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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(王都編)
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第286話 ゲネシスからの使者(前編)

 ついに国王ネビュラと、使者として訪れたゲネシス皇弟ケニーが対面。その様子を一同固唾を呑んで見守っていた。

 早速両者の間で言葉が交わされる。


「トロイメライ国王陛下、使者を受け入れてくれて感謝する」


「来るもの拒まずだ。貴国とは長年対立関係にあるが、対話を望んでいるというのであれば聞いてやるのが筋であろう?」


「フフッ。話のわかるお方だ。どうやら小心者という噂は嘘のようだな。その証拠に貴方からは王としての威厳が溢れておられる」


「フン。無駄話をするつもりはない。早速要件を伝えてもらおう」


 嫌味とも取れるケニーの言葉。ネビュラは眉間を歪ませながら要件を尋ねる。そして皇帝が改まった様子で口を開いた。


「――では単刀直入に申し上げよう。我々ゲネシスは貴国との和平を望んでいる」


「和平だと!? 一体、どういう風の吹き回しだ? 突然和平を持ち掛けてくるとは、何か裏があるようにしか思えんが……」


 突然ゲネシス側から伝えられた和平の提案。ネビュラのみならず、他の者たちも驚いた表情を見せていた。その様子を横目にしながらケニーが淡々と語る。


「貴国とは長年対立関係にあるが、我々は争いなど望んでいない。確かに依然として種族(リアル種と)同士(バーチャル種)の隔たりは大きい。だが国王陛下の父君――先王陛下の時代には共に歩み寄り、過去最高と称されるほど親密な関係を築き上げた。だが――」


 ケニーが鋭い眼差しをネビュラに向ける。


「国王陛下はその関係を壊された。悪戯に我が領土を侵して無用な戦を起こし、多くの生命や財産を奪い去った。更には具現岩の制限を(ほの)めかし、我々バーチャル種を脅迫――今となっては過去最悪の関係だ」


 ネビュラの過ちを責める皇弟。一方の国王は気まずそうに視線を落としながら後悔の言葉を口にする。


「――ご存知の通り、元々トロイメライとゲネシスは一つの大国。だが200年前の種族戦争が原因で二分されてしまった。俺はトロイメライを再び一つの大国にまとめるべく躍起になっていたが――今思えば哀れな行いだった」


「それが――我々を20年以上も苦しめた感想なのか?」


 ケニーが眉間にシワを寄せながら訊くと、ネビュラが意外な言葉を口にする。


「正直、今の俺には二国を統一するどころか、自国の動乱を鎮める力もない。南都の一件では己の無力さを痛感した次第だ。弟にもこっ酷く説教をされてな、俺は心を入れ替えることにした」


 案の定、皇弟がその真意を確認する。


「心を入れ替えただと?」


「ああ。過去の行いを反省し、真っ当な道を歩むことにしたのだ」


「真っ当な道?」


「そうだ。俺は王として正しき道――王道を歩む!」


 ネビュラの決意を聞いたケニーは鼻で笑う。


「フッ……信用ならないね……」


「信用しろとは言わん。だが、この心に嘘偽りはない。俺はもう道を踏み外さん」


 真剣な眼差しで訴えるネビュラ。皇弟は再度和平を要求する。


「ならば――我々と和平を結ぼうではないか。長い戦の歴史に終止符を打ち、自国に安寧と繁栄を齎すことが真の王道というもの――」


 そしてケニーも真っ直ぐとした瞳でネビュラを見つめる。


「トロイメライ国王陛下、もう啀み合う関係は終わりにしようではないか」


 ネビュラが訊く。


「もし断れば?」


王都(メルヘン)に総攻撃を仕掛ける」


 睨み合う両者。謁見の間に緊張が走る。ネビュラの返答次第では王都は火の海に飲み込まれてしまうことだろう。一同、顔を強張らせながら主君の返事を待った。


 ――その時である。

 ある女の声が緊迫した空気を切り裂く。


「陛下、私も和平に賛成です!」


「レナ!?」


 そう。姿を見せたのは王妃レナだった。意外な人物の登場にネビュラを含め、多くの者が驚いた様子を見せていた。ネビュラと不仲である彼女がこのような場に姿を見せることは稀なことだ。一方でケニーは不敵に口角を上げながらレナを見つめていた。

