表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/397

第28話 町内会の顔ぶれ



 夕食の準備を終えると、ヨネシゲ、ソフィア、ルイスの3人はダイニングテーブルを囲む。気不味そうな表情を見せるヨネシゲに、ルイスが突然頭を下げる。


「父さん。さっきは嫌な顔しちゃってごめんな」


 ルイスは先程、ヨネシゲにとった態度を後悔していたようだ。ヨネシゲは優しい笑みを浮かべながら、ルイスを気遣う。


「いや、ルイスが謝ることはないよ。俺だってある日突然、親父が自分の通う学校で働くことになれば、ルイスと同じ反応をするさ」


 ヨネシゲがヘクターから紹介された次なる仕事とは、ルイスが通うカルム学院の守衛だった。

 ヨネシゲは家族と相談することもなく、その場でヘクターに返事を出した。

 帰宅したヨネシゲは、次なる職場が決まったことを家族に報告。ソフィアは自分のことのように喜んでくれた。一方のルイスは自分が通う学院で、ヨネシゲが働くことを知り、不満そうな態度を見せた。無理もない。四六時中親に学校生活を監視されているようなものだ。思春期の少年なら当然の反応である。


 ヨネシゲは反省するルイスを励ます。


「ドンマイ、ルイス! 気にするなってよ。寧ろ、それくらいの反応を見せてくれないと逆に心配になるよ」


 ヨネシゲは笑顔でそう言うと、ルイスも笑みを浮かべる。


「フフッ、ドンマイはこっちのセリフだよ。でも、父さん。応援してるよ! だけど、騒ぎだけは起こさないでよ」


「おう、ありがとな! ルイスに迷惑は掛けないから安心しろ!」


 ヨネシゲたちの話が丸く収まったところで、ソフィアは葡萄のジュースが入ったグラスを手に取り、ヨネシゲたちに微笑み掛ける。


「さあ、2人共。食事にしましょう!」


 ソフィアの声を合図に2人はグラスを持つと、ルイスがヨネシゲを祝福する。


「じゃあ、父さんの新たな門出を祝って乾杯だ!」


「おう、ありがとう! 乾杯!」


 3人は互いにグラスを合わせると、賑やかに夕食を楽しむのであった。





 ――夕食を終えたヨネシゲが食後の余韻に浸っていると、ルイスが慌ただしく外出の支度を始める。


「ルイス、こんな時間にどうしたんだ?」


 ヨネシゲが不思議に思いルイスに尋ねると、彼から意外な答えが返ってくる。


「夜回りに行くんだよ」


「夜回り?」


「うん。町内会と空想術部が合同になって毎晩カルムの街を見回りしてるんだよ。そして今日は俺が当番なんだ」


 ルイスの説明によると、このカルムタウンでは、各町内会とカルム学院空想術部が合同になって、夜間の見回り活動を行っているそうだ。

 元々は町内会メンバーのみで夜間の見回り活動を行っていたが、地域密着を掲げる、現在の空想術部長の方針で、2年程前から合同で見回り活動を行っている。

 実力者揃いの空想術部の存在は、犯罪者にとって大きな抑止力になっており、彼らが見回りを行うようになってからは犯罪の件数が激減した。今となっては夜間の見回り活動に、空想術部の存在が欠かせなくなっている。

 感心した様子でルイスの説明を聞くヨネシゲ。我が息子が地域のために活動しているとは、親として鼻が高い。ヨネシゲはルイスを褒め称える。


「流石、ルイス! カルムタウンのために活動してるなんて偉いな!」


 ヨネシゲの言葉にルイスは照れた表情を見せる。


「いや、俺なんか大した事ないよ」


「大した事あるさ! それにしても、部長さんも偉いよな。まだ若いっていうのに、カルムタウンのことを真剣に考えてるんだからよ」


「そりゃそうさ。なんたって部長は領主の息子だからね」


 空想術部の部長はカルム領主の息子らしい。故にカルムの街については、誰よりも考えているそうだ。その事実を知ったヨネシゲは、カルム学院がエリート校であることを再認識させられる。


(王立カルム学院。領主の息子も通っているとは、流石、王国屈指のエリート校だ。そんな場所で俺はこれから働くというのか! ヨッシャ! 気合い入れていかないとな!)


 これから自分は、領主の息子も通うエリート校の守衛として勤務する。ヨネシゲは期待を胸に膨らませながら意気込んでいた。するとルイスが見回り活動のため家を出発しようとする。


「じゃあ、行って来るよ!」


 ヨネシゲがルイスを制止する。


「ちょっと待った!」


「どうしたの父さん?」


「俺も連れてってくれ!」


「いいよ、一緒に行こう!」


 ヨネシゲが、自分も見回りに同行したいと願い出ると、ルイスは二つ返事で快諾した。


 2人はソフィアに見送られながら家を出発すると、見回り隊との待ち合わせ場所となる、近所の空き地を目指した。




 ――自宅近くの空き地には、十数名程の男女が集まっていた。その半数以上が年配者である。その中にはヒラリーの姿もあり、40代の彼が若く見える。

 見る限り若者の姿はなさそうだ……いや、1人だけ居た。角刈り頭に角張った顔。そして、目を瞑っているような細目の男の正体は、自称ヨネシゲの飲み仲間であるドランカド・シュリーヴだ。はっきりとしたほうれい線に貫禄のある顔の持ち主だが、こう見えてもまだ22歳の青年なのだ。


