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【11/12 コミック1巻発売中】悪の皇女はもう誰も殺さない  作者: やきいもほくほく
六章 皇女は護衛を欲する

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①⓪②

「ですが……っ」


「ですがじゃないわ! わたくしがあなたを気に入ったと言っているの」


「…………え?」


「あなたはこのままわたくしの護衛として仕えてちょうだい。いいわね?」



キャンディスの命令のような口調にモンファは驚いている。

それとキャンディスはモンファがずっと使っている黒いローブを剥ぎ取る。



「それからわたくしの護衛ならばその辛気臭いローブを取り去って、堂々としていなさい」


「ですがこの色ではキャンディス皇女様のご迷惑に……っ」


「──ならないわっ! わたくしはあなたをそばに置くと決めたの」



キャンディスは自信満々にそう言い放つ。

モンファは次第に涙目になっていく。

そして震える声でキャンディスに問いかける。



「本当なやアタシでいいのでしょうか……」


「わたくしはあなたじゃないとダメなのよ!」



今はモンファしかキャンディスのそばにはいてくれないではないか。

キャンディスはエヴァがローズの涙を拭いてくれたように、ハンカチでモンファの涙を拭う。



「それにこの件のことでわたくしにいい提案があるのよ」


「いい提案とは……?」



モンファが首を傾げた時だった。

キャンディスの部屋の扉に高速なノックの音。



「あっ……ユーゴさんがっ」



モンファの反応からして間違いなくユーゴではないだろうか。

今から何か言われるのだとわかっているのだろう。

彼女の肩は小さく震えているような気がした。


(このままだとモンファが護衛を続けられないわ。なんとしても阻止しなくてはっ)


キャンディスはモンファの代わりに扉に手をかける。

小さな体では豪華な扉を開けるのすら苦労する。

ユーゴは珍しく慌てているのだろう、キャンディスの存在に気がつくことなく扉を通り過ぎようとするのを体全体を使って引き止める。

部屋に入れない。モンファの元へ行かせないようにする。



「ユーゴ! わたくしはここよっ」


「キャンディス皇女様……っ!」


「こんな時間にレディの部屋に入ってくるなんていい度胸じゃない!」


「それは……」



ユーゴの返事にいつものキレがない。

キャンディスはモンファの前に仁王立ちしつつ腕を組む。

ユーゴの背後には影が二人ほど立っているではないか。



「モンファと今後の方針について話し合っていただけよ! 邪魔しないでちょうだい」


「はぁ……キャンディス皇女様、一度モンファと話をさせていだけますか?」


「嫌よ……っ!」



困惑したように笑うユーゴがキャンディスの視線を合わせるように膝をつく。

張り付けたような笑みは怒りを孕んでいるような気がした。

ここで引いたらモンファを取られてしまうかもしれない。

そんな考えから彼女を守ろうと必死だった。


(ユーゴは完璧主義なところがあるから、きっとモンファを責めるわ。わたくしも十歳からレイピアの練習をしていたけど、自分よりも大きな相手に立ち向かうって怖いことだもの)


キャンディスもラジヴィー公爵の思惑通りにレイピアを振っていた。

恐怖は次第に薄れていき、当たり前のように人を傷つけるようになった。

肉を裂いて心臓を一突き。それで煩わしさから解放されると思っていた。

どうしようもない寂しさから逃れたかったのかもしれない。



「キャンディス皇女」


「わ、わたくしは悪夢を見たの。だからモンファと一緒にいるわ」


「…………」


「もう眠いの! 今日はわたくしの部屋から出て行ってちょうだい」



キャンディスはそう言ってユーゴや影だちをぎゅうぎゅうと押しながら部屋の外に追い出していく。

ユーゴたちも夜遅いことやキャンディスの頑な態度に踵を返すしかないようだ。



「わかりました。夜分遅くに失礼いたしました」



ユーゴはチラリとモンファに視線を送ってから去っていく。

閉まっていく扉にキャンディスはホッと息を吐き出した。



「キャンディス皇女様……申し訳ありません。ご迷惑を……」


「いいのよ。モンファ、一緒に寝ましょう」


「……へ!?」



キャンディスはあくびをしながらベッドに寝転がる。

そしてぱんぱんと隣を叩いた。

窓を見て眠ろうとしていたのだが随分と遅くなってしまったようだ。

ベッドに寝転んだ途端、急に眠気が襲ってくる。


モンファはベッドに膝をついてキャンディスにシーツをかける。

不満そうに頬を膨らませたキャンディスが、眠った後にモンファがどこかいかないようにと手を握った。



「どこにも行かないでね……わたくしの護衛はあなたしかいないんだから」


「……キャンディス皇女様」



モンファは驚いたように目を見張る。キャンディスは何度か瞬きを繰り返すと視界は真っ暗になっていく。

手のひらはゴツゴツしていて擦り切れている。

彼女がずっと努力してきた証だ。繋いだ手が温かくて心地いいと感じた。


(明日はユーゴと話して……そうよ。モンファは絶対に渡さないんだから。それから、ロン一族を救うの……わたくしが……ああ、そうだわ。お祖父様は絶対無理だから、お父様に頼んでみても怒られないかしら……)


いいアイディアを思いついたとキャンディスは笑みを深めた。

そのままどんどんと眠気が襲ってくる。

ギュッと手のひらを握ると、モンファも握り返してくれた。



「わたくしはモンファと外に行くの。二人で一緒に……」


「……!」


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