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「僕は何度か皇帝陛下に謁見した際にキャンディス皇女と是非結婚を、と仄めかしていたのですが……」
「へっ……? えっ、はぁ!?」
キャンディスは理解が追いつかずに変な声が口から飛び出てしまう。
ジョルジュがここまで動くなんて予想もしていなかった。
そもそもラジヴィー公爵が用意した婚約者で、たまたま顔が良かっただけ。
それなのにジョルジュからキャンディスと結婚したいと言うなんて想像もしたことがなかった。
(なっ……何を言っているのかしら。それにこの男、意外と図太いのね……!)
よくあの恐ろしいヴァロンタンに自分な要望を伝えられるとは信じられない気分だ。
キャンディスも一カ月前にやっと言えたというのに。
「そしたらキャンディス皇女様に相応しい男にならない限り無理だときっぱりと断られました」
「……お、お父様が本当にそんなことを?」
「謁見するたびに条件が増えていくのでなかなか大変なんですよ」
そう言ったジョルジュの言葉にキャンディスは驚いていた。
今はキャンディスの結婚相手はラジヴィー公爵が選別していることはないようだ。
(な、なんで……?)
キャンディスは状況がわからずに混乱するばかりだ。
「僕は皇帝陛下の条件をクリアしてキャンディス皇女様と結婚するために己を磨きます」
「どうしてそこまで……」
「僕がキャンディス皇女様を一方的に好きでいるのは自由ですよね?」
「だからわたくしは……っ!」
そう言うとジョルジュはキャンディスの包帯を巻いていない方の手を取り、その場に跪いた。
「あなたのことが気になるんです。キャンディス皇女様」
「そういいのはいいですわ」
キャンディスがまたいつものように適当に褒めているだけだと思っていた時だった。
彼がキャンディスの手の甲に口付ける。
アルチュールもミュリエルを彼の行動に驚いているのが見えた。
「今は信じなくていい……必ずあなたに振り向いてもらいますから」
「なっ……!」
「僕はあなたのことが好きだ」
ジョルジュの言葉にキャンディスの顔が真っ赤に染まった。
ミシュリーヌは口元を押さえながらチラチラとキャンディスとジョルジュを交互に見ている。
アルチュールは口をアングリと開けていた。
こんなことをジョルジュに言われたことは一度もない。
(ま、まだ婚約者でもないのにっ! それにジョルジュは子どもでしょう!?)
キャンディスは反射的に腕を引いて一歩後ろに下がる。
初めての気持ちに込み上がってくるものをどうすればいいかわからない。
ジョルジュと目が合った瞬間、キャンディスの心臓がドクンと音を立てた。
「わ、わたくしは好きじゃないですからっ」
「ははっ、今はそうですね。ですが未来はわからない」
「~~っ!?」
ジョルジュはそう言って立ち上がった。
「では、僕はマクソンス殿下と手合わせしてきますね」
「…………っ!」
キャンディスが警戒していると、ジョルジュを丁寧に腰を折って背を向けた。
今からマクソンスとリュカの元へ向かうようだ。
(手の甲にキスされるのなんて慣れているじゃないっ! いつものことよ。こんなこと特別でもなんでもないわ……!)
キャンディスがワナワナと震えていると、ジョルジュは『ブローチ、キャンディス皇女様のことを想いながら特注で作ったんです。いつか付けてくださいね』と言って扉は閉まった。
(そんなこと言われたら捨てられないじゃない……!)
キャンディスが悔しさから地団駄を踏んでいると、隣にいたアルチュールがテーブルにあったナプキンを取って手の甲をゴシゴシと拭いている。
「ぼく、ジョルジュ殿下を倒してきます……っ!」
「アルチュール!?」
怒っていたアルチュールはドシドシと足音を立てたながら部屋に出る。
アルチュールを追いかけようと立ち上げようとするもののミュリエルにピタリとくっついていて足を進められない。
ミュリエルと取り残されたキャンディスのそばからでてくるモンファ。
「あの男…………殺しますか?」
「モンファ、問題になるからやめてちょうだい!」
「大丈夫です。暗殺はユーゴさんに褒められるくらいうまいですから」
淡々と話すモンファの目は真剣だ。
キャンディスはモンファを止めるのに必死だった。
キャンディスはドッと疲れてしまい椅子に腰をかける。
先ほどまで賑やかだったお茶会は今は静まり返っていた。
(わたくし、一体どうなってしまうというの?)
キャンディスがこれからの未来について考えていた時だった。
「キ、キャンディス皇女様、大変です……!」
ローズが一枚の手紙を持って慌てて走ってくるではないか。
キャンディスの前で盛大に転んでしまう。
ミュリエルがローズを心配するように頭を撫でているのを見てほっこりしていた。
ローズもミュリエルの行動に感動していると、そばにいてキャンディスたちをずっと見守っていたエヴァが咳払いしたのをきっかけにローズは飛び起きる。
再び手紙を持ってキャンディスの前へ。
「母からの手紙が来たんですっ!」
「あら、よかったじゃない」
エヴァとローズが頻繁に母親と手紙のやり取りをしていたのは知っていた。
どうしてローズがこんなに慌てているのかはわからない。
「違うんです! それが……っ」
「……?」




