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第59話 グレースとチェイスとカミソリ頭領



 ステージとなるグラウンドの入場口。その死角から空想劇の様子を眺める男女たちの姿があった。


「――フフッ、寒いんだよ」


 ルイスやアランの台詞を聞いて言葉を漏らす、紫髪のツーブロック男の正体は、改革戦士団第4戦闘長「チェイス」だった。


「あのガキ共、自分に酔いしれてやがるな。見てて反吐が出るぜ」


 チェイスの言葉を聞いていたグレースが笑いを漏らす。


「ウフフ。やらせておきなさい。天狗になっていられるのも今のうちなのだから」


「まあ、そうだな。大勢の観客の前で恥をかかせてやる。後世に語り継がれるような大恥をな!」


 そこに2人のやり取りを聞いていた学院長ラシャドが口を挟む。


「君たち! 一体生徒たちに何をするつもりだ!?」


 ラシャドはグレースたちに問い掛けながら、戦闘員たちに掴まれた腕を振り解こうとする。その様子を見つめながらグレースが返答する。


「我々も悪戯に危害を加えるつもりはありません。ただ……空想術部三人衆のアラン君、ヴァル君、アンナちゃんには消えてもらいます」


「アラン君たちを!? 一体、何故だ!?」


「悪い芽は早めに摘んだ方が良いって、昔からよく言うでしょ? あの子たちをこのまま野放しにすれば、いずれ我々の前に立ちはだかることでしょう」


「君たちは、何の罪もない子供たちを手に掛けるつもりなのか!?」


「罪もない子供ですって? さて、子供が軍隊や保安隊と一緒になって、犯罪組織の討伐なんて行うかしら? 大人相手に好き放題暴れておいて、今更子供なんて言わせないわよ。今回の件で、悪魔のカミソリさんもお怒りよ?」


