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第68話 形勢逆転



「戦闘長たちからの命令だ。至急、闘技場前の広場に集合せよ。三人衆が予想以上の抵抗を見せているらしい。尚、人質は捨て置けと……」


「何!? そいつは本当か!? あの戦闘長たちが梃子摺るとは、ガキ共の噂は本当だったのか……わかった、直ぐに向かおう! おい! お前ら、聞いたか!? 急ぐぞ!」


「おう!」


 屋台エリアを監視していた、数名の戦闘員たちは慌ただしく集合場所の広場へと向かっていった。

 戦闘長からの命令を伝えに来た戦闘員の2人が、被っていたフードを脱ぐと、その正体が明らかになる。

 2人はカルム学院守衛のイワナリとオスギだった。イワナリたちは改革戦士団戦闘員に扮して、ドランカドが立案した人質解放作戦を実行していたのだ。

 イワナリは遣り切った表情で、言葉を口にする。

 

「ふぅ〜。これで屋台エリアの戦闘員は全員誘導完了ですね! 本校舎を見張っていた戦闘員たちも、続々と広場の方向へ向かっているようです!」


 オスギは本校舎の方角を眺めながら返事を返す。


「そのようだ。ドランカド君の情報では、改革戦士団は上からの命令は絶対らしい。上官の命令と聞いただけで、皆大人しく言うことを聞いてくれる。まあ、命令に背けば厳しい制裁が待っているらしいから当然だな」


「怖い組織ですね……ウチらとは大違いだぜ」

 

「イワナリ。無駄話はこの辺にして、俺たちも広場に向かおう。奴らを制圧しなければ、人質を無事に解放することはできん」


「了解です! 奴らを一網打尽にしてやりましょう!」


 2人はそう言うと、空想術屋外練習場前の広場へと急行した。


 その頃、練習場前広場には、続々と改革戦士団戦闘員が集まっていた。その数は50人前後だろうか。

 戦闘員に扮したドランカドが彼らに指示を出す。


「もう時期、グレース戦闘長が指示を出すそうだ! それまで俺たちはこの場で待機となる!」


 戦闘員たちは疑うこともなく、ドランカドから受けた指示に従う。


 ドランカドは、守衛たちの集合状況を確認する。

 10人程の守衛たちが、戦闘員を誘き寄せるため、学院内の各所へ派遣された。守衛たちには、戦闘員の誘導が完了次第、この広場に集合するよう伝えている。

 やがて任務を終え広場に集まってきた守衛たちは、戦闘員の集団から少し距離を置くようにして待機していた。その左手首には、目印となる白い包帯が巻かれている。白い包帯は改革戦士団の黒い戦闘服と相まってか、彼らが守衛か否かを見分けることが容易かった。

 ドランカドが、戦闘員に扮した守衛たちの人数を数え始める。


(あれ? あと2人足りないぞ?)


 守衛の人数が足りない。ドランカドが焦りを感じ始めたその時、イワナリとオスギが広場に姿を現し、それを見たドランカドはホッと胸を撫で下ろした。


(全員揃ったか! よし、作戦を始めるぞ……!)


