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第60話 開幕! 悪夢のSHOW



 空想劇の会場に突如現れたチンピラたち。

 彼らは活劇を繰り広げている生徒たちに、ゆっくりと近付いていく。

 チンピラたちは、まるで生気を失ったゾンビのように、上半身を脱力させながら歩行していた。

 その不気味な姿に、観客席からはどよめきが起こる。そしてヨネシゲは、チンピラの姿を見て驚きの声を上げる。


「アイツら! ウオタミさんの肉屋に絡んでた、あのチンピラたちだ! 何故こんなところに!? それにアイツらの動きは何なんだ!? まるで誰かに操られているようだ!」


 チンピラたちから放たれる異様な雰囲気に、ソフィアも不安な表情を浮かべる。


「何、あれ? 怖すぎだよ。これも演出なの?」


「いや、これは、演出じゃないよ……」


 ソフィアの疑問にヨネシゲが返答する。

 これだけは断言できる。これは演出でないと。善良な市民から金を貪っている男たちが、この清浄な空想劇に出演することなどあり得ない。

 チンピラたちは肉屋の一件以来、街から姿を消していた。それはヨネシゲの存在に恐れてのことか? はたまた改心したのか? 理由は色々と考えられるが、彼らは今になって、通常ではあり得ない場所に現れた。

 ヨネシゲの脳裏に憶測が飛び交う。


(まさか、ウオタミさんに報復しにきたのか!? いや、ウオタミさんは学院前で屋台を出していたから、今ここには居ない筈。と、なると、標的は俺か? 奴らに鉄槌を下したのはこの俺だからな。でも、普通に考えて俺があのステージで皆と混じって演技してると思うか!? だとしたら、奴らの目的は……!?)


 思考を巡らすヨネシゲに、メアリーが尋ねる。


「シゲちゃん。この間、ウオタミに絡んでたチンピラたちって奴らのこと?」


「ああ、そうさ! カミソリの存在をちらつかせながら威張り腐る、小物たちさ」


 するとメアリーが、ある推測を立てる。


「あのチンピラたちの後ろ盾が、本当に悪魔のカミソリだとしたら……彼らの狙いは空想術部員。いや、もっと言えば、空想術部三人衆に一矢報いようとしているのよ!」


「なんだって!?」


 驚くヨネシゲ。しかし冷静に考えればメアリーの言うことも頷ける。

 空想術部三人衆のアラン、ヴァル、アンナは、先日行われた悪魔のカミソリ討伐に同行していた。

 持ち前の空想術で多くのメンバーを捕らえたそうだが、結果として悪魔のカミソリ頭領の怒りを買ってしまったのだろう。

 その頭領は現在も逃走を続けており、いつ報復に踏み切っても不思議ではない。そして実行役として下っ端(チンピラ)を用いるのは、彼らの常套手段(じょうとうしゅだん)でもある。

 以上の情報を整理すると、現在、空想劇が行われているステージに、悪魔のカミソリを後ろ盾にしているチンピラたちが現れたことも理解できる。


「だとしたら、アラン君たちが危ない!」


 ヨネシゲとメアリーはスタンド席から立ち上がる。


 同じ時、ルイスやアランたち空想術部員も異変に気が付く。


「アランさん、なんか客席の様子がおかしいですよ!?」


「ああ。一体何があったというんだ……!?」


 そして、ヴァルとアンナがチンピラの存在に気が付く。


「おい! 何だアイツら!?」


「あのような者たちが登場するなんて、聞いていませんよ!」


 他の空想術部員たちもチンピラたちの姿を見て困惑した様子だ。そして下級生部員の間である憶測が飛び交う。


「あれはきっと、先輩たちが用意したスペシャルゲストだろうよ!」


「え!? 俺、そんなの聞いてないぜ?」


「そりゃそうさ! この空想劇は台本通りにはいかない、アドリブ重視のショーなんだからさ!」


「なるほどな! 要するに俺たちは、3年生に試されているんだな。よし! そうと分かったら……!」


 下級生たちの見解はこうだ。

 チンピラに扮した3人組は、3年生が用意したスペシャルゲスト。彼らの登場は台本には書かれていないが、アドリブが当たり前となった空想劇に、彼らのような者が登場しても不思議ではない。実際、過去にもスペシャルゲストとして、王国内で名を轟かす猛者が出演したこともある。

 更に今は、現部長率いる3年生たちと次期部長候補が大技を繰り出し合う活劇の場面。そのタイミングで登場するのだから、あの3人組は相当な実力者に違いない。

 自分たちは試されている……!


