第352話 かがやき園の人々【挿絵あり】
「見てくれよ、ルイス! 俺手づくりのブランコと滑り台がこの園の一番人気だぜ!」
「おお! 順番待ちの行列ができていますね!」
「ああ。もっと数を作ってやりたいところだが……色々とメンテナンスも大変でな。それに……素人の技術力で大切な子供たちが乗るモノをこれ以上増産する訳にはいかねえ……」
熊男が渋い表情で見つめるブランコからは「ミシミシ」という音が漏れ出していた。
「――子供の楽しみは奪いたくはねえ。けどそれも時間の問題だ。ルイスよ……院長の切なる願いだ。なるだけ早く動いてほしい……」
「はい。帰ったら直ぐにアランさんに掛け合ってみます!」
「頼むぜ」
イワナリの案内で施設を視察するルイス。熊男の申し出通り、遊具が不足している現状を目の当たりにした。
ボロボロになった一冊の絵本を数人で身を寄せ合いながら読んでいたり、新聞紙の余白に短くなった色鉛筆で絵を描く子供たちの姿が目に焼き付いている。
特に人気のブロックやぬいぐるみ等は数が限られており、取り合いで喧嘩する子供たちの姿も見受けられた。その度にイワナリたちスタッフが仲裁に入るが、このような状況が常態化している。
「ねえ! いつまで遊んでるの?! 早く私にも貸してよ!」
「嫌だよ! 僕だって今遊び始めたばかりなんだから!」
「コラコラ……喧嘩しちゃダメだろうが……」
案の定、遊具を巡って子供同士の喧嘩が勃発。仲裁する熊男の背中をルイスが険しい表情で見つめる。
(俺としたことが……もっと早くに視察してこの状況を把握しておくべきだった……)
すると彼の名を呼ぶ中年男たちの声が耳に届く。
「「ルイス様!」」
「イッパツヤさん、イヌキャットさん」
ルイスの前に現れた二人の中年男――
バンダナとサングラスがトレードマーク、顎髭を生やした強面男は『イッパツヤ・キキー』。
そして、帽子とサングラス、泥棒ヒゲが特徴的な怪しげな男は『イヌキャット』である。
イッパツヤはイヌキャットのことを『弟』と呼び、イヌキャットはイッパツヤのことを『アニキ』と呼んでおり、まるで実の兄弟のように仲が良い。
元々ブラザーズは戦場の亡骸から武器や防具を掠め取っていた戦場泥棒。ヨネシゲたちが激戦を繰り広げた『ブルーム平原』にも出没した。
しかし、欲に目が眩んで、生き埋めにされたマロウータンの墓を掘り起こしてしまった事が運の尽き。白塗り顔に捕まり、カルム領まで馬車馬のようにこき使われた。
その後、マロウータンから仕官の誘いを受けるも、孤児たちに引き止められてこれを辞退。カルム領に残ったブラザーズは足を洗い、イワナリと共に孤児院『カルムかがやき園』を設立した次第だ。
そんなブラザーズが満面の笑みでルイスの元まで駆け寄ってきた。
「「ルイス様! お待ちしておりました!」」
「ははは……お二人とも『様』なんか付けないで、呼び捨てでいいですからね」
苦笑を見せるルイスに、ブラザーズは人懐っこい大型犬の如く迫りながら、早口で自分たちの意見を伝える。
「いやいや! そうもいきません! ルイス様は偉大なる領主カーティス様の息子アラン様直属の家来様ですよ?! 恐れ多くも俺らなんかがルイス様を呼び捨てなんかで呼べませんぜ?!」
「そうですよ! あの敬愛なるマロウータン様の家臣ヨネシゲ様の息子様であらせられるルイス様を呼び捨てなんかで呼べないワンニャン!」
「ふ、二人とも! 近いですよ! わかりましたから……少し離れてください……」
「「失礼しました!」」
「できれば……『様』ではなく『さん』とかで勘弁してもらえないでしょうか? 『様』なんて言われ慣れていないし、あまり皆さんと壁を作りたくないので……」
ルイスの申し出を聞いたブラザーズが互いに顔を見合わせながら頷く。そして――
「「じゃあ『旦那』で!」」
「だ、旦那?!」
「ええ! 親しみがあっていいでしょう?」
二人の返答を聞いたルイスはズッコケるも……
(まあ……『様』付けされるよりはマシか……)
ルイスが承諾する。
「ははは……じゃあ『旦那』でいいですよ」
「「了解です! ルイスの旦那!」」
何故か飛び跳ねて喜ぶブラザーズ。一方のルイスは照れくさそうに微笑む。
そこへ漆黒ロングヘアの少女が姿を見せた。
「――フフフ。イッパツヤさん、イヌキャットさん、あまりルイスさんを困らせてはいけませんよ?」
「「お嬢、お疲れ様です!」」
ブラザーズから『お嬢』と呼ばれる、清楚な雰囲気を醸し出す、黒髪美少女の正体は――あのむさ苦しい熊男の愛娘。
「いらっしゃい、ルイスさん」
「こんにちは、アリアさん。お邪魔してます」
そう。彼女はイワナリの娘『アリア』だった。彼女もまた父と共に子供たちの面倒を見ている。
ルイスの正面に立った彼女がお辞儀。
「お忙しい中お越しいただきありがとうございます。――その……また父が失礼なことを言ったりしませんでしたか?」
心配そうに尋ねるアリアにルイスが笑顔で答える。
「大丈夫、大丈夫! 心配しなくても平気だよ。寧ろ……イワナリさんのお陰で色々と気付かされたからね。感謝しているよ」
「……そうですか。なら良かったです……」
ルイスの返答を聞いたアリアが安堵の笑みを見せた。
「――ルイスさん、お仕事の方は慣れましたか?」
「いやあ……まだまだ全然……毎日が勉強だよ」
「では、私と一緒ですね。私も子供たちとの接し方に関しては色々と学ぶことが多くありまして……自分の知識不足を痛感しています……」
「そっか……アリアさんも苦労しているんだね」
だがアリアは首を横に振る。
「いえ、苦労とは思っていません。寧ろ、もっと色々と経験して学びたいと思っています。元々私は保育士を目指していましたからね。それに……こんな私でも子供たちの支えになれてとても嬉しいです。この先もこの子たちの成長を見守りたい――」
嬉しそうに語るアリア。彼女の話を聞くルイスからも自然と笑みが溢れる。
その時。
ルイスの肩に分厚い掌が下ろされる。直後、ドスの利いた声――
「おい、ルイス。まさかアリアを狙っているんじゃねえだろうな? お前にはカレンちゃんがいるだろうがよ?! 浮気かあ?!」
「イ、イワナリさん?! 違います! 誤解ですよ! 俺はただアリアさんと会話しているだけです!」
「そうだよ、お父さん! ルイスさんに失礼だよ!」
「アリア……お父さんはなあ、お前のことが心配で心配でな……」
「だからって……いきなり喧嘩腰で接するのはダメだよ!」
「はい……」
ルイスに言いがかりを付けてきた熊男だったが、愛娘から注意を受けると大人しくなった。
――視察を終えたルイスは、イワナリたちの見送りを受けながら、カルムかがやき園を後にした。
――その帰り道。
ルイスがルポの市街地を歩いていると、聞き慣れた中年女性の声が耳に届く。
「お〜い! ルイス!」
「あっ、伯母さん」
ルイスが振り返ると、そこには伯母――つまり父ヨネシゲの実姉『メアリー・エイド』の姿があった。
つづく……