 ドランカドの人質解放作戦が大詰めを迎えようとしていた。

 ドランカドは作戦開始の合図となる、右拳を頭上高くへと上げる。それを確認した守衛たちが、何故かハンカチで口鼻を覆った。

 次の瞬間、広場にはある男の声が響き渡る。


「みんな〜! 強い酒はお嫌いかい?」


「な、なんだ!? あのオヤジ!?」


 戦闘員たちにどよめきが起こる。彼らが指さした先には、木の上から酒瓶片手にニッコリと微笑むヒラリーの姿があった。

 ヒラリーは酒瓶の蓋を開けると、呆気にとられている戦闘員たちに、言葉を送る。


「今日は無礼講だ! 吐くまで飲んでくれ!」


 ヒラリーはそう言うと、空想術を使用して、酒瓶の中の酒を戦闘員目掛けて噴射させる。


 戦闘員たちは咄嗟に腕で口鼻を覆うも、少し遅かったようだ。戦闘員たちは気化した酒を吸い込んでしまい、むせ返っていた。

 ドランカドと守衛たちは、戦闘員が怯んでいる隙を見逃さなかった。 


「さて、酒の肴に、俺の拳でも味わってみろ!」


 ドランカドの両拳が炸裂する。

 ドランカドの強烈なストレートを顔面に食らった戦闘員たちが気絶して倒れていく。

 イワナリやオスギら守衛も奮闘していた。

 巨大熊に変身したイワナリは、逃げ回る戦闘員たちをラリアットでバタバタとなぎ倒していく。


「ガオォぉぉっ!! 貴様の頭蓋骨にデカイ穴開けてやる!!」


 イワナリは雄叫びを上げると、戦闘員の頭に噛み付くのであった。

 オスギや他の守衛たちも、空想術や武術を駆使して、アルコールで意識を朦朧とさせる戦闘員を次々と仕留めていった。

 気付くと、50人程いた改革戦士団戦闘員は、全員意識を失って地面に倒れていた。




 ――数分後。正門でも動きが起こる。


「カーティス様! 何者かがこちらに向かって走ってきます」


「あの者は、もしかして……!?」


 カーティスが正門に視線を向けると、見覚えのある青年の姿が目に飛び込んできた。その見覚えのある青年とは、このカルム学院の守衛のユータだった。彼はドランカドから伝令を任され正門に急行してきた。

 ユータは膝を折り、カーティスの顔を見上げると、息を切らしながら言葉を口にする。


「領主様! 伝令です!」


「ご苦労。申してみよ!」


 カーティスは額に汗を滲ませながら、次の言葉を待っていた。そして、ユータは表情を緩めながら、伝令の内容をカーティスに伝える。


「はい! 空想術屋外練習場を除く、全てのエリアを制圧しました! 約50名の戦闘員は我々の手で拘束しました! カーティス様におかれましては、軍や保安隊に突入の指示をお願いします! これより人質の皆さんを解放しますので、ご助力願います!」


「でかしたぞ! では、我々も………」


 ユータからの伝令を聞き終えたカーティスが、領主軍の兵士や保安隊に命令を下す。


「全軍、全部隊に告ぐ! 人質を救出を行う。一斉に突入せよ!」


 カーティスから命令を受けた兵士や保安官は、大きな雄叫びを上げていた。


「よし! 我々も続け!」


 リキヤの一声でクボウ軍も学院内へ雪崩込むのであった。




 同じ頃、空想術屋外練習場の内部。

 ヨネシゲは、グレースから改革戦士団の目的を告げられていた。

 グレースには、改革戦士団への入団を決心させた、辛い出来事があったそうで、彼女は説明を終えると悲痛な表情を浮かべていた。そんな彼女にヨネシゲが声を掛ける。


「グレースさん。あなたにも辛い過去があると言うのですか……?」


 ヨネシゲの言葉を聞いたグレースは、大きく息を吐いた後、いつもの妖艶な笑みを浮かべる。


「ウフフ。少し話し過ぎましたわ……」


 グレースがそう言葉を漏らした直後、グラウンドの入場口から、戦闘員が血相を変えて姿を現す。


「グレース戦闘長! チェイス戦闘長! 大変です!」


「どうした?」


 チェイスが要件を尋ねると、戦闘員から驚きの事実を知らされる。


「敵の奇襲で、会場外の戦闘員が全滅です! この闘技場を除く全てのエリアも奪還されました! 」


「なんだとっ……? この短時間に一体何があった……?」


 言葉を失うチェイス。グレースやカミソリ頭領の額からも冷や汗が流れる。


 その時である。

 伝令の戦闘員が突然呻き声を上げたと思うと、その場に倒れてしまった。

 一同、入場口の方へ視線を向けると、ある男たちの姿があった。


「ヨネさん! お待たせっす!」


「ドランカド!?」


「ヨネシゲっ!! 俺の娘は無事だろうな!?」


「熊!? いや、イワナリ! それにオスギさんや、他の皆まで!」


 ヨネシゲの視界に飛び込んできたのは、入場口で仁王立ちするドランカド、熊……元い、イワナリとオスギたち守衛の姿があった。


「ウフフ。形勢逆転のようね……」


 グレースはその様子を見つめながら、不敵な笑みを浮かべていた。



つづく……

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