第88話 不穏会議
グローリ領・ヴィンチェロにある、屋敷の一室には、改革戦士団の総帥「マスター」と、四天王のリーダー格「ソード」の姿があった。
2人共、黒を基調とした衣装を身に纏っており、マスターの顔全体には銀色の仮面、ソードは顔の上半分を青い仮面で覆っていた。
マスターとソードは、南都進軍に向けての最終確認を行っている最中だった。薄暗い部屋で小声で話す2人の姿は、悪巧みそのものである。そして、マスターが念を押すように言葉を口にする。
「ソードよ。諄いようだが、南都大公は必ず生け捕りにせよ。ネビュラとの交渉材料として有効に使わねばならん……」
「ええ。他の者は皆殺しで、よろしいのですね?」
「いかにも。出来る限り、残忍な方法で殺害せよ。南都の惨事を世に広め、人々に恐怖を植え付ける必要があるからな……」
「それと、我々に協力する意思がある者が現れたら?」
「……判断はお前に任せよう。使えない者はいらん」
「承知」
最終的な打合せが、終了したかと思われたその時、部屋の扉が突然開かれる。
姿を現したのは、ダミアンとジュエル、その2人の背後には四天王メンバーのサラ、チャールズ、アンディの姿もあった。
改革戦士団の最高幹部たちが一堂に集結し、部屋には物々しい雰囲気が漂っていた。錚々たる顔ぶれとはこのことである。
ダミアンは部屋に入るなり、マスターにある願い事を申し出る。
「総帥さんよ。頼みがあるんだ」
「頼み?」
「ああ。俺たちにもっと力を与えてくれよ。今のじゃ足りねえ。その証拠に、オジャウータンには手を焼いたからな」
マスターが持つ不思議な力。それは想人に強大な力を授けることができる能力だ。既にダミアンやジュエル、四天王メンバーは、マスターから強力な力を授かっており、化け物じみた強さを世間に知らしめている。しかし、ダミアンは自身の力に満足していないようで、マスターに能力の増強を申し出た。
するとソードがダミアンの願い出を退ける。
「ダミアン。既に総帥から十分すぎる能力は貰っている筈だ。オジャウータン相手に苦戦を強いられたのは、単にお前が総帥から貰った能力を引き出せていないからだ。後は自分自身の力で覚醒させてみせろ」
ダミアンはヘラヘラと笑いながら言葉を返す。
「ヘヘヘッ。俺に努力しろとでも? 嫌だね。俺はもう努力しねぇって決めたんだ」
「き、貴様……!」
ダミアンの言葉にソードが怒りで身を震わしていると、マスターが口を開く。
「何故、力を欲する?」
ダミアンは不敵な笑みを浮かべる。
「噂になってるぜ。虎のおっさんも南都に攻めて来るってな」
「可能性は大いにある。ここ最近、タイガーが不穏な動きを見せていると聞く。我々と一戦交える構えかもしれんな……」
「なら話は早い。タイガーって、目玉が飛び出る程強いんだろ? オジャウータンじゃ比べ物にならないらしいじゃん。だったらもっと力くれねぇと、俺たち殺られちまうぜ? そしたらアンタの計画も台無しだ」
ダミアンの隣に居たジュエルが口添えする。
「総帥。ダミアンと私たちに力を与えてください。南都をタイガーに横取りされるような事があれば、我々の今後の活動に大きな打撃を与えます」
そして、三角帽子を被った、赤髪と青い瞳を持つ、魔女のような格好をした女が言葉を口にする。彼女は四天王の紅一点「サラ」である。
「ジュエルの言う通りです。今は、十分過ぎる力を私たちに与えておくべきです。ならず者の私たちに力を与えてしまうのは、恐ろしいことでしょう。ですが、ご安心ください。私たちは総帥から受けた恩を仇で返すような真似は致しません」
四天王の一角、リーゼントの「チャールズ」も彼女の後に言葉を続ける。
「そうですぜ、総帥! 今はどんな相手でも確実に倒せる力が必要だ。俺たちが負ければ、この戦士団全体の士気にも関わってくる」
四天王メンバー、サングラスと金髪ロングヘアの「アンディ」も説得に加わる。
「南都で大敗を喫するようなことがあれば、改革戦士団のブランドに傷が付く。我々は最も恐ろしく、最も強い存在でなければならない」
再びジュエルが口を開く。
「この作戦が失敗すれば、今後、人々を恐怖で支配することは難しくなるでしょう。そうならない為にも、南都での作戦は万全な状態で望むべきです!」
ダミアンが勝ち誇った表情を見せる。
「そういうことだぜ、総帥さん。俺たちはな、恩人であるアンタの計画を成功させてやりたいんだよ」
ダミアンたちから説得を受けたマスターが、ゆっくりと口を開く。
「わかった。お前たちに最大限の力を授けよう……」
「そ、総帥!?」
マスターの発言にソードは驚いた様子を見せる。そんな彼にマスターが問い掛ける。
「ソードよ。お前も欲しいであろう? 他を圧倒する、最強の力を……!」
「……ありがたく、頂戴致します」
ダミアンたちはマスターに促されると、横一列に並んだ。マスターは彼らに向かって、右手を翳す。
「望み通り、お前たちには、最大限の力を授けよう!」
マスターはそう言い終えると、右手に力を送り込む。そしてマスターの右手が白く発光したと同時に、ダミアンたちの体も白光の光に包まれた。
ダミアンは感激した様子で、体内に流れ込むエネルギーを体感していた。
「凄え、凄えよ! 総帥さんよっ! 体全身に力が流れ込んでくるのがわかるぜ! 俺一人で、この星を支配出来そうな気分だ!」
他のメンバーたちも、体の底から湧いてくる力に興奮した様子だ。
マスターはダミアンたちに強力な力を授け終える。その力はダミアンの言葉通り、この星を支配できるレベルであろう。
ダミアンたちが歓喜の声を上げる中、マスターは脱力した様子で膝を落とす。透かさずソードが彼の側まで駆け寄る。
「総帥! 大丈夫ですか!?」
「ああ……問題ない。少々、力を使い過ぎた……」
マスターはソードの肩を借りながら立ち上がると、静かに口を開く。
「私の持ち得る限りの力をお前たちに与えた。これであのタイガーも、容易く討ち取ることができるであろう……」
そしてマスターがダミアンたちに釘を刺す。
「これだけの力を与えた。南都で失敗することは許さんからな……!」
マスターの言葉に、ダミアンは自信満々の笑みを見せる。
「安心しろって! 今の俺なら、オジャウータンが100人相手でも瞬殺できる自信があるぜ!」
マスターは笑いを漏らす。
「ホッホッホッ。それは頼もしい限りだ……」
「まあ、大船に乗ったつもりでいてくれ!」
「明日の日の出と同時に、南都を目指し出陣せよ。お前たちはその強大な力を以って、南都を火の海に沈めるのだ」
マスターの言葉に、一同、静かに頷くのであった。
休養のため部屋から退出しようとするマスターに、ダミアンがあることを尋ねる。
「総帥さん。アンタは南都に来ないのか?」
マスターはダミアンに視線を向けると返答する。
「私は、お前たちを見送った後、カルムタウンに向かう」
「へぇ〜カルムタウンか。お目当ては、あのおっさんか?」
「フフッ。奴も少しはできるようだからな。お手並みを拝見させてもらう」
「ハッハッハッ! それっ、めちゃくちゃ楽しそうじゃん!」
この時、カルムタウンにも、新たな魔の手が忍び寄ろうとしていた。
つづく……




