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第62話 悪夢のSHOW(前編)



 突如、空想劇の会場に姿を現した悪魔のカミソリ頭領とチンピラ。そして、会場全体に響き渡るグレースのものと思われる女の声に、ヨネシゲは困惑していた。


「嘘だろ……今の声は……」


 ヨネシゲが漏らした言葉にメアリーが反応する。


「シゲちゃん、知ってるの?」


「ああ。間違えであってほしい。でも、この声は、空想治癒を教えているグレース先生の声に違いない」


 ヨネシゲの返答にメアリーは納得した様子だ。


「女好きのシゲちゃんが言うんだから間違いはなさそうね……」


「ちょ!? 姉さん!」


 メアリーから真顔で女好きと言われると、ヨネシゲは彼女に反論しようとする。

 すると、どよめきが走る会場に再びグレースのものと思われる声が響き渡る。


「皆さん、ご静粛になさって……」


「やっぱり、この声はグレース先生だ……!」


 彼女の声にヨネシゲが険しい表情を見せる。

 そして、その声を聞いた観客たちが静まり返ると、グラウンドにある入場口から3人の男女が姿を現す。

 入場口から姿を現した男女とは?

 手枷をされ、覚束ない足取りでグラウンド中央へ歩みを進める、顔面血だらけの学院長ラシャド。その後ろには、妖艶な笑みを浮かべるグレースと、観客たちに鋭い視線を送るチェイスの姿があった。

 ヨネシゲは、グラウンドに現れたグレースを目にすると、落胆した様子で顔を俯かせる。

 そして、グレースが衝撃的な事実を観客たちに伝える。


「我々は改革戦士団です。今回は悪魔のカミソリさんと協力して、ある作戦を実行します。既にこの会場の外は我々がジャックしてます。駆け付けた保安官たちも我々が排除しました。ここには誰も助けにきません。皆さんは既に人質なのです。大人しくしてくださいね」


 ヨネシゲは口を震わせながら、遠く離れたグレースに語り掛ける。


「グレース先生よ。これは一体どういうことだい? 改革戦士団? 悪魔のカミソリと協力? 学院をジャックだって? あなたはそんな人じゃないでしょ? グレース先生。頼むから、キツい冗談は止してくれ……」


 ヨネシゲの疑心が確信に変わった。改革戦士団を名乗るグレースの姿を目の当たりにして、ヨネシゲはショックを隠しきれない様子だ。


 当然、ヨネシゲの声はグレースの耳には届いておらず、彼女は淡々と言葉を続ける。


「皆さんは既に我々の人質。下手な真似をすればそれなりの制裁が待っています。若しくは、見せしめに学院長を公開処刑にでもしましょうか? ウフフ。まあ、安心なさってください。大人しくしていれば、皆さんに危害は加えません」


 グレースが観客たちに忠告を終える。しかし、観客たちの反応は、その忠告を無視するものであった。


「おいおい、マジかよ!? 改革戦士団ってヤバくね?」


「この外道共が! 学院長になんてことしやがる!」


「アナタたちなんか、アラン君たちに倒されちゃいなさい!」


「ワ、ワシはまだ死にたくないぞ。婆さんや! ここから逃げるぞ!」


「うわ〜ん! パパ、ママ、怖いよ〜! 助けて〜!」


 観客席に飛び交う、悲鳴、怒号、どよめき……

 グレースはその様子を冷たい眼差しで見つめていた。

 ここで、チェイスが観客席に向かって怒号を上げる。

 

「大人しくしろって言うのが聞こえなかったのかよっ!?」


 観客を怒鳴り散らしたチェイスは、右手を大きく振り上げる。

 次の瞬間、チェイスの頭上高くで、突然大きな爆発が起こる。

 グラウンドに居たルイスとカレンは爆風によって吹き飛ばされそうになるが、アラン、ヴァル、アンナの3人が発生させたバリアのお陰で事なきを得た。しかし、その爆発の威力は凄まじく、3人の発生させたバリアに次々とヒビが入る。


「奴の力、尋常じゃないぞ!」


 アランがそう言うと、ヴァルとアンナが返事を返す。


「わかっている! このままじゃまずい! 2人共! もっと想素を送り込めっ! バリアを維持させるんだ!」


「そんなこと、言われなくてもやってますわ! くっ……これが改革戦士団の実力だというの!?」


 ルイスはカレンを守るようにして抱きしめながら、アランたちの後ろ姿を見つめていた。


(そんな!? あのアランさんたちが押され気味だぞ!? 空想術部三人衆が束になって掛かっているのに、冗談じゃないぞ……!)


 チェイスの想像以上の力にルイスやアランたちは同様を隠しきれない様子だ。

 この時、チェイスが発生させた爆風は、観客席にも襲いかかっていた。

 爆発が発生したと同時に、ヨネシゲ、メアリー、リタの三者は、ソフィアやトムたちの元に駆けよると、その身を守るようにして覆いかぶさった。

 その直後、ガラスが割れるような音が会場全体に響き渡る。観客席を覆っていたバリアは破壊されると、その破片がキラキラと塵となって会場全体に舞っていた。

 

「キリシマが張ったバリアを破壊するとは、あの男、只者じゃないわね……」


 メアリーは、キラキラとした塵が舞う会場を見渡しながら言葉を漏らした。

 一方のヨネシゲはソフィアに怪我の有無を尋ねる。


「ソフィア! 怪我はないか!?」


「ありがとう、大丈夫よ。あなたは平気?」


「ああ。俺も平気さ! バリアは壊れたものの、奴の攻撃を食い止めてくれたみたいだ」


 ヨネシゲは再びグラウンドに視線を落とすと、そこには観客席に睨みを利かす、チェイスの姿があった。そして彼は絶句する観客たちを見渡しながら大声で伝える。


「これで、お前らを守る壁が無くなった! 少しでも騒いだり、妙な真似をすれば、問答無用でお前らに制裁を与える! 死にたくなかったら、大人しくすることだな!」


 彼らに逆らえば命はない。

 それを理解した観客たちは怯えた様子で口を閉ざした。


「ウフフ。では、静まったところで、我々が真の空想劇をお見せしましょう」


 真の空想劇とは何か?

