表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/395

第48話 ゴリキッドの決意



 カルム学院祭開催まであと2日となった。

 カルムの人々は胸を高鳴らしながらも、普段通りの生活を送っていた。


 ヨネシゲは徐々に守衛の仕事も慣れてきたようで、今日から単独で業務を行うことになっている。起床した彼は身支度を済ますと、朝食をとるためリビングへと向かう。


「みんな、おはよう!」


 ヨネシゲがそう挨拶すると、4人の男女が挨拶を返す。その4人の男女とは、毎度おなじみの妻ソフィアと息子のルイス。そして数日前から一緒に暮らすことになった、ルイスと同い年の少年ゴリキッドと、彼の妹のメリッサだ。

 ゴリキッドたちはカルムタウンに迷い込んだ難民。メリッサが栄養失調で倒れているところをヨネシゲたちに救われ、その流れでヨネシゲたちと同居することになった。既に2人はクラフト一家とも打ち解けており、和気あいあいと暮らしている。

 ヨネシゲがゴリキッドたちの向かいの席に腰掛けると、早速彼らに声を掛ける。


「どうだ、ゴリキ。パン屋の仕事は慣れたか?」


「だいぶ慣れたよ。とは言っても、まだ接客しかやらせてもらえないがな。それにしても、ヨネさんの姉さん、おっかねえな〜」


「ハッハッハッ! 姉さんだけは怒らせないほうがいいぞ!」


 苦笑いを見せるゴリキッドに、ヨネシゲは笑い声を上げた。

 ゴリキッドはヨネシゲの家で居候を始めたと同時に、メアリーのパン屋でアシスタントとして働くこととなった。

 ゴリキッドたちを居候させたものの、転職したばかりのヨネシゲに彼らを養う余裕はない。せめてゴリキッドたちには自分たちの食費だけでも稼いでもらいたい。そう思ったヨネシゲは姉メアリーに掛け合い、ゴリキッドを雇ってもらったのだ。

 ヨネシゲは続けてメリッサに声を掛ける。


「メリッサ、学校はどうだ? わからないことがあったら、おじさんたちに遠慮せず聞けよ」


 メリッサは笑顔で答える。


「うん、大丈夫! わからないことはトムが教えてくれるから。それにもう友達もたくさんできたよ!」


「おお! そいつは良かったな!」


 メリッサの体調は既に回復しており、2日前からカルム領内にある初等学校に通い始めている。

 彼女の事情を知った、カルム学院長ラシャドが初等学校を紹介してくれたのだ。その初等学校はヨネシゲの甥トムも通っており、メリッサは彼と一緒に仲良く登下校している。


「そろそろトムが迎えに来るんじゃないか?」


 ヨネシゲの言葉にメリッサは頬を赤めながら頷いた。案の定、玄関の方からトムの声が聞こえてきた。


「メリッサちゃん! 迎えに来たよ~!」


「は〜い! 今行くね〜!」


 メリッサは玄関に居るトムに返事を返すと、食べ掛けの朝食を口の中に掻き込む。


「じゃあ、みんな! 行ってくるね!」


「おう! 気を付けてな!」


 メリッサはヨネシゲたちに元気良く挨拶すると、登校のため家を後にした。そしてルイスもメリッサの後を追うように席を立ち上がる。


「俺もそろそろ学校行ってくるよ!」


 ここでヨネシゲがルイスにあることを尋ねる。


「そういえばルイス、今日は随分ゆっくりだな。部活の朝練はないのか?」


「うん。昨日の放課後から学院祭の準備で練習場が使えなくなってるんだ。だから、朝練もしばらくお休みさ」


 ルイスは説明を終えると、ゴリキッドの肩を叩く。


「それじゃ、ゴリキ。今日も仕事頑張れよ! くれぐれも伯母さんは怒らすなよ」


「わかってるって! ルイスも勉強頑張ってな!」


「ああ! 帰ったらみんなでボードゲームの続きやろうな!」


 同い年のルイスとゴリキッドは会話も合うようで、打ち解けるのに時間は掛からなかった。既に長年の友達を相手にするように接している。

 ルイスはゴリキッドとの会話を終えると、登校のため家を出発した。


「さて、ゴリキ。俺たちもぼちぼち仕事に行くか」


「おう、そうだな!」


 ヨネシゲとゴリキッドも朝食を済ませると、通勤用の鞄を持って玄関へと向かう。


「あなた、ゴリキ君。今日も頑張ってね! 気を付けて行ってくるのよ」


 見送りの言葉を掛けるソフィアにゴリキッドは照れた様子で返事を返す。


「へへへ。ソフィアさん行ってきます!」


 ヨネシゲは気合が入った声で返事を返す。


「おう、行ってくるよ! 俺は宿泊勤務(泊まり)だから、また明日の朝だな。留守は任せたよ。戸締まりはちゃんとするんだぞ。何かあったら、すぐ姉さんの所へ避難するんだぞ!」


「ウフフ、大丈夫よ。あなたは心配性ね」


 ヨネシゲとゴリキッドはソフィアに見送られながら、家を出発した。




 ゴリキッドが働いている、メアリーのパン屋は、ヨネシゲの家から歩いて数分の場所に位置する。そのためヨネシゲは家を出てからすぐにゴリキッドと別れることになる。その短い道中で、ゴリキッドは胸の内を明かす。


「ヨネさん。みんなには本当に感謝している。感謝してもしきれないよ……」


 真剣な表情で言葉を口にするゴリキッドに、ヨネシゲは微笑み掛ける。


「いいってことよ! 困ったときはお互い様だからな」


 ゴリキッドは俯きながら言葉を続ける。


「俺はウオタミさんと魚屋のオヤジさんには酷いことをしてしまった。2人から盗みを働いた挙げ句、酷い言葉まで掛けてしまった。なのに2人共、何事もなかったかのように接してくれる。2人だけじゃない。カルムの人たちは皆、俺たちのことを実の子のように気遣ってくれる。俺は、嬉しくて、嬉しくて、堪んねぇ……」


 ヨネシゲは、感極まって涙を流すゴリキッドの肩を叩く。


「この街の人たちは皆温かい。勿論、俺も含めてな! ほら、しけたツラはもうするな」


「ヨネさん……」


 ゴリキッドは、満面の笑みを浮かべるヨネシゲの顔を見上げた。


「ゴリキ、もう着いたぜ! そんじゃ仕事頑張ってこいよ」


「お、おう! ヨネさんもな!」


 気付くと2人はメアリーのパン屋前に到着していた。ヨネシゲはゴリキッドにエールを送ると、足早に学院へと向かっていった。その後ろ姿をゴリキッドはじっと見つめる。


(ヨネさん、この恩は必ず返すよ。いや、ヨネさんだけじゃない。ソフィアさんやルイス、街のみんなにもな。じゃなきゃ、故郷には帰れないよ)


 ゴリキッドは拳を強く握り締めながら、ヨネシゲの後ろ姿を見えなくなるまで見つめるのであった。



つづく……

ご覧いただき、ありがとうございます。

次話投稿は明日のお昼頃を予定してます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