「悪魔のカミソリだって!? ま、まさか、君たちの目的とは……!?」


 ラシャドは「悪魔のカミソリ」という言葉を聞いて全てを察した様子だ。

 何を隠そうアランたち空想術部三人衆は、先日決行された悪魔のカミソリ討伐に同行していた。故にアランたちが悪魔のカミソリの怒りを買ってしまったと安易に想像できる。

 青ざめるラシャドにグレースが言葉を続ける。


「我々改革戦士団は、決してアラン君たちに恨みがあるわけではありません。ただ、こちらの悪魔のカミソリさんと色々と利害が一致しているので、協力しているだけですよ」


 そこへ悪魔のカミソリ頭領が姿を現す。


「多くの同胞たちが、アンタの生徒に殺されちまった。借りは返させてもらうぞ」


 頭領の言葉にラシャドが反論する。


「それは違う! アラン君たちは君たちの仲間を捕らえただけで殺めてはいない! 君の仲間を殺したのは兵士や保安官たちだ! アラン君たちを恨むのは間違ってるぞ!?」


「殺った殺ってないは関係ない。俺を怒らせたことが問題なんだよ! アンタには、大事な生徒がミンチになるところを見届けてもらうぞ!」


 すると突然、ラシャドが笑い声を上げる。


「ホッホッホッ!」


「何が可笑しい?」


「君たちごときがアラン君たちに勝てると思っているのか? 現に君たちはアラン君たちを前にして手も足も出なかったそうじゃないか。自惚れるのも大概にするのだな!」


「くっ!! このオヤジがっ!!」


 ラシャドの言葉に頭領が激昂する。頭領はラシャドの顔や腹にパンチやキックを食らわす。しばらく彼の執拗な攻撃が続くが、グレースによって制止される。


「頭領さん、その辺にしておきなさい」


「糞ジジイが! 発言には気を付けろよ!」


 彼女の制止もあり、頭領の攻撃が止まる。ラシャドは意識は有るものの、ぐったりとした様子で座り込み、額や口鼻から血を流していた。

 頭領が静まったところで、チェイスは彼に、片手で握れる大きさの水晶玉を手渡した。


「なんだ、これは?」


「この水晶玉には、特殊な空想術を仕込んである。アンタの意のままに検体の身体を操ることができる」


「へへっ。そいつは面白え……」


 頭領はチェイスから水晶玉を受け取ると、ニヤッとした笑みを見せる。そんな彼にチェイスが忠告する。


「何度も言うが、俺たち改革戦士団の力を借りている事を忘れるなよ? 失敗は俺が許さん。もし改革戦士団の名を傷付けるようなことがあれば……」


「フン! 勘違いするなよ。あくまでも、俺らとアンタたちは対等な関係だ。協力はしているが、アンタたちから助けてもらってるつもりはない」


「なんだと?」


 頭領の言葉にチェイスは怒り心頭の様子だが、グレースに宥められる。


「チェイス、落ち着きなさい。始まる前から仲間割れなんてお粗末よ」


「けどよぉ」


「まあ、実際カミソリさんは、我々に協力してもらっている形だから、彼の言う事は間違ってはいないわ」


 グレースの言葉を聞いた頭領は、チェイスに勝ち誇った表情を見せる。


「そういうことだ。俺らは対等なんだ。偉そうに踏ん反り返ってるんじゃねぇぞ?」


「貴様……!」


 挑発する頭領をグレースが制止する。


「ねえ、頭領さん。喧嘩はもうお終いよ。仲良くしましょう」


 グレースがそう言いながら頭領の男に体を密着させると、頭領は鼻の下を伸ばす。


「本当、お前は良い女だぜ。今晩も相手してくれるか?」


「ウフフ。この仕事をしくじらなければね……」


「フフッ。安心しろ、失敗はしねぇよ」


 まるでカップルのようにイチャイチャする2人を見て、チェイスは苛立ちを募らせる。


「グレース! いつまで遊んでいる!? お前、その男とそういう関係だったのか?」


 グレースはニヤッと笑みを浮かべる。


「あら、妬いてるの?」


「や、妬いてねえよ!」


「ウフフ。アナタも可愛いところあるのね」


「もういいっ! 仕事を始めるぞ!」


「わかったわ」


 グレースの戯れが終わった途端、場の雰囲気が一変する。先程まで色っぽい笑みを浮かべていたグレースは、冷たい眼差しでグラウンドを見つめ、チェイスも鋭い目付きを見せながら、部下たちに指示を出していた。

 一気に仕事モードになった2人を見て、頭領は思わず息を飲む。

 すると彼らの前に、腕を縛られ、目と口を布で覆われた3人の青年が連れてこられた。3人の姿を目にした頭領が鼻で笑う。


「来たか。クズ共が……」


 彼らの正体は悪魔のカミソリの手先として悪事を働いていたチンピラ3人組だった。このチンピラたちは以前ウオタミの肉屋から多額のみかじめ料を巻き上げていた。

 やがてチンピラたちの目と口を覆っていた布が取られると、彼らは跪き泣き叫びながら命乞いをする。


「お願いします! どうか命だけはお助けください!」


「もう仕事も失敗しません! もう一度チャンスをください!」


「俺たち、まだ死にたくありません……」


 命乞いするチンピラたちに、グレースが静かに語り掛ける。


「坊やたち。一応ね、君たちの素性を事細かく調べさせてもらったわ。万が一、坊やたちが善良な市民だったとしたら、この作戦で使うのは流石に可愛そうだからね」


 チェイスがグレースに尋ねる。


「それで? その素性とやらはどうだったんだ?」


 グレースはニヤッと笑みを浮かべると、前かがみになり、跪くチンピラたちの顔を覗き込む。


「ウフフ。一通りやることはやっているクズ共よ。窃盗、恐喝、暴行、更には監禁や強姦まで。悪魔のカミソリを後ろ盾に無双していたのよ。そうでしょ? 坊やたち?」


 グレースに事実を突き付けられたチンピラたちは、顔を青ざめさせながら許しを請う。


「本当にすみませんでした! 本当に反省してます! マジで反省してます! だから、許して……!」


「黙りなさい!」


 グレースは怒鳴り声を上げると、チンピラに平手打ちを食らわす。


「私は、アンタたちのような小物が大嫌いなのよ! 権力や組織を後ろ盾に弱い者いじめをする連中がね!」


 グレースはそう言葉を吐き捨てると、チンピラたちを冷たい眼差しで見下ろす。そして、チンピラの背後に控えていた戦闘員たちに合図を出す。

 グレースの合図を受けた戦闘員たちはチンピラたちの首根っこを押さえつけると、懐から注射器を取り出した。注射器には緑色の液体が目一杯に入れられていた。

 チンピラたちは怯えた様子で尋ねる。


「そ、それって、ま、まさか……!?」


 彼らの問い掛けにチェイスが答える。


「お察しの通り、注射器には軍事用具現草から抽出した液体がたっぷり入れられている。今からこれをお前らの体内に注入する……」


 チェイスがそう言い終えると、戦闘員たちは注射器をチンピラたちの首元目掛けて構え始める。


「や、やめろ……やめてくれっ!」


 チェイスが戦闘員に命令する。


「やれ」


 その瞬間、3人のチンピラの首元に注射器の針が突き刺さる。と同時に彼らの悲鳴が辺りに響き渡った。





「!!」


 空想劇を観ていたソフィアの顔が突然強張る。ヨネシゲが不思議に思い彼女に尋ねる。


「ソフィア? どうしたんだ?」


「今、悲鳴が聞こえたような……」


「悲鳴か? それって生徒たちの演技の声だろ?」


「いえ。それとは別に、本当の悲鳴というか……」


 2人がそんなやり取りをしていると、突然観客席がざわつき始める。ヨネシゲたちがステージへ目を向けると、入場口から3人の男が姿を現した。

 3人の姿を見たヨネシゲが驚きの声を上げる。


「あ、アイツらは! あの時のチンピラたちだ!」


 ステージとなるグラウンドに姿を現したのは、ヨネシゲも見覚えがある、あのチンピラたちであった。


「さあ、思う存分暴れるがよい!」


 悪魔のカミソリ頭領は水晶玉片手に不敵な笑みを浮かべていた。



つづく……

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