 一同、首を傾げていると、予期せぬ出来事が発生する。それはヨネシゲたちの向かい側となるスタンド席の最前列で起こった。

 幼い少女が恐怖のあまり泣き出してしまったのだ。静まり返った会場には、少女の泣き声だけが響き渡っていた。

 するとチェイスが泣き叫ぶ少女に鋭い視線を向けると、右手を構え始める。それを見たグレースが彼を制止する。


「チェイス、何をするつもりなの? 子供の泣き声くらい許してあげなさい」


 チェイスはグレースを睨みつけながら言葉を返す。


「グレース。お前はそういうところが甘いんだよ。俺は確かに、観客共に大人しくしろと伝えた。それが守れないのであれば、子供だろうと容赦はしねぇ!」


「ちょっと、チェイス!」


 チェイスはグレースの制止を無視すると、今も尚泣き続ける少女に再び鋭い視線を向ける。


「言うことを聞けねえ奴は作戦の邪魔だ。消えてもらう!」


 チェイスはそう言い終えると、右腕に赤色の光を纏わせる。と同時に、彼を軸にして旋風が発生する。相当な大技を使おうとしている模様だ。グレースがチェイスを説得する。


「あなた! 観客席全部を消し去るつもり!? それはやりすぎよ!」


「見せしめだ。俺たちに逆らえばこうなると、反対側の観客共に見せつけてやるよ!」


 聞く耳を持たないチェイスに、グレースの言葉は皆無。

 

「そうだ。それでいい。空想術部のガキどもに絶望を見せてやれ!」


 悪魔のカミソリ頭領は興奮した様子で、チェイスが攻撃を繰り出すのを待ちわびていた。

 そして、ヨネシゲとメアリーは何か良い策はないものかと思考を巡らしていた。


「まずい、まずいよ! 姉さん、どうすればいい!?」


 ヨネシゲが問いかけると、メアリーは何かを決心したような表情を見せる。


「イチかバチか……光線を放ってあの男を射抜く!」


 メアリーはそう言うと、両手を構える。


「でも姉さん! 俺たちが下手な真似すれば、こっちの観客たちも狙われるかもしれない!」


「そんなのわかってるわ! だけど、今何か行動しなければ、向かい側のスタンド席が……!」


 ヨネシゲとメアリーが言い合っていたその時だった。


「俺の破壊玉、味わってみろ!」


 無情にもチェイスの右手からは、巨大な炎の塊がスタンド席に向けて放たれた。

 その様子を目にしたヨネシゲたちの顔が青ざめる。










「無礼者っ!」


 万事休すと思われたその時、突然会場全体に甲高い男の声が響き渡る。と同時に、声の主は持っていた扇子を振り上げると、観客席の直前まで迫っていた炎の塊は向きを変え、空高くへと突き進んでいくのであった。

 しばらくすると、上空で大きな爆発が発生する。カルムの空に浮かんでいた雲が、物凄い勢いで四方八方へと押し流されていく。

 チェイスが呆気に取られた様子で上空を見上げていると、炎の塊を放ったスタンド席から、再び甲高い男の声が聞こえてきた。


「貴様! よくも儂と爺が楽しみにしていた空想劇を台無しにしてくれたのう?」


「!!」


 チェイスが声がした方向へ顔を向けると、そこには烏帽子を被り、顔を白塗りにさせた中年男の姿があった。ヨネシゲは声の主を目にすると、驚いた様子で言葉を漏らす。


「あ、あの男は、オジャウータンの!?」


 そして、ゴリキッドもまた驚愕の表情を見せていた。


「あいつ!? あんなスゲー奴だったのか!?」


 チェイスは目を細めると、自分の攻撃を受け流した白塗り顔の男に問い掛ける。


「お前は、マロウータンだな?」


 チェイスに尋ねられた白塗り顔の中年男は、泣きじゃくる少女を抱きしめながら口角を上げる。


「如何にも。儂が南都五大臣の一人、マロウータン・クボウよ。か弱き少女に手を上げるとは……流石は下衆と名高い改革戦士団じゃな」


 そこへマロウータン専属執事のクラークが主の元まで駆け寄ってくる。すると彼は、どこに隠し持っていたであろうか? 紙吹雪が入った籠を手にすると、それをマロウータンの頭上へと撒き散らす。


「よっ! 流石、旦那様っ! お見事な扇子捌き! トロイメライ一でございますな!」


 クラークが称えると、マロウータンはドヤ顔でチェイスを見下ろす。

 チェイスが悔しそうな表情を見せていると、マロウータンが彼を挑発する。


「ウッホッハッハッハッ! 若造よ。この少女の子守は儂に任せるのじゃ。だから、早く見せよ。真の空想劇とやらを……!」


 マロウータンとチェイスは火花を散らしながら睨み合うのであった。



つづく……

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