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第70話 閉幕! 悪夢のSHOW



 それは具現草使用の大きな代償だった。

 チンピラの一人が、内部具現化に体が耐えきれず爆発。絶命した。


 近くに居たヨネシゲたちに、目立った怪我はなかったものの、グラウンドには、悲惨な光景が広がっていた。

 グラウンドに散乱するチンピラの肉片、会場に立ち込める異臭。


「そ、そんな……」


 衝撃的な光景を目の当たりにした、もう一方のチンピラは、ショックのあまり気を失ってしまった。

 観客たちも気分を悪くして、倒れる人が続出している。


「まさか、具現草が使われていたというのか……」


 先程、この空想術屋外練習場に足を踏み入れたばかりのドランカドは、状況を把握できていない。しかし、あのように体が爆発してしまう原因と言ったら、具現草の他考えられない。

 具現草根絶を夢見るドランカドは、幻滅の思いでこの惨事を凝望していた。


 静まり返った会場には、頭領の喚き声だけが響き渡っていた。


「畜生っ!! 使い物にならねえクズ共めがっ!! 本当にクズ野郎だっ!!」


 すると頭領は、懐からピストルを取り出すと、意識を失い倒れているチンピラに銃口を向ける。


「貴様も仲間のクズ共と一緒に地獄へ送ってやるよ!」


 その時、女の声が周囲に響き渡る。


「させるかっ!」


「!!」


 聞こえてきたのはリタの声だった。

 リタは落ちていた小さな小石を拾い上げると、頭領目掛けて指で弾き飛ばす。赤い光を纏わせ、弾丸のようになった小石は、頭領のピストルを射抜いて木っ端微塵に破壊した。

 その間にヨネシゲは頭領との間合いを一気に詰める。


「カミソリ野郎が! 調子に乗ってるんじゃねえっ!」

 

「!!」


 ヨネシゲの飛び蹴りが炸裂。

 胴にヨネシゲの蹴りを受けた頭領は、十数メートル離れたグレースとチェイスの元まで飛ばされてしまう。2人はそんな頭領を冷たい眼差しで見下ろしていた。

 そして顔を上げた頭領は、グレースたちに救援を請う。


「お、おい! 水晶玉はもう無いのか!?」


「無いわ……」


「なら力を貸してくれ! このままじゃ終われねえ! お前たちも、こんなオヤジ共に泥を塗られて黙っていられねえだろ!? ほら、早くあのオヤジ共を八つ裂きに……!」


「黙りなさい!」


「!?」


 グレースは、頭領の言葉を遮るようにして一喝する。そして一同、彼女の口から意外な言葉を耳にすることになる。


「今回の作戦は失敗しました。我々改革戦士団の敗北です。只今をもって我々は退却させていただきます」


「は?」


 グレースが口にした予想外の言葉に、カミソリ頭領は拍子抜けした表情を見せる。

 その場に居たヨネシゲたちも彼女があっさり負けを認めたことに困惑していた。


 言葉を失う頭領に、チェイスは冷たい眼差しで見つめながら言葉を発する。


「おい、カミソリ野郎。貴様のお陰で作戦は失敗だ……」


 頭領は不満そうな表情でチェイスに反論する。


「おいおい! なんで俺のせいになるんだよ!? 悪いのはあのクズ共が無能だからいけねぇんだ!!」


 反論する頭領をグレースが嘲笑う。


「無能ですって? ウフフ。それは上司が無能だからでしょ?」


「何!? グレース、この俺に喧嘩を売ってるのか!?」


 ここでチェイスが、声を荒げる頭領の胸ぐらを掴む。


「黙れクズ野郎! 失敗は許さねぇと言った筈だよな? この落とし前は付けてもらうぞ!」


 チェイスに胸ぐらを掴まれ、揺さぶられるカミソリ頭領。その背後にグレースがゆっくりと近付いていく。そして彼女は懐から、緑色の液体が入った注射器を取り出すと、躊躇いもなく頭領の首元にそれを突き刺す。


