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第54話 戦闘長



 謎の集団が学院内に足を踏み入れてから、十数分が過ぎた頃。実習棟のある教室で異変が起きていた。

「治癒実習室」と表示された教室の入口には、準備中と書かれた札が掛けられていた。そして扉に設けられた窓にも黒いカーテンが掛けられており、教室内の様子を伺うことができない。

 そこへ、可愛らしい見た目の少年が姿を現す。彼は、この治癒実習室で出し物をしている、空想治癒部の部員である。

 少年は、他の部員たちから頼まれた買い出しを終えて、皆が待っている治癒実習室に戻ってきたところだ。

 やがて少年が教室の扉前にやって来ると、すぐ異変に気付く。


「あれ、準備中? みんな休憩でもしているのかな?」


 少年は教室の扉を開ける。すると、教室内は真っ暗な状態だった。カーテンは全て閉められており、照明もつけられていなかった。少年は恐る恐る教室内部へ進んで行くと、衝撃的な光景を目の当たりする。


「え……? ええっ!?」


 少年は腰を抜かす。少年が見たものとは、教室の一角で、意識を失い倒れている他の部員たちの姿であった。


「だ、誰か……助けを呼ばなくちゃ!」


 少年が助けを呼びに行こうと立ち上がった瞬間、教室の扉が勢いよく閉められる。少年が扉の方へ視線を向けると、一人の女の姿があった。


「グ、グレース先生?」


 少年が震えた声で尋ねると、女は怪しげな笑い声を漏らす。


「ウフフ、そうよ。私はグレース先生ですよ。買い出し、ご苦労さま」


 女の正体はグレースであった。グレースは治癒系空想術の教師にして、空想治癒部の顧問である。彼女が顧問のグレースだとわかった少年は、急ぎ助けを求める。


「せ、先生、大変です! み、みんなが! 倒れています! 早く助けないと……!」


 するとグレースは妖艶な笑みを浮かべながら、少年との距離を縮めていく。


「それ、私がやったのよ」


「え?」


 予想外の言葉に少年は目を丸くさせる。そうこうしている間に、グレースは少年の目の前まで歩みを進める。身の危険を感じた少年は後退りするも、すぐ背後には壁が迫っていた。少年はグレースに追い詰められる形になってしまい逃場を失った。

 グレースは少年の腕を掴み、体を密着させる。そして少年の耳元に顔を近付けると、甘い吐息を漏らしながら囁き始める。


「ウフフ。やっと、君と、2人きりになれたわね。先生、ずっとこの時を待っていたのよ」


 グレースは、苦しそうに息を荒げる少年のネクタイを緩めると、続けてワイシャツのボタンに手をかける。


「せ、先生! お願い、やめて!」


「ウフフ。そんな事を言っている割には抵抗してないようだけど?」


 伸ばされたグレースの手が少年の頬に触れる。その途端、少年は突然意識を失いその場に倒れてしまった。


「あらあら。まだ何もしてないわよ?」


 グレースが残念そうな表情で、倒れた少年を見下ろしていると、教室の一角からある男の声が聞こえてきた。


「おいおい、相変わらず悪い女だな。子供にその空想術(ちから)は刺激が強すぎるぜ?」


 教室内は薄暗く、暗闇に隠れた男の姿は、はっきりと確認することができない。たが、グレースは男のことを知っているようで、彼の声を耳にするとニヤッとした笑みを浮かべる。


「ウフフ、ちょっとくらい良いでしょ? こんな可愛い子、なかなか居ないんだから」


 男は呆れた様子で、グレースの元まで歩み寄る。


「まったく、仕事だって言うから飛んできたが。お前の悪趣味に付き合ってる暇は無いんだぞ? おまけに、俺にこんな格好までさせやがって。まあいい……その子供で最後なんだよな? 人質が揃ったなら直ぐ作戦に移ろうぜ。オジャウータンの件もあるし、ゆっくりしている暇はないんだ」


 グレースの前に現れたのは、あのピエロ男だった。グレースは苛立っているピエロ男に言葉を返す。


「まあ、そう焦らないの。ものには順番があるでしょ? とは言っても、後は学院長を拘束して、時を待つだけよ」


「たかが検体を試すだけに手の込んだことをする。あまりにも時間を掛け過ぎだ。それこそ検体なんか、オジャウータンの軍勢と相手させればいいだろ?」


「仕方ないでしょ、総帥とダミアンの意向なのだから」


「総帥とダミアンが? てっきり俺は、お前の悪ふざけだと思ってたぜ」


「検体を使って、カルム学院空想術部三人衆を抹殺し、周辺の人物に絶望を与えろ……これが今回の指令よ」


 ピエロ男は眉を(ひそ)める。


「総帥たちは、何故この学院のガキ共に拘る?」


「これは噂だけど、総帥たちは三人衆と関わりがある、カルムのヒーローと呼ばれる男に恨みがあるらしいわよ」


「カルムのヒーロー?」


「ええ。この街では名を馳せる猛者みたいだけど、私が見る限り大した事はなさそうよ」


「そんな野郎をあの総帥やダミアンが恨んでいるというのか?」


「さあね。あくまでも今回の標的はカルム学院空想術部三人衆。後はカミソリさんたちに任せて、私たちは高みの見物をしましょう」


「ゆっくりしている暇はないと言ってるだろ? とっととガキ共を片付けて、オジャウータンの首を取らねばならん!」


 マイペースなグレースにピエロ男は苛立ちを募らせる。そんな彼にグレースは不敵な笑みを浮かべる。


「子供とはいえ、我々にとって後々の脅威となる。悪い芽を摘むのも立派な仕事よ。それにオジャウータンはダミアンと四天王に任せておけば問題ないでしょ? 寧ろ、アナタなんかが一緒に行ったところで足手まといになるだけよ」


 グレースの言葉を聞いたピエロ男は、顔をムッとさせる。


「フン! 足手まといで悪かったな!」


「ウフフ。冗談よ、そう怒らないで。アナタの実力は知っているつもりよ」


 不機嫌そうな顔で顎をしゃくるピエロ男に、グレースは笑い声を漏らす。


「ウッフッフッ!」


「何がおかしい!?」


「おかしいに決まってるでしょ? いつまでそんな格好をしているつもりなの?」


 ピエロ男は顔をハッとさせる。彼は慌てた様子で、派手な衣装を脱ぎ捨てると、その真の姿が明らかになる。

 紫髪のツーブロックに髪と同色の瞳。顎髭を生やしたガタイの良い青年の正体は、改革戦士団第4戦闘長「チェイス」であった。

 そして、チェイスと親しげに話すグレースもまた、改革戦士団の一員であり、第3戦闘長を任される猛者であった。


 2人の戦闘長は、このカルム学院で、恐ろしい作戦を決行しようとしていたのだ。



つづく……

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