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第36話 アラン(後編)



 ――日が沈み、辺りが暗くなった頃、ルイスが帰宅してきた。

 ヨネシゲがルイスを出迎えるのため玄関へ向かう。するとルイスがムッとした表情を見せる。ヨネシゲが不思議に思い、表情の理由をルイスに尋ねる。


「ルイス、どうしたんだ? 怖い顔して?」


 するとルイスは怒った口調で口を開く。


「どうしたもこうしたもないよ! 父さん、ああいうの止めてよね。凄く恥ずかしかったんだから!」


「あ……! あれか……」


 ヨネシゲは思い出す。ラシャドに学院内を案内され、ルイスの教室前を立ち寄った際のこと。ヨネシゲは授業中にも関わらず、ルイスの顔を見るなり、満面の笑みでVサインを送った。それが他のクラスメイトから笑われてしまい、ルイスは当分の間からかわれ続けたのだ。

 あの時は我が息子の姿を見て嬉しくなってしまい、あのような行動をとってしまった。しかし今思えば、ルイスにとても申し訳ないことをしてしまったと、反省するヨネシゲであった。


「本当にすまない。悪気は無かったんだ……」


 ルイスはため息を吐いたあと、優しい笑みを浮かべる。


「ま、もう済んだ事だから、これくらいにしておくよ。でも、父さんらしいや。実はちょっと面白かったんだ」


 先程まで反省した表情を見せていたヨネシゲであったが、ルイスの言葉を聞いた途端、ニヤッと笑みを浮かべる。


「え? そうなのか!? じゃあ、明日から毎日やってやるよ!」


「いや、それは勘弁だよ!」


「冗談だよ、ドンマイ!」


「まったく、父さんは……反省してないでしょ?」


「してるよ、してるさ〜」


 何はともあれ、2人の親子は何事も無かったかのように、会話を楽しむ。そこへソフィアも息子を出迎えに玄関にやってきた。


「ルイス、おかえり!」


 ルイスはソフィアの姿を見るなり頭を下げる。


「母さん、今朝はごめん。これから発言には気を付けるよ」


 ルイスは今朝方、ゲネシスの進軍の件で不謹慎な発言をしてしまい、ソフィアから注意を受ける。しかし、ルイスはソフィアに対して反抗的な態度をとってしまい、そのことを反省していたようだ。

 頭を下げるルイスにソフィアが微笑み掛ける。


「大丈夫だよ。ルイスならきっと叱った意味を理解してくれていると思っていたから」


 ソフィアは優しくルイスの肩を叩く。顔を上げたルイスは安堵の表情を見せていた。その様子をヨネシゲが微笑ましく眺めていた。


(心優しい妻に素直な息子。流石、俺の家族だぜ!)


「ドンマイドンマイ! さあ、飯にしようぜ!」


 ヨネシゲはそう言いながら、2人の背中を押すと、夕食を取るためリビングに向かうのであった。





 ――夜は耽ってカルムの街は静まり返っていた。

 ここはカルムタウンにある領主の屋敷。その一室である極秘会議が行われていた。

 室内には大きな長テーブルが置かれており、その周りを十数名の男が囲む。

 長テーブルの端、窓際のアームチェアには温厚な顔付きの中年男が腰掛けていた。中年男は茶色い髪はオールバックで決めているようだが、前髪は少々乱れており、一部が垂れ下がっている。そして中年男は右手で顎髭を撫でていた。

 この中年男の正体は、カルム領主「カーティス・タイロン」であった。

 真夜中に極秘で執り行われていた極秘会議とは、今カルムタウンを騒がすマフィア組織「悪魔のカミソリ」討伐に関するものだった。そして今夜は、悪魔のカミソリアジトの急襲が決行される予定だ。

