を見て、さらに体を縮こませてしまった。

呟くような声で「ごめんなさい……おいしそうなにおいがしたから」と小さな声で呟く。


どこかから感じる鋭い視線……ジャンヌがキャンディスを睨みつけているではないか。

ジャンヌの姿はまるで子を必死に守る母親のようにも見えた。

胸がズキリと痛んだキャンディスはそっと瞼を閉じる。


(わたくしはアルチュールのこういうところを見たくなかったの。すごく心が痛くなるわ……)


だからこそ他の兄たちと違って、アルチュールを視界に入らないように避けていた原因は、ジャンヌから愛情を得ているアルチュールが羨ましかったのかもしれない。


だからキャンディスはアルチュールを嫌っていた。


いつもならここでキャンディスを睨みつけたジャンヌと視界に入ったアルチュールを怒鳴りつけて、気が済むまで暴言を吐きかけているところだが、これからはそんなことはしないと誓った。


今日、キャンディスは生まれ変わったのだ。


(もうこの程度で怒るわたくしではなくってよ!)


真逆なことをして運命を変えなければと思ったキャンディスはアルチュールへの今までの扱いを思い返した後に、一つの答えに辿り着く。


(わたくしはアルチュールを冷遇していたけど今から……可愛がらなければならないということ!?)


そんな結論に至ったことでキャンディスは自分の気持ちを押さえるように唇を噛んだ。

キャンディスが父であるヴァロンタン皇帝に殺されるのも、ルイーズを殺そうとしてアルチュールを殺してしまったのが発端だ。

つまりはキャンディスの最大の敵であるルイーズの兄となる男に優しくしなければならないということだ。


(そ、そんなの無理に決まっているでしょう!?コイツを可愛がるなんて……でもっ、そうしなければわたくしが命を落としてしまうというの!?)


キャンディスの頭の中では葛藤が渦巻いていた。

それにアルチュールやルイーズの出生にはいまいち謎が多い。

何故、母親はルイーズだけ連れていき、市井で暮らしていたのか……そこにも理由がありそうだ。


キャンディスは後々、ヴァロンタンがルイーズを可愛がることを知っている。

そしてルイーズは兄たちを味方につけ、父に取り入ってキャンディスからすべてを奪いとっていった。


だが、もし父であるヴァロンタンがキャンディスを気に入らないからと殺されそうになったとしても、アルチュールがルイーズを守ったように、キャンディスを守ろうとするのではないか。


そう思ったキャンディスはハッとした後に唇が綺麗な弧を描く。


(ウフフ、わたくしったらなんて頭がいいのかしら!そうと決まったら今日からアルチュールを可愛がって差し上げますわ!)


しかし今のキャンディスに誰かを可愛がる方法などわからない。

だが、アルチュールを餌付けして忠実な僕に育て上げれば恩を返すために守るくらいのことはしてくれるはずだろうと思ったキャンディスは自分の作戦の完璧さに酔いしれていた。


アルチュールがキャンディスを守れば生存確率が上がるはずだ。


(アルチュールと仲良くするのは、わたくしにとってプラスばかりじゃないの!それに妹を守ったように姉だって守るに違いないわ)


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― 新着の感想 ―
かなり打算的だが、そこが寧ろ良い。 いきなり聖人君主になんてならんもんです。
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