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キャンディスは彼女の過去を聞いて驚いていた。
アルチュールは「……ミュリエル、可哀想」と呟くように言った。
同情するのと同時に自分よりもずっとつらい目にあっている子どもがこんなにもいることを初めて知ったことで衝撃を受けていた。
(ここにいる子どもたちはみんなそうなのかしら……)
マクソンスはそんな様子を見ていて思うことがあったのかしら。
こちらにやってくると二人の頭をポンポンと撫でた。
その触れ方がヴァロンタンと重なり驚いてしまう。
「マクソンスお兄様……?」
キャンディスが顔を上げた時だった。
遠くから「キャアアア」「助けてー!」という子どもたちの悲鳴が聞こえた気がした。
「……え? なにかしら」
「──お前たちは馬車に戻ってろ!」
「マクソンスお兄様!?」
マクソンスは剣を持ち、悲鳴が聞こえる方へと走っていく。
「皇女様、護衛の方々はいらっしゃいますか!?」
ギーグ神父の問いかけにキャンディスは首を横に振る。
裏口に馬車があった辺り、マクソンスは一人で出掛けるつもりだった。
それにキャンディスも逃げるように王宮を飛び出してきたため護衛などいない。
「最近、ここの教会を根城にしようとゴロツキ共がっ……今日はマクソンス殿下がいらっしゃるからと自警団には外れてもらっていたのです!」
ギーグ神父は急ぎつつもそう話す。
「キャンディス皇女様とアルチュール殿下もこちらへっ!」
いつもは自警団が守ってくれていたが、いないということは、ゴロツキにやられてしまったのだろう。
「君は子どもたちを連れて街に降りて自警団を連れてきてくれ!」
「は、はい!」
シスターは頷いてから近くにいた子どもたちを集めている。
「私はマクソンス殿下と子どもたちを彼らから何としても守る……! たとえ私がどうなっても、だ」
神父はどこからか大きな剣を持ち出した。
シスターにも「皇女様たちを必ず守れ」と言って短剣を渡しているではないか。
(武器をたくさん持っているのね。なんて物騒な神父なのかしら……)
キャンディスはその状況を見て呆然としていた。
それからある記憶が蘇ってくる。
(いつだったか忘れたけどマクソンスお兄様は大怪我をして……それから孤児院が一つなくなったんじゃなかったかしら)
ぼんやりとしか思い出せないが、キャンディスがよそ見をしていて棚にぶつかり足に擦り傷を負った。
珍しく医師の元に行こうと彼らはレッド宮殿に出払っているという。
ホワイト宮殿はいつもより騒がしくその時に勤めていた侍女たちに問いかけたのだ。
(ゴロツキたちが孤児院を襲って子どもたちがたくさん死んだのよ。かなり大騒ぎになったはずだわ。この時、わたくしは「どうでもいいわ」と言って、医師を呼んでこれなかった侍女をクビにしたのよ!)
子どもたちの半分以上と神父も亡くなったそうだ。
その神父というのが元軍部で、怪我で軍部を抜けるまでマクソンスの剣の師範だったそう。
(だからギーグ神父は剣を持っていたのね)
シスターは攫われて女の子たちは売り払われたと聞いたがキャンディスは何も思わなかったのだ。
それからマクソンスが大怪我をしたということで宮殿中は数日の間、大騒ぎ。
ラジヴィー公爵の指示で仕方なくレッド宮殿に花を持ってお見舞いに行のだ。
包帯でグルグル巻きで眠るマクソンスを見て、キャンディスが思ったことは……。
(ぷっ……いい気味だわ)
だったはずだ。
我ながら性格は捻り曲がっていたが、キャンディスの記憶が正しければこの日からマクソンスは圧倒的に強さに執着するようになった。
更に訓練に打ち込み、弱い奴を淘汰して徹底的に許さなくなった。
(まさか孤児院って、この孤児院のことなのかしら……?)
キャンディスの記憶が正しければ、今から起こることは最悪の事態なのではないだろうか。
怯える子どもたちを宥めるシスターにキャンディスは声をかける。
「シスター、あの丘の裏に乗ってきた馬車があるわ。そこに子どもたちを避難させて街へと向かいましょう」
「え、えぇ……!」
キャンディスが馬車が置いてある場所へと案内する。
一緒に逃げてきた子どもたちは十人ほどはいるだろうか。
キャンディスとアルチュールの周りにいたのはほとんどが女の子だった。
(でも彼女たちは確実に救えるわ。これだけの人数なら馬車に全員乗れるはず……)
ということは残りの子どもたちは孤児院に取り残されてしまったことになる。
その中にはキャンディスに何かを見せたいと孤児院に戻ったミュリエルも含まれている。
(ミュリエルがあそこに!? 孤児院の子どもたちは半分以上死ぬって……)
キャンディスはそう考えてゾッとした。
まだ少ししか孤児院にいないが、このまま放っておけないとキャンディスは強く思った。
(これ以上、悲しい思いをするなんて可哀想じゃないっ!)
誰にも助けてもらえない悲しさはキャンディスが一番よく知っている。
キャンディスが動こうとしたのだが、アルチュールは頑なにキャンディスのそばを離れようとしない。
キャンディスは戦う術を持っている。
正確には知っているだけだが、万が一があった時はキャンディスは自分の身を守れるがアルチュールまで守れない。
つまりアルチュールがいれば足手纏いになってしまう。
キャンディスはシスターに先にアルチュールを馬車に乗せるように頼む。
「アルチュールを連れていって。お願い!」
シスターは大きく頷いて、暴れるアルチュールを馬車に乗せた。
「キャンディスお姉様……!」
アルチュールは馬車の窓を押していき、ねじ込むように顔を出す。
「アルチュール、みんなを守るのよ!」




