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第71話 襲撃の後で



 嵐のように現れた改革戦士団は、ヨネシゲたちの敢闘の甲斐あり、カルム学院から立ち去った。

 夕色に染まる学院内では、保安官や領主軍の兵士が事後処理に追われており、慌ただしく駆けずり回っていた。

 現在、学院内には規制線が張られており、関係者以外の立ち入りができない状況だ。


 一部の職員や守衛、空想術部員が軽傷を負ったものの、他の生徒や来訪者たちから怪我人は出なかったのが不幸中の幸いである。これも多くの者たちの機転、そして勇気ある行動が(もたら)した結果であろう。


 襲撃の現場となった、空想術屋外練習場のグラウンドには、ヨネシゲ、マロウータン、ドランカド、3人の姿があった。彼らは、改革戦士団が会場に残した爪痕を静かに見つめていた。


 その沈黙を破るように、マロウータンは持っていた扇子を広げながら、ヨネシゲとドランカドの活躍を称え始める。


「ヨネシゲとドランカドと言ったな? 見事じゃった! お主らの勇姿、しかとこの目に焼き付けたぞ!」


 ヨネシゲは頭を掻きながら返事を返す。


「へへっ。ありがとうございます! まあ、私はこのカルム学院の守衛として、職務を全うしたまでです!」

 

 ヨネシゲがドヤ顔でそう言い終えると、ドランカドもマロウータンに言葉を返す。


「勿体無いお言葉です。私も元保安官なんで、保安官魂に火がついちゃいました。大人しく奴らの蛮行を見ていることはできませんでしたよ。でも、何を隠そう、マロウータン様のバリアが無かったら、観客たちに大きな被害が出ていたことでしょう。流石、オジャウータン様のご子息にして、南都五大臣のお一人ですな!」


 ドランカドの後に続き、ヨネシゲもマロウータンに賛辞を贈る。


「あれ程のバリアを使いこなせるとは! マロウータン様から空想術のご指南をいただきたいですな!」


 持ち上げる2人に、マロウータンは顔を赤くさせながら、持っていた扇子で口元を隠す。


「ウッホッハッハッハッ! 褒めても何も出ないぞ?」


 楽しそうに談笑する3人の元へ、カーティスとアランが姿を現す。


「ヨネシゲさん、ドランカド君」


「領主様!」


 ヨネシゲとドランカドはカーティスに深々とお辞儀する。そんな2人をカーティスは気遣う。


「2人共、そんなに畏まらなくてもいいよ」


 ヨネシゲとドランカドが頭を上げると、カーティスが感謝の言葉を述べる。


「今回の件、2人のお陰で被害を最小限に収めることができた。ヴァル君や他の空想術部員たちにも大きな怪我は無く、今は病院で手当を受けているよ」


「それを聞いて安心しました」


 ヴァルたちの容態を聞いて、ヨネシゲが安堵の表情を浮かべていると、カーティスが深々と頭を下げる。


「我が民たちを……そして息子のアランを助けてくれてありがとう。カルム代表として、また一人の父親として礼を言わせてほしい。本当にありがとう!」


「りょ、領主様! 頭をお上げください!」


「そ、そうですよ! 俺たちは当然なことをしたまでですから!」


 ヨネシゲとドランカドは、慌てた様子でカーティスに頭を上げるように促していた。そのやり取りが収まると、アランが口を開く。


「ヨネシゲさん。情けない姿を見せてしまって、申し訳ありませんでした。それに俺は……」


 ヨネシゲはアランを気遣う。


「アラン君! 胸を張るんだ! 君が居なかったら多くの人が命を落としていただろう。アラン君は領主様の息子として多くの民を守ったんだ! そのことは自信を持って誇っていい!」


「ですけど……」


 理由はともあれ、チンピラの命を奪ってしまった。罪悪感を抱くアランにヨネシゲは語り掛けるように言葉を続ける。


「生きていれば色々とある。今回のことは長い人生の1ページに過ぎない。肝心なのはその1ページを自分のものに出来るかだ。もしアラン君があの青年に罪悪感を抱いているならば、彼の死を無駄にしちゃいかん。君にしかできないことがあるからな」


「俺にしかできないことですか……?」


「そうさ。アラン君はカーティス様の息子。次期カルム領主となる男だ。故に俺たち平民には成し得ないことも成せる力を持っている。同じ惨事を繰り返さないためにも、今回の経験を糧にして、力を奮っていかなくちゃいかん」


