表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/398

第63話 悪夢のSHOW(中編)



 睨み合う、マロウータンとチェイス。

 マロウータンは、先程グレースが言い放った「真の空想劇」を見せるよう煽るように催促する。

 敵を挑発するマロウータンの姿に、ヨネシゲは焦った様子で声を荒げる。


「マロウータンの野郎! 敵を挑発してどうするんだよ!? 奴ら何を仕出かすかわからないっていうのによ!」


 ヨネシゲの言葉にメアリーが反応する。


「ええ、過度な挑発は避けるべきね。でも、もしかしたらあの男、挑発して敵の注意を引いているのかも?」


「え? そうなのか!?」


「相手を適度に刺激して、徐々に意識を自分に向ける。その間に、何か糸口を探っているんじゃないかしら? なんたってあの男は、オジャウータンの息子よ」


「マロウータン、そんな高度な駆け引きをしていたと言うのか!? 流石は南都の雄の息子と言ったところか……!」


 メアリーの見解にヨネシゲは驚きつつも納得した様子だ。

 マロウータンは、前国王の片腕として活躍したオジャウータンの息子。知勇も父親から譲り受けている筈。そんな彼ならきっと何か秘策があるに違いない。いや、そうあってもらいたい。

 ヨネシゲたちは期待の眼差しで、向かい側のスタンド席の方を見つめる。そこには、クラークが撒き散らす花吹雪を浴びながら、仁王立ちするマロウータンの姿があった。

 マロウータンはメアリーの予想通り思考を巡らしていた。しかし、彼が考えている内容とは、彼女の予想とは少々異なっていた。マロウータンの額からは冷や汗が滲み出ていた。


(しまったぞ……ついカッとなって敵を挑発してしまったわい。火に油を注いでどうするのじゃ!? 儂は大馬鹿者じゃ。しかし、真の空想劇とは一体何なんじゃ? ここは様子を見ながら、良い策を模索する他あるまい。もし奴らが、再び観客たちに危害を加えるような事があれば、また儂が守護するまでじゃ……)


 マロウータンは動揺や焦りを悟られないように、扇子を広げながら舞を披露する。そんな彼の姿に、チェイスは苛立った様子でグレースに作戦の開始を促す。


「おい、グレース! とっととこの白塗り顔に真の空想劇とやらを見せてやれ!」


「ウフフ。わかったわ」


 するとグレースは、まるで会場全体にナレーションを流すが如く、言葉を発する。


「皆様、お待たせしました。いよいよ真の空想劇が始まります。この物語のテーマは復讐です。仲間を殺した憎き悪魔たちを退治するため、一人の勇者が立ち上がります。果たして勇者は悪魔たちを退治し、仲間の無念を晴らすことが出来るのでしょうか? 勇者とその仲間たちの勇姿をご覧ください!」


 グレースがそう言い終えると、悪魔のカミソリ頭領は、呆然と立ち尽くすアランたちに体を向ける。


「悪魔たちよ。借りは返させてもらうぞ……」


 アランは、自分たちを悪魔呼ばわりする頭領を鼻で笑う。


「フフッ。悪魔はお前だろ?」


「何?」


 余裕を見せるアランの表情に、頭領は眉間にシワを寄せる。そして、ヴァルとアンナも好戦的な態度を見せる。


「アランの言う通り、悪魔はアンタの方だぜ」


「そうですわ。多くの罪なき人々を殺めておきたあなたは正真正銘の悪魔。これ以上、野放しにはできません!」


 2人の後に、アランが言葉を続ける。


「まったく、逆恨みもいいところだ。だが、わざわざ俺たちの前に姿を現してくれて礼を言うぜ。これでお前を監獄送りにできる」


「ガキ共が……イキりやがって……!」


 アランたちの言葉に頭領が怒りで身を震わしていると、グレースが口を挟む。


「我々の標的は、あなた達、空想術部三人衆。我々が勝っても負けても、他の者に危害を加えるつもりはありません」


 アランがニヤッと笑みを浮かべると、グレースに問い掛ける。


「グレース先生、いや、改革戦士団のグレース。お前たちの目的は、俺たちへの報復という解釈でいいんだよな?」


「ウフフ。大方、正解と言ったところね。だけどそれは悪魔のカミソリさんの話。我々、改革戦士団の目的は別にある……」


「だろうな。俺とお前らには接点はないからな……」


「ええ。接点はないわ。だけど、我々改革戦士団にとってあなた達の存在は脅威なの」


「へえ~、俺たちが脅威か。評価してもらっているようで光栄だ」


「ウフフ。そこで、あなた達には消えてもらいます。でも、ただ殺すにはもったいないから、我々が用意した検体の実験台になってもらいます」


「検体?」


 グレースが口にした「検体」という言葉に、アランたちは眉を顰める。するとグレースは、アランたちの前で直立しているチンピラたちを横目にしながら、検体について説明を行う。


