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第76話 エドガーと総帥と四天王



 ここはグローリ地方最大の街「ヴィンチェロシティ」

 ヴィンチェロは、各方面から延びる街道が交わる場所であり、古くから交通の要衝として栄えてきた。

 その中心部、街を見下ろすように(そび)え立つ、この巨大な要塞は、このグローリ地方を手中に収める、地方領主「エドガー・ブライアン」の居城である。

 この要塞は「ヴィンチェロ城」と呼ばれており、難攻不落の城として名高い。

 何重にも巡らした堀と城壁、四方八方に設置された多数の砲台、城内に設置された罠の数々。更にヴィンチェロ城には、強力な結界が張られており、空想術による外部からの攻撃に対しても高い防御力を誇っている。

 

 数日前まで、このヴィンチェロ城を50万の大軍(討伐軍)が包囲していた。その中には、王国で名を馳せる猛者も大勢含まれる。しかし、その討伐軍は、エドガーと手を組んでいた改革戦士団によって排除されてしまった。

 城を包囲していた討伐軍兵士の大半が戦死。残りの兵士は寝返ったり、投降するなどして、今は改革戦士団の手中にあった。

 アライバ渓谷を通過中だった70万の討伐軍本隊も、改革戦士団の襲撃に遭い、半数近くが戦死。更に総大将オジャウータンと副大将ヨノウータンも討死。生き延びた兵士たちは南都へ逃げ帰った。

 これにより、当初編成された150万のエドガー討伐軍は、30万のカルム駐留部隊を除くと、ほぼ壊滅状態。

 勝利が決まったとまで謳われていたエドガー討伐軍は、大敗という結果に終わってしまった。

 

 そして、ここはヴィンチェロ城の大広間。

 その大広間の上段に置かれたソファーには、一人の中年男が腰掛けていた。

 この中年男の正体は、今回の討伐の対象となっていた、エドガー・ブライアンだった。

 現在、エドガーの元には、5人の客人が訪れていた。

 エドガーはその客人たちを見るなり、嘆きの言葉を口にする。


「生きた心地がしなかったぞ? いつ城を落とされるかビクビクしておったわ。お前たちと手を組んだことを何度後悔したことか……」


 すると、その客人の一人、黒尽くめの男が、音声を合成したような野太い声で返事を返す。


「エドガー殿。それは悪いことをしたな。だが、そう臆病になる必要はなかろう。相手がどれ程の大軍であろうと、この堅固な城であれば、そう簡単に落とされることはあるまい」


「しかし、相手はあのオジャウータン。奴があと数日早くヴィンチェロに到着していたら、この城も危うかったかもしれん」


「オジャウータンがどこに居ようと結果は同じだ。我々の勝利は揺るぎない……」


 黒尽くめ男はそこまで言い終えると、上段のエドガーと向き合うようにして置かれたソファーに腰を掛ける。その顔は銀色の仮面で覆われており、表情を伺うことはできない。

 この不気味なオーラを放つ黒尽くめ男の正体は、改革戦士団の頂点に立つ、総帥「マスター」だった。

 マスターはエドガーの顔を見上げると、再び口を開く。


「エドガー殿。我々の力、信じてもらえただろうか?」

 

 マスターが問い掛けると、エドガーは彼を見下ろすようにして前かがみになり、ニヤついた表情で返答する。


「悪いが、俺は疑い深い性格でな。クボウ親子の首を見るまでは信用できない」


 疑うエドガーに、マスターも共感する。


「エドガー殿の言う通りだ。証拠がなければ、信じろと言う方に無理がある。だが、もう直、ダミアンが2人の首を持って帰ってくる。貴殿はまだ我々の実力を疑っておられるようだが、2人の首をご覧になれば、嫌でもその力を認めることになるであろう……」


 前かがみで話を聞いていたエドガーは、姿勢を崩すようにして踏ん反り返ると、ニヤッと笑みを浮かべる。


「何も、お前たちの実力を認めていないわけではない。現に、この城を包囲していた50万の兵を、たった数時間で蹴散らしてしまうのだからな。驚嘆している。しかも、あの4人だけで……」