「ヨッシャ! 俺はあの3人組の相手をする!」


「俺もだ! あの3人を制圧して、先輩たちの期待に応えるんだ!」


 勘違いした複数人の下級生たちが、チンピラたち目掛けて突っ走っていく。

 直感でただならぬ雰囲気を感じ取ったアランが、猛進する下級生を呼び止める。


「おい、待て! 近寄るな!」


 しかし、彼らの耳にアランの声は届いておらず、チンピラたちとの距離を瞬く間に詰めていく。


「覚悟しろっ!!」


 下級生たちがチンピラたちに飛び掛かろうとしたその時だ。

 先程まで上半身を脱力させていたチンピラたちが、突然力が宿ったかのように背筋をピンと伸ばすと、両手を構えて仁王立ちする。そして彼らは、瞳を赤く発光させると獣が吠えるが如く大きな雄叫びを上げる。


「ウオォォドギャァァァっ!!」


「!!」


 次の瞬間、彼らの構えた両手から衝撃波を発生させる。

 その威力は凄まじく、チンピラに襲い掛かった下級生たちの体は吹き飛ばされ、観客席とグラウンドを仕切る石造りの壁に思いっきり叩きつけられてしまった。

 離れた場所に居た生徒たちも、十数メートルほど吹き飛ばされてしまう。


「ル、ルイス!!」


 吹き飛ばされるルイスたちの姿を目の当たりにして、ヨネシゲは息子の名を叫んだ


 気付くとグラウンドで演技していた生徒たちは、全員その場に倒れていた。

 予想外の出来事に、ソフィアは両手で口を覆いながら言葉を失っており、メアリーとゴリキッドは驚いた表情で大きく口を開け、トムとメリッサは怯えた様子で身を寄せ合っていた。


「こ、これは、どういうことじゃ……!?」


 特等席で空想劇を楽しんでいたマロウータンも、衝撃的な光景を目の当たりにして、顔を青くさせていた。


 やがて、起き上がったルイスは、隣に居たカレンに手を貸す。 


「カレン、怪我はないか!?」


「うん、私は大丈夫。ルイス君は大丈夫?」


「ああ。俺も大丈夫だよ。アランさんのバリアのお陰だ」


 2人は、アランが咄嗟に発生させたバリアにより、無傷で済んだ。

 アラン、ヴァル、アンナの3人は既に立ち上がって、辺りの様子を見渡していた。3人の視界に映り込んできたのは、額や口から血を流して意識を失い倒れている仲間たちの姿だった。彼らが衣装として身に付けていた本物の鎧や兜もボロボロになっており、その衝撃の凄まじさが窺える。

 アランは顔を青ざめさせながら声を荒げる。


「一体、これはどうなっているんだ!?」


 ヴァルとアンナもショックを隠しきれない様子で言葉を漏らす。


「じょ、冗談じゃねえぞ……!」


「ひ、酷い。どうして、こんな……」


 ルイスやアランたちが呆然と立ち尽くしていると、一人の男がグラウンドに姿を現す。


「お、お前は……!」


 男の姿を見たアラン、ヴァル、アンナは驚いた表情で冷や汗を流す。一方の男は、アランたちの表情を見てニヤッと笑みを浮かべる。


「よう、ガキ共。先日は世話になったな……」


 そう。アランたちの前に姿を現したのは、先日アランたちが取り逃がした、マフィア組織「悪魔のカミソリ」の頭領だった。


「姉さん、コイツは尋常じゃねえ! 皆を助けないと!」


「そうね。子供たちを保護しましょう!」


 そこへ、別席で友人と空想劇を楽しんでいた、ヨネシゲの姪リタが2人の元へ駆け寄ってきた。そして彼女は驚きの言葉を口にする。


「お母さん、おじさん。私も加勢しますぜ!」


 驚いたヨネシゲが、リタを静止する。


「な、何を言っているんだ、リタ! 危ないからここで待っていろ!」


 そんなヨネシゲをリタが鼻で笑う。


「旦那、冗談を言っちゃいけねえ。私は、戦鬼と呼ばれたメアリーの子供だよ?」


「そんなこと言われてもよ……」


 ヨネシゲが困っていると、メアリーが予想外の言葉を発する。


「娘よ。同行を許可しよう」


「ちょ、姉さん!? マジで言ってるのか!? 娘を危険な目に遭わすつもりか!?」


 驚いたことにメアリーは、愛娘が危険地帯となったグラウンドに向かうことをあっさりと許可した。反対するヨネシゲにメアリーが言葉を掛ける。


「シゲちゃん、心配はいらないよ。リタは私が厳しく鍛え上げたからね。少なくとも、今のシゲちゃんよりは強いわよ」


「な、なに!?」


「リタの実力を試すのには、ちょうど良い場かもしれないわね……」


 メアリーはそう言い終えると、誇らしげな表情を見せる。納得いかない様子のヨネシゲに、リタが言葉を掛ける。


「そういうことだよ、おじさん! 私の実力、見せてあげるわ!」


 緊迫した状況であるが、意気込む彼女の姿を見て、ヨネシゲは思わず笑いを漏らす。


「ガハハッ! 流石、姉さんの娘だ。子供の頃の姉さんにそっくりだよ」


 ヨネシゲの言葉を聞いたリタは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「思い出話は後よ! 生徒たちを保護するには人数が多いに越したことない。2人共、気を引き締めていきなさいよ!」


「わかったよ、姉さん!」


 メアリーがそう言い終えると、ヨネシゲたちは互いに顔を見合わせて頷く。そして3人は生徒たちを保護するため、ステージとなるグラウンドへ向かおうとする。

 その時だった。突然どこからともなく、会場全体に若い女の声が響き渡る。


「皆さん! 大人しくしていてください! 下手に動けばこの倒れている生徒さんたちの命はありませんよ?」


 女の声を聞いたヨネシゲは驚愕する。


「こ、この声は……グレース先生だ……!」


 女好きヨネシゲが、好みの女の声を聞き間違えることなど、無いに等しい。そんな彼が耳にしたのは、紛れもない、グレース本人のものだった。



つづく……

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