 領主カーティスの指揮の下、領主軍と保安署が合同となって作戦の最終確認が行われていた。その会議も終わりを迎えるようで、カーティスが締めの言葉を述べる。


「オジャウータン様の到着までには、何としても悪魔のカミソリをこのカルムから一掃したい。皆の協力が必要不可欠。方々、抜かりなきよう頼みますぞ!」


 カーティスの言葉に老年の男が言葉を返す。


「カーティスさん、申し訳ない。元はと言えば、我々保安署の失態。カーティスさんを始め、領主軍の皆様には大変なご迷惑をお掛け致します。お恥ずかしい限りです」


 頭を下げる老年男にカーティスが気遣いの言葉を掛ける。


「ビリーさん、頭をお上げください。仕方の無いことです。少人数の不良集団だった悪魔のカミソリが、ここまで急成長を遂げるとは。私も含めて誰も想像していませんでしたから……」


 カーティスの言葉を聞いた老年男は申し訳無さそうに顔を上げる。

 この老年男の名前は「ビリー」

 カルム保安署の署長である。

 本来であればカルムの治安維持は保安署の任務であり、犯罪組織の討伐も彼らの役目。しかし、数年前に突如として現れた悪魔のカミソリは、急速に勢力を拡大させ、カルムの保安署では対処できない程の規模となっていた。昔から「悪い芽は早いうちに摘む」とはよく言ったものだが、保安署の初期対応の遅れが招いた結果とも言えよう。しかし、カーティスはそれを咎めることはしなかった。


「ビリーさんが一人で責任を感じる必要はありません。これは私の責任でもあります。それに保安署の方々が常日頃、治安維持に尽力していることは、よく存じております。ビリーさんたちには本当に感謝していますよ」


「カーティスさん……身に余るお言葉……」


「それよりも、今は奴らの討伐に集中しましょう!」


 カーティスの言葉にビリーの表情も幾分明るくなる。

 会議終了し、一同席を立ち上がろうとした時であった。部屋の扉が勢いよく開かれる。


「父上っ!」


「アラン!? 何用だ? 部屋には近寄るなと釘は刺した筈だぞ?」


 カーティスの前に姿を現したのは、彼の息子アランであった。

 カーティスはアランに、極秘会議を行うので部屋には近寄らないよう伝えていた。しかしアランは、部屋に近寄らないどころか、会議中の室内に躊躇いもなく立ち入ってきた。

 説教を始めるカーティスの言葉をアランが遮る。


「父上。話は全て聞かせてもらいました」


 アランの言葉を聞いたカーティスは大きくため息を漏らす。アランは言葉を続ける。


「そこで父上。悪魔のカミソリ討伐に、()()も同行させてください」


 カーティスは目を見開く。


「我々だと!?」


 カーティスがそう言いながら、アランの背後に目を向けると、カルム学院の制服を着た2人の少年少女が姿を現す。カーティスは2人の顔を見るなり、驚きの声を上げる。


「ヴァル君! アンナちゃん! 何故ここに!?」


 ヴァルとアンナと呼ばれる少年と少女は、アランの両隣に並ぶとカーティスに軽く会釈する。

 カーティスの視線は再びアランに戻される。


「アラン。一体、何のつもりだ? 説明しなさい!」


 眉間に皺を寄せながら問い質すカーティスに、アランが力強い声で返事を返す。


「先程も申し上げました! 我々も悪魔のカミソリ討伐に同行させていただきたい! ご許可の程を!」


 アランの返事にカーティスは呆れた表情で頭を抱える。


(まったく、世話の焼ける息子だな。これ以上説得しても聞かないだろう。仕方ない……)


 カーティスは3人の顔をしばらく見つめると、アームチェアから腰を上げ、口を開く。


「では、見せてもらおうではないか。空想術部三人衆の実力を」


「父上。つまりそれは……」


「討伐隊に同行することを許可しよう」


「ありがとうございます。父上」


「但し、勝手な行動は許さんからな」


「ええ、わかっております。父上」


 カーティスから悪魔のカミソリ討伐隊の同行を許可されたアランたちは、自信に満ちた笑みを浮かべていた。



つづく……

ご覧いただきまして、ありがとうございます。

次話の投稿も、明日のお昼頃を予定しております。

是非、ご覧ください。

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