10.帰路の途中に
翌々日、第3駐屯隊が村へ出発する準備ができ、タジーとテイルは隊についていくこととなった。
調査する隊員は2名、うちは1名はケニィであり、もう一人はケニィより一回り年上であろう隊員であった。
「ホーランだ。道中よろしくたのむ。」
ホーランと名乗った隊員はタジーとテイルに笑いかけた。
「よろしくお願いします」
タジーとテイルの二人は返事をすると
二人の隊員は馬にまたがる。
「二人は乗ってきた馬車で我々についてきてくれ。」
タジーとテイルはこの街で乗ってきた馬車に乗り、二人の兵士の後をついていく。
こうして二人の兵士と二人の村人、4人がテイジアの町から旅立った。
一行は馬車に合わせる速度でゆっくりと進む。
「この分だと、明日の夜までかかりそうだな。」
ホーランは昼の休憩時に地図を見ながら、そんな目測を立てた。
どうやらよくわかっていなかったが、タジーの村はテイジアの町は南東の方向、国境に近い場所に会ったようだ。タジー達はこれまで村の外に出ることはなかったため、道中でホーランは旅に必要な地図の見方や方角を知る方法、馬の世話など旅に役立つ知識を色々なことを教えてくれた。
どうやらホーランは年下の人間に対して世話好きなようだ。
一方、ケニィについては必要なことしか話さず、どちらかと言えば愛想のない男だった。
そして、道中は特に何事もなく進み、村へ通ずる山道に入る手前で野宿することとなった。
「さて食事にするか」
ホーランはあいも変わらずよくしゃべりかけていたが、
簡易のかまどを作り、鍋を用意するといそいそと料理を始めた。
テイルは興味深く覗き込み
「何を作っているんですか?」
とホーランに尋ねた。
「これは大麦の粥だ。ドライフルーツやナッツを加えたものだ。うまいぞ」
テイルはくんくんと匂いをかいだ。食欲をそそる匂いだ。
「そらできたぞ」
ホーランは木の器に粥を盛り、テイルとタジーに渡した。
「ケニィさんは?」
器の数が一つ足りないことにテイルが指摘すると
「俺はいらない。」
するとケニィは干し肉と乾パンをかじっていた。
「あいつは俺の料理を食いたがらねえんだ。うめえのに」
ガラガラと笑いながら、自分の器に粥をよそう。
「・・・・・」
「・・・・・」
穀物粥は塩とフルーツの甘みと苦みが合わさった微妙な味だった。
ホーランはそんな微妙な味つけの反応をした二人の反応を余所にうまそうに食べている。
(この人、いい人なんだけど味覚は微妙なんだ・・・)
しかし、食えなくはないため、タジーとテイルはとりあえず食べた。
食事を終えるとホーランは
「俺たちは交替で見張りをするから寝てていいぞ」
ということだったのでタジーとテイルは馬車の中で毛布にくるまって眠りについた。
翌朝、4人は再び村に向かって山道を登っていく。
山道と言っても斜面は緩やかで、道幅も十分あり、道も整備されていたため、馬車でも問題なく進むことができた。進んでいくうちに見覚えのある景色が見えてきた。
湖だった。
この湖は村から歩いて半日ほどかけた距離にある湖でタジー達は時折、魚や貝などを取りに来ていた。
そんな湖に沿って道を進んでいるうちにタジーにはある記憶がよみがえる。
(・・・あの夢だ。空から落ちてくる夢で見た湖はもしかしてこのあたりの湖なのか?)
タジーはおぼろげな記憶を元に湖を眺めなら山道を進む。
「ん?」
湖の波打ち際、岩場に何か光るものが見える。
タジーが目を凝らして見る。
はっとした顔をし、タジーは馬車を止めて降りると、岩場に向かって走り出した。
「タジー!どこに行くの!」
急に馬車をとめ、馬車から駆け出すタジーに驚き、テイルは叫んだ。
タジーはテイルの呼び声は聞こえ、兵士の2人も何か叫んでいたが無視して走り出した。
「あれは・・・、まさか・・・」
息も絶え絶えに全力疾走で駆けつけた岩場にあるものは・・・
人の遺体だった。
その死体はうつぶせに倒れ、痛いから大量の血が地面に赤く染めていた。
顔は見えず、背を向けて倒れていたが成人の男性のようだ。背中を斬られているような怪我はない。
「まるで高いところから落ちてきた死体みたいだ・・・」
周りに落ちるような崖や高い岩はない。
その死体の右手には金属製の腕輪・・・、いや腕時計が掛けられていた。
「さっきの光はこの腕時計に日の光が反射したものか・・・」
この死体の服装はタジーの村でもまして、テイジアの町の人が着ているのも見たことのない服であった。
「背広だ・・・」
タジーはこの死体の腕時計も背広も初めて見るはずだが、なぜか知っているものだった。
そして、死体は顔を下に向けているがおそらくつぶれてひどいことになっているだろう。
タジーは死体のズボン後ろポケットを探り、財布をだす。
そこには『日本語で書かれた自動車免許書』が出てきた。
氏名は『早多 楷』
(そうか・・・俺は・・・)
タジーはフラッシュバックのように記憶があふれ出す。
「俺は『楷』だった…」
タジー、いやカイはここに来る前に記憶が呼び出される。
「そうだ。俺は日本人で日本に住んでいた。
そして気が付けば夢で見た通り、空に放り出された・・・」
カイは顔を上げ、空を眺める。
(でもなんでだ? くそ!まだ記憶が曖昧か・・・)
わかっているのは日本に住んでいたはずの俺はどういう理由か、この土地の空に放り出され、
そのまま墜落した・・・
そして、俺はヤイルに転生し、次にはタジーに転生した・・
「俺、早多 楷は墜落死・・・ 衝撃的な死だな・・、全く文字通りの・・・」
カイはたまらなくつぶやいた。
主人公はいきなり転落死しました(笑)