①①⑦
首に向けられる刃、振り上げられる剣は一度目の人生と同じだ。
ゴロツキの男の姿がヴァロンタンに重なっていく。
キャンディスはゆっくりと瞼を閉じようとした時だった。
キン、と金属が打つかる重たい音。
いつまで経っても痛みが訪れないことを不思議に思い、瞼を開ける。
優しく体を起こされる感覚。
黒くて長い髪がキャンディスの前で揺れた。
「よくもキャンディス皇女様を……っ!」
そこにはキャンディスの護衛を解かれたはずのモンファの姿があった。
モンファはゴロツキのリーダーの男の首を足で挟む。
ゴキリと痛々しい音と共に口端から涎が垂れた男がドサリという音と共に地面に突っ伏した。
(モンファが、どうしてここに……?)
疑問に思っていると、キャンディスのぼやけた視界にはプラチナブロンドの髪が見えた。
「モンファ、殺すな」
アメジストのような紫色の瞳がキャンディスをまっすぐに見つめている。
「おと、さま……?」
「キャンディス、しっかりしろ……!」
まるで夢でも見ているようだ。
死に際にキャンディスのそばにはヴァロンタンがいる。
(ああ、お父様がわたくしの名前を呼んでくれた。わたくしを……見てくれているのね)
今回の死に後悔はない、そう思っていたがあることが頭を過ぎる。
『──お父様なんて大嫌い』そう言ってしまったのだ。
「…………ごめん、なさい」
「もういい、喋るな」
ヴァロンタンは返り血だらけのキャンディスを抱え上げる。
キャンディスは左手の激痛に呻き声を上げた。
「ユーゴ……コイツらを地下牢へ連れて行け」
「…………!」
「キャンディスを傷つけた罪を償わせてやる」
ヴァロンタンのあまりの迫力にキャンディスは痛みなど忘れて息を止めた。
一気に現実に引き戻される。
あまりの恐怖に体を硬直させている間にも影たちによってゴロツキは拘束されていく。
それからキャンディスの名前を呼ぶ複数の声。
「キャンディスお姉様っ、キャンディスお姉様あぁぁっ!」
キャンディスの元に向かおうと必死に名前を叫び暴れるアルチュール。
影の一人が彼を止めるように抱え上げた。
涙を流して暴れているアルチュールを安心させるようにニコリと微笑むことしかできない。
ミシュリーヌもキャンディスを見てポロポロと涙を流しているではないか。
(わたくしのことを心配してくれているのかしら……ミュリエルが無事でよかったわ)
キャンディスの意識は次第にはっきりしてくるが、痛みも大きくなっていく。
どうやらマクソンスとギーグ神父も無事のようだ。
マクソンスは影たち手を振り払い、フラフラとしながら立ち上がる。
自警団も武器を持って現れたのだが、彼らが駆けつけるのとユーゴやヴァロンタンが同じくらいの時間にここにいることが不思議で仕方なかった。
馬車で一時間半、馬でも三十分ほどはかかるはずだ。
丘の上にいる子どもたちは、助かったのだろうか。
「こども、たちは……?」
「皆、無事だ」
「そう…………よかっ、た」
キャンディスはホッと息を吐き出した。
(わたくしはいい皇女になれたかしら……)
そう思いながら目を閉じた。
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