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第3話 悪魔の拳

暴力的なシーンが含まれます。閲覧の際はご注意ください。

 響き渡るソフィア悲鳴。玄関のルイスはリビングへ急行する。


 ルイスはものの数秒でリビングに到着――視界に映り込んだのは、恐怖で体を震わせる母の背中。その怯えた眼差しの先には、息を荒らげながらファイティングポーズを見せる見知らぬ青年(ダミアン)の姿があった。

 息苦しいのか? 見知らぬ青年は着けていた白いマスクを顎の辺りまで下ろしている――その顔は、威嚇する獣のようだった。


 温厚なルイスが、侵入者に怒声を浴びせる。


「誰だお前っ!! 勝手に人の家入ってるんじゃねぇ!!」


「黙れっ!! 騒ぐなっ!! 大人しくしないとぶっ殺すぞ!!」


 緊迫のリビングを切り裂くルイスの怒号。対するダミアンも負けんじと大声で威嚇する。

 激昂のダミアンは脅迫を続ける――だが、ルイスは冷静だった。彼は思考を停止させている母親に行動を促す。


「何やってんだ、母さん! 早く警察を呼ぶんだ! コイツは俺が引き付けておくから!」


「わ、わかったわ!」


 ソフィアは息子のの声にハッする。

 携帯電話を手にするソフィア――悪魔が動く。


「させるかよっ!!」


 ダミアンは稲妻の如くルイスの側方をすり抜ける――ルイスが叫んだ。


「母さんっ!! 危ない!!」


 息子の金切り声がソフィアの耳に届く。

 彼女は携帯電話の画面から前方に視線を移す――そこには、拳を構えるダミアンの姿があった。

 

 ――悪魔が絶叫する。


「勝手なことしてるんじゃねぇ!!」


「!!」


 ダミアンの強烈な拳が、ソフィアの腹部を捉える。

 鈍く重たい打撃音――気付くとソフィアは倒れていた。

 直後、ルイスの悲痛な叫びがリビングを木霊する。


「母さあぁぁぁん!!」


 先程まで冷静を装っていたルイス。しかし、ダミアンに殴られ気絶する母の姿に気が動転する。


「か、母さん!? だ、大丈夫!? しっかりしてっ!!」


 ルイスはソフィアの元まで駆け寄ると、その身体を何度も揺さぶった。


 ――全く反応がない。


「お前っ! よくも母さんをっ!!」


 ルイスは怒鳴りを上げる――怒り、悲しみ、恐怖の仮面を同時に被りながら。その瞳からは大粒の涙が零れ落ちる。


 ――彼が怒りの眼差しを向けた先には、迫りくる悪魔の拳があった。


 ――ルイスも悪魔の拳の餌食となる。

 真正面から顔面を殴り飛ばれたルイス。その身体は宙を舞う砂袋。彼が着地した瞬間、重たい衝撃音と振動が床を波紋する。


 この時、ダミアンは錯乱状態していた。

 もはや彼に自制心の欠片もない――悪魔を抑え込んでいた封印が解かれた。


 ダミアンはルイスに跨ると、その顔面を何度も殴る。


「死ねっ! 死ねっ!! このガキがっ!! 調子に乗ってるんじゃねぇ!!」


 リビングに轟くダミアンの奇声――打ち付ける拳の雨音。

 ダミアンの拳、顔面は赤く染まり、顎に掛けられていた白いマスクがその赤を際立たせる――常軌を逸した光景だ。


 ――やがて、ルイスの呼吸が止まった。


 顔を赤く染め上げたルイス。ダミアンは息を荒げながら勝ち誇った表情を見せる。


「クソガキがっ!! 思い知ったかっ!?」


「ル、ルイス……」


「!!」


 ダミアンの背筋が凍りつく。

 突然耳に届くソフィアの細い声。ダミアンは顔を強張らせながら、彼女に視線を向ける。

 ソフィアは意識を取り戻したようだ。しかし瞳は閉じたまま。苦しそうな表情を浮かべながら蹲っていた。


 ――まだ、変わり果てた息子の姿に気が付いていない。


 ダミアンが再び発狂する。そして彼は再び暴挙に出る。今度は彼女の上に飛び乗ったのだ。


「お前も! お前もだ! 死ねっ! 死ねっ!!」


 ダミアンは無抵抗な彼女に執拗な拳の嵐を食らわせ続けた。




 ――我に返るダミアン。そこには変わり果てた2人の男女の姿があった。

 元ボクサーの鍛え抜かれた拳は、2人の顔面を判別がつかないほど変形させてしまったのだ。


(ヤ、ヤバい……やっちまった! 何やってんだ俺!?)


 ダミアンは腰を抜かす。ようやく事の重大さに気付いたようだ。後悔したところで時すでに遅しだ。


 ――ダミアンが身勝手な言い訳を始める。


「コ、コイツらがいけないんだ! 俺の忠告を無視して、騒ぐからいけないんだっ!!」


 ダミアンはキョロキョロと周囲を見渡す。


(何とかしないとっ……!)


 ダミアンの手に付着した2人の血液。それを目にした彼はリビングの流し台へと向かった。


(クソっ! なかなか取れない! 水も冷たいし最悪だ!)


 ダミアンは横たわった2人の亡骸に視線を移すと、証拠隠蔽の為、思考を巡らす。


(とりあえずクローゼットにでも隠すか。いや、そんなのすぐにバレる! そもそも隠し通すなんて無理な話だ! 何か良い方法は……)


 リビングをしきりに見回すダミアン。すると、その一角に置かれた石油ストーブに目が止まった。

 

 ――ダミアンは口角を上げる。


(これだ! 上手くいけば証拠を消すことができる!)


 ダミアンは手洗いに見切りをつけると、石油ストーブの元まで駆け寄る。そしてその中から燃料タンクを取り出すと、2人が倒れている絨毯の上に灯油をばら撒いた。 


 ――悪魔が微笑んだ。


「全部綺麗に燃えてくれよ」


 ダミアンは、灯油が染み込んだ絨毯の上に、着火させたライターを落とした。


 外に出るダミアン。

 次第に勢いを増す炎を確認すると、足早にその場から立ち去った。




 ――それから数十分後。

 帰宅したヨネシゲを出迎えたのは――骨組みを覗かせる、燃え盛る我が家だった。



つづく……

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