「うぐっ!?」


「ウフフ、頭領さん。ちゃんと責任はとってくださいね」


「ま、まさか!? それは!?」


「ウフフ。中身は検体に使用したものと同じよ」


「や、やめろっ!!」


 注射器の中身は、軍事用具現草から抽出した液体だった。

 グレースは不敵な笑みを浮かべながら、注射器のプランジャーをゆっくりと押していく。

 注射器の中身が空になると、グレースは頭領に言葉を掛ける。


「頭領さん。後は好きにしてください。彼らに一矢報いるため大暴れするもよし、大人しく捕まって法の裁きを受けるもよし……」


 グレースがそう言い終えると、チェイスは頭領の胸ぐらから手を離すと同時に、彼を突き飛ばす。


 グレースが突然グラウンドの中央に向かって右手を構える。


「いでよ……」


 グレースがそう呟いたと同時に、グラウンド中央に強烈な閃光が発生する。やがて閃光が収まると、グラウンドの中央には、人の身長を遥かに超える巨大な鷲が現れた。

 ヨネシゲが驚きの声を上げる。


「で、デカイ! あれは、グレースさんが召喚した想獣か……!」


 巨大鷲の正体は、グレースが空想術を使用して繰り出した想獣だった。

 グレースとチェイスは巨大鷲の元まで駆け寄ると、その脚に掴まる。そして巨大鷲は翼を大きく広げると、上空へ向かって飛び立っていく。

 巨大鷲が翼を一振りする度に、会場には強烈な風が吹き荒れ、ヨネシゲたちは体が飛ばされないように姿勢を低くして踏ん張っていた。

 そしてヨネシゲが彼女の名を叫ぶ。


「グレース先生!! 待ってくれ!!」


 ヨネシゲの叫びにグレースが言葉を返す。


「ウフフ。まだ私のことを先生と呼んでくれるんですか? 嬉しいですね。ヨネさんと過ごした学院生活は楽しかったですよ! ですけど……次会うときは敵同士です……」


「そんな、グレース先生! 俺はあなたと戦いたくない! 一度話し合おうよ! 考えを改めてくれ!」


 ヨネシゲの言葉を聞いて、グレースは一瞬寂しそうな表情を見せるも、すぐに毎度お馴染みの妖艶な笑みを浮かべる。


「では、皆様。ごきげんよう!」


「グレース先生!!」


 ヨネシゲが呼び止めるも、グレースたちを乗せた巨大鷲は、瞬く間に上空へと姿を消した。


 嵐の如く現れ、消え去った改革戦士団。

 一同、呆気にとられた様子で上空を見上げていると、カミソリ頭領が不気味な笑い声を上げる。


「ブッヒッヒッヒッ……上等じゃねえか……」


 頭領は血走った目で、ヨネシゲたちに視線を向けると、狂気じみた笑みを浮かべながら言葉を漏らす。


「あの女共にまんまと嵌められたぜ。俺は利用されてたんだな……」


 頭領は突然怒鳴り声を上げる。


「冗談じゃねえ! こうなったらヤケだ! 保安局に捕まっても俺に待っているのは極刑だ。大人しく死を待つくらいなら、今ここでお前らを道連れにしてやるよ!」


 頭領はそう言い終えると、体内に力を込めるようにして雄叫びを上げ始める。

 その様子を見ていたヨネシゲたちに緊張が走る。


「ね、姉さん! カミソリの野郎、何をするつもりなんだ!?」


 ヨネシゲは、メアリーに見解を尋ねると、恐ろしい答えが返ってきた。


「恐らくあの男は、自爆しようとしているのよ」


「自爆だって!?」


「ええ。具現草の力を借りて故意に自爆するんだから、その威力は相当なものになるわ。マロウータンの張ったバリアも破られるかもしれない……」


「そんなことになれば、ソフィアたち、観客が……! こうしちゃいられねぇ!」


 一刻の猶予も許されない。

 何かを閃いた様子のヨネシゲは、ドランカドに協力を求める。


「ドランカド! 手を貸してくれ!」


「了解っす!」


 ヨネシゲとドランカドが、体内に力を充填する頭領の元へと駆け寄っていく。その最中、ドランカドがヨネシゲに尋ねる。


「ヨネさん! 一体、どうするつもりで?」


「カミソリ野郎を……空高くへ……!」


 ヨネシゲの返事を聞いたドランカドは、その意味を理解した様子で静かに頷いた。

 ヨネシゲとドランカドは頭領の元に到着するなり、その体に掴み掛かる。


「離せ〜!」


 必死に抵抗する頭領に、ヨネシゲが怒鳴り声を上げる。


「これ以上、この学院で好き勝手はさせねぇ! 引導を渡してやる!! どりゃあぁぁぁっ!!」


 ヨネシゲとドランカドは、天に向かって頭領の体を勢いよく持ち上げたと同時に、その体から手を離す。


「畜生っ! 畜生っ! 畜生っ!! 俺はお前らを許さんからなっ!!」


 頭領は悔しそうに絶叫しながら、空高くまで飛ばされていくのであった。



 次の瞬間。悪魔のカミソリ頭領が自爆。

 カルム学院上空に強烈な閃光が走った。


 悪夢のショーの閉幕である。



つづく……

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