 エドガーが視線を向けた先には、マスターが引き連れていた4人の男女が、ローテーブルを囲むようにしてソファーに腰掛けていた。

 エドガーは4人を見下ろしながら、言葉を漏らす。


「それにしても、大したものだ。只の荒くれ者の集まりかと思っていたが、これならタイガー・リゲルにも十分対抗できる。そうなれば、俺の天下がより一層近くなる……」


 エドガーが4人の男女に言葉を送る。


「お前たちには期待している。存分に働いてくれ!」


 傲慢な態度を見せるエドガー。するとソファーに座っていた、体格の良いリーゼント男が立ち上がると、エドガーを睨み付けながら、声を荒げる。


「おい、アンタ。さっきから黙って聞いていれば偉そうにしやがって! 俺はアンタに従うつもりは更々ない!」 


 リーゼント男の言葉にエドガーが眉間にシワを寄せる。


「何? 元海賊の分際で、公爵の俺に楯突くつもりか!?」


 このリーゼント男の名は「チャールズ」

 彼は、世界各国の海を荒らし回り、略奪の限りを尽くした、残虐非道の元海賊の首領である。

 そして今は、改革戦士団四天王の一角を担う、切り込み隊長担当だ。

 チャールズは腕を組み、仁王立ちしながら、エドガーに言葉を吐き捨てる。


「当たり前だろ!? なんの義理があって、アンタの駒にならなきゃいけねえんだ? 勘違いしてるんじゃねえぞ? このとっちゃん坊やがっ!」


「き、貴様……!」


 チャールズの暴言に怒りを滲ませるエドガー。すると、ソファーに腰掛けていた、金髪ロングヘアのサングラス男がチャールズに同感する。


「同感だ。俺たちはアンタの部下じゃないからね〜」


「クッ! お前は、詐欺王か……!」


「ちょっとちょっと! 詐欺王とは随分不名誉な二つ名だね。俺にはちゃんと、アンディという立派な名前があるんだからね〜」


「アンディ」と名乗る、この金髪ロングヘア男も改革戦士団四天王の一角を担う男。

 別名「詐欺王」と呼ばれている、世界に名を轟かす凄腕ペテン師だ。過去にとある国を欺き、富や力を搾取、崩壊へと導いた経歴がある。

 チャールズとアンディがエドガーに攻撃的な態度を見せていると、赤紫の三角帽子を被った小柄な女が彼らを制止する。


「あなた達、もうやめなさい。品が無いわよ? そのような下衆野郎の戯言など聞き流しなさい!」


 彼女の言葉にチャールズが苦笑いを浮かべる。


「サラ。お前が一番品が無いぞ……」


 魔女のような衣装に身を包む、赤髪と青い瞳が印象的な彼女の名前は「サラ」である。

 サラもまた、改革戦士団四天王の紅一点として、組織内で大きな存在感を放っている。

 サラは怒った口調で注意を続ける。


「とにかく、言い争ったところで何のメリットもないわ。無駄な行動よ。頭に来るのは分かるけど、少し頭を冷やしなさい。ソードもそう思うでしょう?」

 

 サラは、向かい側の席に座っていた男に意見を求める。その男は銀色の長髪の持ち主。顔の上半分は仮面で覆われており、ミステリアスなオーラを放っていた。

 彼の名は「ソード」

 ソードは改革戦士団四天王のリーダー格であり、マスターが最も信頼を置く人物でもある。多彩で強力な空想術を使うことができ、彼一人で一国を滅ぼす程の実力を持っているとまで噂されている。

 ソードは珈琲を一口味わった後、落ち着いた口調で話し始める。


「彼女の言う通りだ。ここで喧嘩をしても何も始まらない。元より我々は総帥の命に従うまで……」


 ソードが意見を述べた後、マスターがその場を取りまとめるようにして言葉を発する。


「そういうことだ。皆、仲良く手を取り合おうではないか。そうであろう? エドガー殿……」


 エドガーは薄ら笑いを浮かべながら、マスターに返事を返す。


「クックックッ……俺も喧嘩は望んでいない。俺もお前たちとはもっと仲良くしたいんだよ」


 エドガーはそこまで言い終えると、ソファーから立ち上がる。そして、四天王メンバーの顔を一人一人見つめると、彼らに言葉を投げかける。


「我々は、同じ夢を見る同志! 今から仲間割れなどしてどうする!? トロイメライに繁栄と安寧を(もたら)すために、力を合わせようぞ!!」


 エドガーは勇ましい声でそう言い終えると、雄叫びを上げながらガッツポーズを決める。その様子を四天王は冷ややかな目で見つめており、大広間にはマスターの愛想笑いと拍手だけが響いていた。


 その時である。

 突然、大広間の扉が開かれる。

 そして、扉の外から、あの青年が姿を現す。


「フッフッフッ。待たせたな、総帥さんよ!」


 マスターは青年の姿を見つめながら、その名前を口にする。


「ご苦労であった。ダミアン」


 そう。ヴィンチェロ城に姿を現した青年とは、改革戦士団最高幹部、黒髪の炎使いこと「ダミアン・フェアレス」だった。

 そして、彼の両手には、クボウ親子の首級が持たれていた。


「南都の雄、オジャウータン・クボウ……討ち取ったぜ!」


 ダミアンはそう口にすると、狂気じみた笑みを見せるのであった。



つづく……

ご覧くださいまして、ありがとうございます。

次話投稿は明日の19時頃を予定しております。

是非、ご覧ください。

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