 ドランカドたちの腕には「カルム見回り隊」と書かれた腕章が付けられていた。この集団は、カルムタウン西地区町内会のメンバーたちだった。

 

 そこへヨネシゲとルイスが到着する。


「こんばんは! 今日は宜しくお願いします!」


 ルイスが元気よく挨拶をすると、彼の元へメンバーたちが駆け寄ってくる。


「おう、こんばんは。ルイス君、今日は頼むよ!」


「ルイス君、こんばんは。頼りにしてるわよ」


 ルイスはメンバーたちから絶大の人気を誇っているようだ。きっとルイスの人柄があってのことだろう。ヨネシゲは、流石自分の息子だと思いながら、鼻高々にその光景を眺めていた。そこへドランカドがやって来る。


「あれ? ヨネさんじゃないっすか!」


「ああ、ドランカド。お前も来てたんだな」


「ええ。爺さん婆さん達だけじゃ心配ですからね。俺も時々見回りに参加してるんですよ」


 ドランカドも週に数回、見回り活動に参加しているそうだ。町内会メンバーの身を案じてのことらしい。


「元保安官で武闘派のドランカドが居れば安心だな」


「それにヨネさんとルイス君も居ますからね!」


「おうよ! カルムの平和は俺が守ってやる!」


「よっ! 流石カルムのヒーロー!」


「ハッハッハッ! 大船に乗ったつもりでいろ!」


 ヨネシゲとドランカドが冗談を交えながら会話をしていると、見慣れない一人の女性が近寄ってきた。


「ヨネさん、元気そうだね!」


「えっと、あなたは?」


「私はリサ。この町内会のメンバーで、カルム市場で果物屋を開いているわ」


 黒髪を後ろで一つに束ねた、年齢不詳の彼女は「リサ」と言う名前で、カルム市場内の果物屋店主だった。リサも見回り隊の一員として、ほぼ毎日夜回り活動を行っている。

 リサが自己紹介を終えると、ドランカドがヨネシゲに意外な事実を伝える。


「ヨネさん。実はね、リサさんは俺の雇い主なんですよ」


「え!? そうだったのか。ドランカドが働いている果物屋ってリサさんのところだったんだな」


「そうなんですよ〜。しょっちゅうリサさんに怒られてます」


「アンタが仕事サボっているからでしょ」


「そりゃ怒られても仕方ないな」


 ヨネシゲたちが談笑していると、ヒラリーが姿を現わす。


「おう! ヨネさん!」


「おう、ヒラリー。今日はトラブルに巻き込まないでくれよ」


「酷いな〜。俺だってトラブルは御免だよ。それはそうと、ヨネさんに会ってもらいたい人が居るんだ」


 ヒラリーがそう言うと、彼の背後から一人の老年男が現れ、自己紹介を始める。


「ヨネさん、ワシはペイトンだ。このカルムタウン西地区の町内会長を務めさせてもらっている。記憶の方、早く戻るといいね……」


「お気遣い痛み入ります」


 この老年男は名は「ペイトン」

 ツルツル頭がトレードマーク。黒い口髭に加え、白い顎髭を生やしていた。彼はカルムタウン西地区の町内会長であり、地域の活動に尽力している。

 ペイトンは、退院したヨネシゲが夜回り活動に戻ってきたことを歓迎する。


「ヨネさんが、こんなに早く見回り隊に戻って来てくれて本当に嬉しいよ。最近はこの辺りも治安が良くなくてね。ワシらも身の危険を感じているよ……」


「そんなに悪いんですか?」


 ヨネシゲが尋ねるとペイトンはカルムタウンの現状について説明する。

 

「ヨネさん、悪魔のカミソリは聞いたことあるかい?」


「悪魔のカミソリ!? 確かこのカルムタウンを拠点にしているマフィアですよね?」


 悪魔のカミソリ。それはカルムタウンを拠点に王国全土で活動している極悪非道のマフィア組織。

 ここ最近、悪魔のカミソリが活動を活発化させているらしい。その為、毎晩のように他の犯罪組織が悪魔のカミソリと取引するため、カルムタウンを訪れるそうだ。偶然取り引きの現場を目にしてしまった者は、子供であろうと殺害されてしまうことがある。

 ヨネシゲは悪魔のカミソリの悪行に怒りを顕にする。


「子供まで殺めるなんて! こんな事が許されてたまるかよ! そもそも保安署は何してるんだ!? 取り締まりを強化してもらわないと困る!」


「それがな、今のカルム保安署では悪魔のカミソリに太刀打ちできない。返り討ちに遭うのがオチだ。王都の保安局に討伐保安隊の派遣を要請しているらしいが、いつになることやら……」


 今や、力を持ってしまった悪魔のカミソリをカルムの治安機関だけでは抑えきれない状況となっている。

 ヨネシゲが肩を落としていると、ペイトンが聞き慣れない人物の名前を口にする。


「だが、そろそろカーティス様が動く頃だろう」


「カーティス様?」


「ああ。このカルムタウンの領主様だよ」


 カーティスとはこのカルム領、通称カルムタウンの領主のことである。ペイトンが詳細を説明しようとすると、見回り隊のメンバーから声がかかる。


「ペイトンさん! そろそろ行きましょうや!」


「おう、そうだな。それじゃヨネさん。続きはまた後でだ」


「わかりました」


 見回り隊は巡回のため空き地を出発した。



つづく……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