①②⑤
どこで情報を聞きつけたのか、ジョルジュはキャンディスが怪我をしたことを知っていた。
もちろんジョルジュのことを警戒しているキャンディスは、もちろんお見舞いなど大丈夫だと断っていた。
そもそもジョルジュが住んでいる王国からディアガルド帝国に来ることは簡単ではない。
彼がキャンディスに何を求めているかはわからない。
キャンディスはこんな頃からジョルジュに関わっていなかった。
けれどこうしてジョルジュは誕生日プレゼントを送ったり、毎回手紙を送ってくるのだ。
断っているのが申し訳なく感じるほどだ。
(どうしてわたくしにこだわるのよ……!)
キャンディスはため息を吐いてから、エヴァにジョルジュを部屋に案内するように伝える。
どうせジョルジュのことだ。
裏にも手を回してキャンディス以外の許可は取ってあるのだろう。
(……何を話せばいいの? 何を考えているかわからないから苦手なのよね)
以前のジョルジュの印象が消えないため、彼を警戒していた。
(そうだわ! この騒がしいままでいればさっさと帰るはず……!)
タオとマオ、ジャンヌたちがアルチュールたちを部屋の外に出そうとするがキャンディスがそれを引き止める。
ジョルジュもこれにはたまらず勝手にキャンディスに会いにくることなどなくなるはずだ。
ラジヴィー公爵がいたらもっと面倒なことになっていたに違いない。
キャンディスはそのままジョルジュを部屋に通すように頼む。
紅茶を用意して待っていると、ジョルジュは可愛らしい白と紫の花を持って現れた。
「キャンディス皇女様、突然申し訳ありません。怪我の具合はいかがでしょうか?」
そう言って顔を出したジョルジュだったが、マクソンスやリュカ、アルチュールがいることに驚いている。
アルチュールとミュリエルに至ってはジョルジュを警戒してか、キャンディスを挟むようにして体を寄せた。
エヴァたちがミュリエルを下げようとするがキャンディスがこのままでいいと合図を送る。
(フフッ、これで二度とわたくしに会いにこようなんて思わないはずよ)
キャンディスはジョルジュを遠ざけるために必死だった。
「お邪魔でしたでしょうか?」
「いえ……」
キャンディスは見たらわかるだろう、と視線を送るがジョルジュは花を渡し、折れた腕の心配をしている。
ゴロツキたちと戦ったことは伏せられていて、孤児院に慰問に行った際にキャンディスは転んだということになっていた。
「具合は大丈夫でしょうか?」
「はい、もうすぐ完治するそうだと医師には言われていますわ」
ジョルジュはテーブルの端に花を置く。
「あらまぁ……わざわざありがとうございます」
これもキャンディスへの気遣いだろうか。
胡散臭い笑顔を浮かべたジョルジュは今日も外面がよく輝いて見える。
そんな彼にいいように言いくるめられてしまうキャンディスだったが、今回はそうはいかないと気合い十分だった。
「皆さまは仲睦まじいのですね」
「……!」
ジョルジュの言葉にキャンディスは改めて辺りを見回した。
四人でお茶会をしているのだからそう見えてもおかしくないのかもしれない。
時が戻る前の関係性を知っているからこそ改めて考えると驚いてしまう。
(わたくしたちが一緒にお茶をしているなんて信じられないわよね)
ジョルジュはさすがに兄弟たちにじっと見つめられて、どうすべきか困っているように見えなくもない。
(フフッ、さっさと国にお帰りなさい……!)
しかしキャンディスがそう思っていたのも束の間、予想外のことが起こる。
「マクソンス殿下、今度僕と手合わせいかがでしょうか?」
「手合わせだと?」
マクソンスはジョルジュを見て眉を寄せた。
細身や柔らかい雰囲気から剣を握っているように見えない。
「ええ、自分で言うのもなんですが腕には自信がありますから」
「…………!」
ジョルジュはにっこりと微笑みながらマクソンスにそう言った。
単純なマクソンスは手合わせという言葉にテンションを上げた。
帝国には彼と同じ体格で強いものはいないらしい。
すっかりとジョルジュと剣の話で盛り上がっているではないか。
話が落ちつくと、マクソンスは「待っているからな!」と言ってどこかに消えてしまう。
リュカが持っている本へと視線を移したジョルジュはあることを口にする。
「リュカ殿下はそちらの本を読まれるのですか?」
「……え? もしかして君はこの本を知っているの?」
「はい。僕もその作者の本、すべて好きなんですよ……!」
「本当かい!? 僕も大好きだよっ」
ジョルジュは今度、リュカと話が盛り上がっているではないか。
しかもリュカと対等に話しているところをみるに、かなり知識が豊富で勉強家であることがうかがえる。
リュカも初めて対等に知識が話せることが嬉しいのか、いつもの倍以上に饒舌だ。
「ダルトネスト王国では流行病の際にこの薬草が使われました。確かに毒性がありますが、それだけではないとわかったんです」
「本当かい!? これは有益な情報だよ! ありがとう、ジョルジュ殿下」
「いいえ、お役に立てて光栄です」
二人の話が難しすぎて理解ができずに、キャンディスはカップを持ち上げて冷めた紅茶を啜る。
彼がマクソンスとリュカからあっという間に信頼を勝ち取っていくではないか。
文武両道で人当たりもいいダルトネスト王国の第二王子。
キャンディスは彼の顔がいいという理由で婚約していただけなのだが、こうしてみるとなんと恐ろしいことか。
(なんでもできるのね……本当に嫌味な男だわ)
○5章から2巻の内容ですが、1巻の書籍の内容を辿っているため辻褄が合わない部分があるかもしれません。
○ジョエルとキャンディスの恋模様は書籍版で掲載しています。




