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第69話 惨事再び



 学院内各所を制圧し、人質の解放に成功したドランカドたちが、空想術屋外練習場のグラウンドに姿を現した。

 そしてこの会場は、カーティスやリキヤ率いる軍隊が完全包囲している。グレースたち改革戦士団に逃げ場はない。

 改革戦士団がカルム学院を占拠してから、1時間程しか経過していない。一体、この短時間で何があったのか?

 チェイスがドランカドに尋ねる。


「お前らが外に居る同胞たちを制圧したというのか?」


 ドランカドは自慢げな表情で返事を返す。


「ガッハッハッハッ! そうだぜ、参ったか!? これも、守衛さんたちや街の皆さんのお陰さ!」


「何故だ? 作戦に抜け目は無かったはず……」


 腑に落ちない様子のチェイスに、ドランカドが欠点を指摘する。


「確かに、一瞬でこの広い学院を占拠してしまうんだから、あんた達の作戦は完璧に近いだろう。だが、欠点もある」


「欠点だと?」


「そうさ。下っ端戦闘員にとって、あんた達の命令は絶対だ。戦闘長の命令と聞けば、皆素直に応じる。戦闘員に扮した俺たちは、その服従心を利用させてもらった」


「小賢しい真似を……」


 ドランカドとチェイスがそんなやり取りをしている中、ヨネシゲは諭すようにグレースに語り掛けていた。


「グレースさん。もう君たちに逃げ場はない。これ以上ここで暴れても無意味だ。大人しく投降してくれ」


 グレースはヨネシゲの言葉を聞きながら、険しい表情を見せる。

 ここで突然、カミソリ頭領が怒号を上げる。


「おい、オヤジ! 何勝ったつもりでいるんだよ!? 俺の報復はまだ終わっちゃいねえ! それに観客たちが、まだ俺たちの手中にあることを忘れるなよ?」


「くっ……」


 ヨネシゲは悔しそうな表情でスタンド席を見渡す。

 この会場にはまだ多くの観客が人質として取り残されている。その中には、ヨネシゲの愛妻ソフィアや甥のトム、アトウッド兄弟の姿があった。


「あなた……それにお義姉さん、リタちゃん……無理だけはしないでね……」


 スタンド席のソフィアは両手を組みながら、ヨネシゲたちの無事を祈っていた。

 その横で、トムとメリッサがヨネシゲたちに声援を送る。


「お母さん! お姉ちゃん! おじちゃんも頑張れ!」


「みんな頑張ってね〜!」


 2人の声援はグラウンドのヨネシゲたちの耳に届いていた。しかし、声援を貰った筈のヨネシゲとメアリーたちの顔が青ざめる。


(2人共! 静かにしているんだ! 標的にされちまうぞ!)


 案の定、カミソリ頭領がスタンド席のトムたちに視線を向けると、怪しげな笑みを浮かべる。


「イヒヒッ! 子供っていうのは、後先の事を考えず、無邪気で可愛いよな……」


 頭領はそう言うと、トムたちが声援を送るスタンド席に向かって水晶玉を振りかざす。その途端、チンピラたちの体も水晶玉が向けられた方角へと向きを変える

 チンピラたちは泣き叫びながら必死に抵抗するも、体は言うことを聞かず、その口を大きく開く。

 ヨネシゲは頭領を制止する。


「やめろっ! 子供たちに何をするつもりだ!? 子供たちに罪はねえ! それにこれ以上、あの若者たちを苦しめるな!」


 ヨネシゲの言葉を聞いた頭領が皮肉を口にする。


「戦場では全て思い通りにはいかない……誰かさんの姉貴がそう言ってたぜ」


「畜生っ! こうなったら……!」

 

「!!」


 ヨネシゲが頭領目掛けて突進していく。その様子を目にした頭領の顔が引き攣る。

 

(この男を止めなくては、ソフィアやトムたちが……!)


 ヨネシゲは頭領の顔面に向かって右拳を振り上げる。


「やめろっ!!」


「遅かったな、オヤジ……」


 頭領は、ヨネシゲの叫びを嘲笑うようにして、歯をむき出しながら満面の笑みを見せた。


「!!」


 次の瞬間、会場全体が白い閃光に包まれる。


 チンピラたちの口から放たれた強烈な光線は、ソフィアやトムが居るスタンド席へと真っ直ぐ伸びていく。


「ソフィアっ!!」


 ヨネシゲが愛妻の名を叫んだその時だった。

 真っ直ぐと伸びていた光線は、突然何かに行く手を阻まれるようにして分散すると、力を失ったように消滅する。

 その様子を見ていたチェイスが眉間にシワを寄せる。


「バリア? いや、それは先程破壊したはず……まさか!?」


 チェイスは何かを勘付いたように、向かい側のスタンド席に視線を向ける。

 そこには優雅に扇子を扇ぐ、マロウータンの姿があった。

 チェイスが怒りを滲ませながら、マロウータンに問う。


「このバリア、貴様の仕業だな?」


 マロウータンは澄ました表情で返答する。


「ご名答。そのバリアは儂が張ったものじゃ。破られてしまうかと、ハラハラしたぞ」


「クソっ……腹立つ顔だぜ……!」


 睨み合うマロウータンとチェイス。

 



「よそ見してんじゃねえ!」


「!!」


 呆気にとられていたカミソリ頭領の顔面をヨネシゲがぶん殴る。

 その衝撃で頭領は持っていた水晶玉を落としてしまった。水晶玉は地についたと同時に、粉々に砕け散ってしまった。


「ああっ!! 水晶玉がっ!?」


 頭領は情けない声で言葉を漏らすと、ヨネシゲを睨みつける。


「貴様、よくも水晶玉をっ!」


「フン! 落としたのはお前だろうがっ!」


「クソっ! コイツがねえと、奴らを操れねえ……」


「やはり、その怪しげな水晶玉で彼らを操っていたんだな」


 薄々気付いていたが、頭領は何らかの仕掛けが施されているであろう水晶玉を使用して、チンピラたちの体を制御していたのだ。

 ヨネシゲがチンピラたちに視線を向けると、彼らは歓喜の声を上げていた。


「やったよ、やったよ! 体が言うことを聞く!」


「ああ、良かったよ! これで俺たちはもう……」


 チンピラの一人が言葉を続けようとしたその時、彼の体に異変が起こる。突然、口から大量の血を吐き出すと、地面を転がるようにして藻掻き苦しむ。

 もう一人のチンピラが心配そうな表情で事情を尋ねる。


「お、おい! どうしたって言うんだよ!?」


「熱い、熱い! 熱いよっ!! 体の中が焼けてる!!」


「や、焼けてるってどういう事だよっ!?」


 ヨネシゲの脳裏には、あの惨事が蘇る。それは、内部具現化に体が耐えきれず爆発し、絶命した、キラーの変わり果てた姿だ。

 ヨネシゲは介抱しようとするチンピラの首根っこを掴むと、転げ回るチンピラから急いで距離を取る。

 そして、ヨネシゲが叫ぶ。


「みんな! 伏せるんだ! 爆発するぞっ!」


 次の瞬間、転げ回るチンピラの体が突然発光したと思うと、彼の体は大きな音と共に爆発してしまった。




 その様子を見ていたグレースが言葉を漏らす。


「引き際ね……」



つづく……

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