余談
第1章からの続きです
砦のリデア国傭兵部隊を壊滅させた後、カイはサイジアの町に戻ってきた。
町長は傭兵部隊の報告を受け、カイに約束通りの報酬を払った。
カイは報酬を受け取った後、サイジア町の表通りから脇道に入り、裏通りに入っていく。
サイジアはロイデン王国の中では比較的豊かな町であるがそれでも貧民街はある。
貧民街には素性の知らない様々な人間がおり、誰もカイには気を止めない。
裏通りに住む人間は他人に関心を持たない。それがトラブルを避けることに繋がることを知っているからだ。
カイはふらり裏通りを歩き、ある建屋の扉を開く。
そこには窓のない部屋であり、ランプに火をともすと、ベッドが一つ、机が一つ、本棚が一つの簡素な光景が現れた。
カイは机に座り、ノートを広げ、『日本語』で書き出す。
書いている内容は今回の仕事の内容でカイは毎回、仕事をすべて書くことが習慣となっている。
本棚には仕事の記録帳がびっしりと並べられていた。
そして今回の仕事について記録帳を書き終えた後、
カイの部屋の扉を開ける者がいた。
「相変わらず仕事が早いわね」
この部屋に入る人間は一人しかいない。
「テイルか・・・」
その女性は10代の少女の頃の面影のなく、成熟した女性であった。
「また、変わったわね。今度はリラク人?」
「ああ・・・」
テイルはカイの秘密を知る数少ない人間だ。
そんな彼女はカイがこれまで年齢、性別、身分、国籍の人間に転生してきたことを見てきた。
カイの容貌が変貌する様を最も見てきた人間であろう。
「今回の仕事の件、サイジア町長から報告を聞いたわ。
それで何かリラク国軍の動向がわかったの?」
20年前テイルはただの開拓村の田舎娘であったが、紆余曲折を経て現在は町長の元で
秘書として働いている。
そして、彼女とカイは互いにとって重要の情報源となっていた。
「傭兵部隊は略奪を繰り返していたが、それは奴らにとっては小遣い稼ぎみたいなものだ。
実際には砦には糧食や装備は充実していた。略奪だけで賄える量じゃあない。明らかにリラク国かそれに準じる組織から援助を受けていたのだろうな。」
「リラク国じゃないの?国境付近だし、多少狭い山道を越え輸送することもできるんじゃない?」
テイルはカイがパトロンがリラク国と断定しないことが疑問のようだ。
「確かに多少は無茶すれば、糧食は運搬できるが砦の量を賄うのは難しいだろう。それに・・・」
「それに?」
「糧食の中のワインはロイデン国産地のラベルだった。」
「・・・それってロイデン国内の商人なり、貴族なりの協力者がいるってこと?」
テイルは眉をひそめ、険しい顔となり、カイに詰め寄った
「そうだろうな・・・。最も今回は殲滅を優先したため、詳細を調べる余裕はなかったがな。」
カイは喋りながら机で書き物を続けている。
テイルはその話を聞いて、頭を抱える。
「どっちにしろ、その背後にいるのはリラク国なんでしょ。
あの連中はまだ侵略をあきらめてないってことじゃない。」
「そうかもしれない。
本体はまだリラク国内の国境近くに残っていれば、いつでも再侵攻可能ってわけだ。」
「そのワインのラベルに産地とか何か書いてなかった? 糧食は他にどんなものがあった?」
テイルは糧食について尋ね、カイは記憶にある限り詳細に説明した。
「そう、それだけの種類を見れば、どの商会を扱っているか、仕入れルートをたどって、
支援者パトロンがわかるかもしれないわね。」
テイルが真剣な表情で推測を述べる。
(もう、10代のときのように右往左往していた頃の少女ではないな。人は変われば変わるもんだ・・・
もっとも俺の方は変わりすぎて、何も残っていないがな・・・)
「カイ、私は心当たりを当たってみるわ。
また何かあれば連絡するから。」
テイルは久々に会ったのだが、特に を温めることなく、仕事に戻ろうと部屋の扉を手をとる。
「わかった。忙しそうだな。」
「問題は山積みで忙しいどころじゃないわ。
まあ、一番の問題はあなたが経った今解決してくれたけど。」
感謝しているのか皮肉な態度なのかどっちともとれる表情を見せ、テイルはカイの部屋を後にした。
「ふー」
カイは一息ついたのち、仕事の記録帳を書き終え、本棚に記録帳を戻す。
そして、おもむろに本棚から最初の記録帳を取り出し、めくりだした。
「ここからが始まったんだな・・・」