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【11/12 コミック1巻発売中】悪の皇女はもう誰も殺さない  作者: やきいもほくほく
六章 皇女は護衛を欲する

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103/104

①⓪③

キャンディスのひとり言はモンファにしっかりと届いていた。

大きな勘違いを生みながら。

モンファがキャンディスが救世主のように見えていた。

檻の中にいる自分たちを差別することなく受け入れて、外に連れ出そうとしてくれている。

そのことはモンファの今までの価値観を壊して、心を大きく揺れ動かしていく。


(ユーゴさん、あなたの気持ちが初めて理解できました。アタシもキャンディス皇女様のおそばにいたい……)


自分の愚かさを反省するのと同時に、自分よりずっと小さなキャンディスの言葉に感激していた。

こんな気持ちになったのは初めてだった。

自然と涙が流れていく。繋いだ手が温かくて心地いい。

キャンディスは眠気に抗いながら口を開く。



「あなたを、一人に…………しないわ」


「…………!」


「ずっと……わたくしと、一緒にいなさ……」



キャンディスはそのまま眠りに落ちる。



「ありがとうございます。キャンディス皇女様……アタシは命をかけて必ずあなたをお守りいたします」



キャンディスの柔らかく小さな手を握りながらモンファは目を閉じた。



* * *



カーテンが開く音。明るい光を感じでキャンディスは眉を顰める。



「うー……」



昨日、寝るのが遅かったからかまだ眠たくて仕方ない。

光を避けるようにシーツを頭まで被る。

キャンディスに起きるように声をかけるエヴァとローズを避けるようにベッドを転がっていく。


いつも通り、ホワイト宮殿の朝だ。



「キャンディス皇女様、朝ですよ! 起きてくださいませ」


「さては夜更かししましたねっ!」


「……んぅ」



キャンディスは何度か瞬きを繰り返しながら、両手を上げていた。


(何か……大切なことを忘れているような気がするわ)


クッションを抱きながら、ボーッとしているとエヴァとローズが忙しなく動いている。



「エヴァ、ローズ…………忙しい?」


「ホワイト宮殿は常に人が足りていませんから」


「皇帝陛下もお忙しいですし、使用人を雇うのにも慎重ですからね」


「……そうよね」



(人手が足りない……女性……ロンの一族を侍女にしてしまえばいいんじゃないかしら…………あれ? モンファは……モンファは!?)


その言葉を聞いて、昨日一緒にいたはずのモンファの姿がないことに気づく。



「──モンファはどこっ!?」


「昨日、紹介してくださった護衛の方ですか?」


「また隠れてキャンディス皇女様を護衛しているのではないでしょうか」


「いいえ、違うの! 昨日、眠る前までは一緒にいたのよ! モンファ、モンファはどこ!?」



モンファからの返事はない。

キャンディスは寝間着のまま部屋から飛び出していく。



「……キャンディス皇女様っ!」


「どこに行くのですか!?」



エヴァとローズの呼び止めることが聞こえたが、キャンディスの足はバイオレット宮殿へと向かう。

懸命に走っていたが、長い廊下で息絶え絶えになってくる。

寝起きで全力で走るのは辛いものがあった。


(くるし……っ! でももう少しでバイオレット宮殿だわ……!)


キャンディスが目を閉じて全力で走っていた時だった。

足を動かしているはずなのに前に進んでいる感覚がない。

脇に違和感を感じてキャンディスが目を開くと体が宙に浮いているではないか。



「あれ……?」


「こんなところで一体何をしているんだ?」



聞き覚えのある低い声。

顔を上げると、そこには父親であるはずのヴァロンタンの姿。

どうやらキャンディスはヴァロンタンに抱え上げられたまま必死に走っていたようだ。

その後ろにはいつものようにユーゴがにこやかに微笑んでいる。



「ユーゴッ、モンファをどこにしたの!?」


「モンファ?」


「キャンディス皇女様の護衛候補です。ですが……」


「──モンファはわたくしの護衛なんだからっ」



キャンディスが叫びを聞いて、ヴァロンタンがじっとユーゴに視線を送る。



「彼女はキャンディス皇女の護衛に相応しくありません」


「ふさわしいかどうかはわたくしが決めるわ!」


「申し訳ありません。キャンディス皇女様のためですから」


「お父様、降ろしてくださいませっ」



キャンディスはヴァロンタンに床に下ろしてもらう。

それからユーゴの元へ行き、背伸びをして逃げられないように彼の服を掴む。



「モンファたちを守るって約束したんだもの!」


「キャンディス皇女様……どこまで聞いたのですか?」



キャンディスの言葉を聞いてユーゴの纏う雰囲気が変わる。

いつも糸目で優しめな目元なのに、今はこちらを睨みつけるように開いている。

キャンディスの失言によってモンファが責められてしまうかもしれないと懸命に考えを巡らせる。



「しゅ、主人として護衛の事情を知るのは当然よ! わたしが話すようにモンファに……えっと、えっとそう命令したのっ」


「…………」


「それとロンの一族の影じゃない女性は、みんなわたくしの侍女にするわ!」


「なっ……!?」


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