「そうよ。今あなた達の目の前に立っている、このならず者たちが、我々が用意した検体。この検体には、軍事用の具現草から抽出した液体を仕込んでいるわ」


「軍事用の具現草だと!?」


 先程まで、余裕を見せていたアランたちの表情が青ざめる。

 具現草というワードは、ヨネシゲの耳にも届いており、彼は魔物使いキラーとの対戦を思い出す。


(具現草だと!? あのチンピラたちが使用していると言うのか!? だからあのキラーのように強力な衝撃波を繰り出せたのか! だが、その代償はデカいぞ! あの惨事が、また繰り返されるというのか……!)


 ヨネシゲの脳裏には、壮絶な最期を迎えたキラーの姿が蘇っていた。


 グレースは言葉を失うアランたちの姿を見ながら、笑いを漏らす。。


「ウッフッフッ。その表情を見れば、説明するまでもなさそうね。まあ、空想術部員なら知ってて当然か……」


 アランが声を荒げる。


「そんな危険なもの使って、お前たちは何を考えている!?」


 グレースはアランに冷たい眼差しを送る。


「もう、あなた達は()()()()()()のだから、そのくらい自分で考えなさい」


「くっ!!」


 悔しそうな表情を見せるアランの隣でアンナが言葉を漏らす。


「恐らく、この人たちは……強大な軍事力を手に入れようとしているのよ」


 アランが恐る恐るアンナに尋ねる。


「それって、つまり……!?」


「王国の征服……或いは……!」


 2人の会話を聞いていたヴァルが戦闘態勢に入る。


「冗談じゃねぇぞ! そんな野望、今ここで打ち砕いてやるよ!」


 ヴァルはそう怒鳴り声を上げると、全身に稲妻の如く強烈な電気を纏わせながら、グレースたち目掛けて猛進していく。


「ヴァル! やめろ! 止まれ!」


 アランが制止するも、その声は彼の耳には届かず。

 ヴァルは瞬く間にグレースたちとの距離をつめていく。彼女たちの隣で人質として囚われていたラシャドが大声で叫ぶ。


「ヴァル君! 駄目だ! 来ちゃいかん!」


「学院長先生! 今俺が助けます! 雷撃のヴァルの異名に懸けてっ!」


 ラシャドが制止するもヴァルは突き進む。


「フフッ。よくもまあ、寒いセリフがさらっと言えるもんだ……」


 悪魔のカミソリ頭領は不敵な笑みを浮かべてそう呟くと、持っていた水晶玉をチンピラたちに向ける。その途端、チンピラたちは瞬間移動が如く、凄まじい速さで移動を始め、ヴァルの前に立ちはだかる。


「うおぉぉぉぉっ!! 喰らえっ!!」


 ヴァルは雄叫びを上げると、グレースたちの盾となったチンピラたち目掛けて雷撃を放つ。その雷撃から発せられる光は強烈であり、会場全体が白い光に包まれる。スタンド席の最後列にいたヨネシゲも思わず腕で目を覆う。


「流石、ヴァル君。雷撃の異名は伊達じゃねえ……」


 その様子を見てヨネシゲは思わず言葉を漏らした。


 ついにヴァルが放った雷撃は、チンピラたちにヒットする。その瞬間、チンピラたちの体から激しい火花が発生し、ビリビリという音が会場全体に響き渡っていた。


(あんな攻撃食らったら、あのチンピラたち黒焦げになっちまうぞ……)