 ヨネシゲはアランの肩を叩く。


「アラン君! この肩には民たちの命が乗っかっている! 立ち止まってはいられんぞ? さあ、元気出せよ。次期領主!」


 ヨネシゲの激励を聞き終えたアランがクスッと笑う。


「フフッ。流石ヨネシゲさんですね。逆にプレッシャーを感じちゃいましたよ」


「え? そうだったか!? すまんすまん。ドンマイだな」


「でも、お陰で元気出ましたよ! それに、自分の弱さにも気付けました。俺は大切な民を守るために、もっと強くならなければいけない……!」


「おう、その意気だ。人は自分の弱さを知れた分だけ強くなれる。弱点の克服に尽力してくれ。それと、この先アラン君には、決断を迫られる場面が多々あることだろう。大切なものを守るということは、何かを犠牲にするということ。その選択だけは見誤らないように頼むな」


「はい、精一杯努力していきます! ヨネシゲさん、これからもご指導の程、よろしくお願い致します!」


 元気を取り戻したアランの姿を見て、一同笑みを浮かべるのであった。




 その頃、空想術屋外練習場前の広場には、ソフィアとルイスを始めとする、メアリーら姉家族、アトウッド兄妹、イワナリとその娘アリア、その他にオスギら守衛と、ヒラリーやクレアなど見慣れた顔ぶれが勢揃いしていた。

 やがて、ヨネシゲがドランカドと共に練習場から姿を現すと、聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。


「あなた、お疲れ様!」


「ソフィア!」


 その集団の先頭では、ソフィアが優しい笑みを浮かべながら、ヨネシゲに手を振っていた。ヨネシゲは急ぎ彼女の元まで駆け寄る。


「ソフィア、無事で良かった!」


「ええ。あなたの方こそ大きな怪我がなさそうで良かったわ。でも、あまり無茶はしないでよ。昔のように本調子ではないんだから。本当に心配したんですからね……」


「ソフィア……」


 そう言い終えたソフィアは、目に涙を浮かべると、哀しげな表情で顔を俯かせた。そんな彼女の様子を見たヨネシゲが思い掛けない行動に出る。

 突然ヨネシゲはソフィアを思いっきり抱きしめた。案の定、ソフィアは困惑した表情を見せる。


「あ、あなた……! 人前ですよ……!」


「心配掛けて済まなかった。君にそんな顔をさせてしまうなんて……俺ももう少し考えて行動するべきだったよ……」


「あなた……私のことはいいの。あなたが無事でいてくれるなら。でも……誰かのために、全力で戦うあなたは、本当に素敵だよ!」


「ソ、ソフィア!」


 互いに抱きしめ合う2人。そこへルイスが歩み寄って来る。


「お二人とも、熱々ですな!」


「ル、ルイスっ!?」


 突然聞こえてきた息子の声に、ヨネシゲとソフィアは咄嗟に体を離すと、顔を赤くさせる。そして、ヨネシゲは誤魔化すようにルイスを褒めちぎる。 


「いや〜! 流石ルイス! カレンちゃんやアラン君を守っているお前の姿は本当に格好良かった! 若い頃の俺そっくりだったぜ!」


 すると、ルイスもヨネシゲの行動を褒め称える。


「いや、本当にカッコ良かったのは父さんの方だよ。会場全体に父さんの声が響き渡ったときには、鳥肌立ったぜ! それに、あの改革戦士団や悪魔のカミソリ相手に臆することなく立ち向かってるんだからな。女子たちも父さんにメロメロだったよ」


 息子に褒められたヨネシゲは、照れた様子で言葉を返す。


「え!? 女子たちが!? 本当か!? ナッハッハッ! あたぼうよ! 俺はこのカルム学院の守衛だ! この学院で好き勝手暴れる奴は許さねえ!」


 威勢よくそう言い終えたヨネシゲであったが、突然寂しそうな表情で言葉を漏らす。


「だが、ルイス主演の空想劇。最後まで見たかったな……」


 ヨネシゲの表情を見たルイスが優しく微笑み掛ける。


「まさか、こんな結果で終わるとはね。でも学院長先生なら、日を改めて学院祭の日程を設けてくれる筈さ! アランさんや生徒会長のアンナ先輩も訴えかけてくれるさ。そしたら、俺たちの空想劇もまた見れるよ!」


「そうだな! 俺たち守衛も学院長に働きかけてみるよ!」


「うん! よろしくな!」


 2人は互いに顔を見合わせるとにっこりと笑みを浮かべた。


 すると、カルム屋店長の声が辺りに響き渡る。


「皆さん! この後はカルム屋に集合してください! 今日はサービスしますから、祝勝会といきましょう!」


「ヨッシャー! 流石店長! 太っ腹!」


 店長の言葉を聞いたヨネシゲがガッツポーズを決める。

 一同、満面の笑みを浮かべると、祝勝会のため海鮮居酒屋カルム屋に向かうのであった。


 ――その去り際、ヨネシゲは夕陽を浴びるカルム学院の校舎を見つめる。


(どうしてなんだ、グレース先生……)


 ヨネシゲの脳裏には、グレースの笑顔が焼き付いて消えなかった。



つづく……

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