 ヨネシゲは、雷撃を食らったチンピラたちの姿を想像していた。

 ここで突然、会場全体を覆っていた眩い光が収まり、チンピラたちに纏わり付いていた雷撃も消滅した。


 ヴァルの攻撃が終わった。彼の雷撃を食らったチンピラたちはタダでは済まない……誰もがそう思って居ただろう。しかし、その予想は大きく覆される。


「そ、そんな……」


 ヴァルが驚いた表情で言葉を漏らしながら後退りする。

 王国内で名を轟かすヴァル渾身の攻撃。それを食らったチンピラたちは、何事も無かったのように直立しており、傷一つ負ってない様子だ。


「う、嘘だろ……!?」


 ヨネシゲは、目を疑うような光景に言葉を失った。

 チェイスから騒ぐなと釘を刺されていた観客たちも、驚いた様子で言葉を漏らしていた。


 呆然と立ち尽くすヴァルを、カミソリ頭領が嘲笑う。


「残念だったな、坊主。お前渾身の攻撃も、軍事用具現草を体内に取り込んだコイツらには無力のようだ」


 受け入れ難い現実に、ヴァルが顔を引き攣らしていると、頭領が彼に問い掛ける。


「坊主よ。大勢の人前で、恥をかいたことはあるか?」


「え……?」


 ヴァルに意味深な質問をする頭領だったが、彼の返事を待たずに行動を起こす。

 頭領は持っていた水晶玉を再びチンピラたちに向ける。するとチンピラたちは、体を広げながら口を大きく開く。

 その異様な光景を見て、ヴァルが頭領に尋ねる。


「な、何をするつもりだ……!?」


 頭領はニヤッと笑みを浮かべる。


「坊主よ。無様な姿、観客たちに晒すがよい!」


 次の瞬間。チンピラたちの大きく開かれた口から、ヴァル目掛けて白光の光線が放たれる。

 ヴァルは咄嗟に空想術でバリアを発生させるも、そのバリアは皆無に等しく、チンピラたちの光線によって破壊された。

 光線を直に受けたヴァルの体は大きく吹き飛ばされてしまい、グラウンドと客席を仕切る壁に強く打ち付けられてしまった。その衝撃で壁は粉々に壊れてしまい、ヴァルは瓦礫に埋もれてしまう。


「ヴァル先輩!」


「ヴァル!」


 ルイス、アラン、アンナ、カレンの4人は、ヴァルが埋もれている瓦礫の側まで急ぎ駆け寄る。

 ルイスたちが必死になって瓦礫を掘り起こす。やがて見えてきたのは、着ていた衣装は肌が見えるほどボロボロに破け、額や口鼻からは血を流し、白目を剥いて気絶しているヴァルの姿だった。


「ヴァ、ヴァル先輩……そんな……」


 余りにも衝撃的な光景に、ルイスは涙を流す。



つづく……



【補足】

 具現草について 

「第31話 具現草」から引用



 具現草には「グゲンモドキ」という物質が大量に含まれている。グゲンモドキは空想術を使う上で欠かせない「具現体」と酷似した物質であり、想素と結合させて現象を発生させることも可能だ。


 普通想人は、空想術を使用する際、脳内で生み出した想素を体外に放出し、空気中の具現体と結合させることで現象を発生させる。これを「外部具現化」という。

 しかし、想素は体外に放出した時点で大きく劣化してしまうため、具現化に成功してもその効果は半減しているとまで言われている。


 仮に体内で具現化したらどうなるか? 

 実際、体内に具現体を取り込んで、新鮮な想素と結合させる「内部具現化」という方法が存在する。この方法を用いれば、外部具現化よりも強力な現象を発生させることができるのだ。但し、これができるのは「バーチャル種」や「ハーフ種」と呼ばれる一部の種族のみ。「リアル種」と呼ばれる大半の想人は体内に具現体を取り込むことすらできない。

 ところが、具現体に酷似したグゲンモドキであれば、リアル種の想人でも体内に取り込むことができる。これにより、内部具現化が可能となり、強力な空想術を使用することができる。しかし、その代償は大きい。


 リアル種の想人は内部具現化の耐久性を持ち合わせていない。

 内部具現化の耐久が無い状態で、体内で現象を発生させることは、命を落としかねない危険極まりない行為。例えるなら、体内で爆弾に火を付けるようなもの。故に体への負担は相当なものであり、最悪の場合、具現化に体が耐えきれず、破裂してしまう。


 ちなみに、バーチャル種やハーフ種にとって、グゲンモドキは劇物であり、体内に取り込もうとすると、嘔吐やアレルギーなどの拒絶反応を起こしてしまう。こちらも最悪、命を落とす可能性があり、全想人が具現草の使用を禁止されている。

 

【お知らせ】

 毎度、ヨネシゲ夢想をご覧いただきまして、誠にありがとうございます。

 今日まで毎日の投稿を続けておりましたが、書き溜めた物語のストックが底をつき、毎日投稿が厳しくなりました。

 明日以降、次話投稿まで時間を要することが多々発生します。予めご承知おきください。

 明日の投稿に関しましては、21時以降、準備でき次第の投稿とさせて頂きます。

 物語を楽しみにしてくださっている皆様には、ご迷惑をお掛けします。

 今後とも、ヨネシゲ夢想をよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