 王妃は玉座に向かって歩みを進めながらネビュラに訴え掛ける。


「私たち王族が最も優先すべき事は、民の生命と財産、そしてこのトロイメライの領土を守り抜くことです。それが王族の義務……ですが、このままゲネシスと対立していてはその義務も果たせません。今の陛下ならその事を理解されている筈――」


 レナは玉座の手前に到着すると、手を組みながら膝を折りネビュラを見上げる。


「陛下、ゲネシスと和平を結びましょう。ゲネシスとの和平が実現し、良好な関係を築ければ、このトロイメライに嘗てない安寧と繁栄を齎すことでしょう。またとない機会ですよ!」


 しばらくの間、険しい表情でレナを見つめていたネビュラだったが、弟に視線を移して助言を求める。


「メテオ。お前はどう思う?」


 兄から尋ねられたメテオはゆっくりと頷いた後、自身の考えを口にする。


「私も和平に関しては賛成です。ゲネシスと和平を結び後顧の憂いを無くせれば、荒れに荒れた国内の平定に集中できます。ただ……」


「ただ?」


「我々が不利になるような条件であれば、此度の和平を結ぶべきではありません。ゲネシスが有利となる条件を受け入れてしまえば、国を売り渡すことになりかねませんぞ? あくまでトロイメライとゲネシスは対等な関係でなくてはなりません」


 弟の助言を聞き終えたネビュラは頷いて応えると、ケニーに向き直る。


「ケニー殿下、そういう事だ。我々が不利になるような条件を提示された場合、和平に応じることはできない」


 皇弟が挑戦的な笑みを見せる。


「我々が王都(メルヘン)を攻めると言っても?」


「そうなったら、全戦力を以って貴国の進軍を阻止してみせる。無傷で母国に帰れると思うなよ?」


 毅然とした様子で答えるネビュラ。するとケニーが高笑いを上げる。


「ハッハッハッ! 冗談だよ、トロイメライ国王陛下。我々も貴国に納得してもらえる条件を考えてある」


「早速聞かせてもらおうではないか」


 ネビュラから催促されると、ケニーが条件を伝える。


「和平を結ぶにあたり『互いに領土を侵さないこと』は絶対条件だが、その上で我々が貴国に求めることはただ一つ。『具現体』の放出制限を絶対に行わないことを約束してほしい」


「なるほどな……」


 顎に手を添えながら頷くネビュラにケニーが説明を続ける。


「ご存知の通り、我々バーチャル種は具現体がないと生命を維持できない。その具現体を放出する『具現岩』は世界に七枚だけ存在し、その内の一枚がこのトロイメライ王都の地下に眠っている。

 そしてゲネシス全土に行き渡る具現体の大半がここから放出されたもの――つまり、貴国に具現体の放出を制限されてしまうと、我々の生命が危険に晒される。例えるなら空気中の酸素を奪われてしまうのと同じことだ。

 バーチャル種である民の命を預かる者として、このような事態は全力で回避したい。そして今回、意を決して貴国に和平を持ち掛けた次第だ。我々の意を汲んでくれると有り難いのだが……」


 説明を聞き終えたネビュラが返答する。


「わかった。具現体の放出制限は永久的に行わないことを約束しよう」


「英断、感謝する」


 ネビュラの返事を聞いたケニーが微笑みを見せる。その様子を見守っていたレナとロルフも互いに顔を見合わせながら口角を上げた。だが、ネビュラの言葉には続きがあった。


「但し、俺からも一つ要求がある」


「聞かせてくれ」


 要求とは何か? ケニーとレナ、ロルフは表情を固くしながらネビュラの次なる言葉を待った。


「決して難しい要求ではない。和平を結ぶにあたって、これ以上トロイメライに追加条件を要求しないことだ。それが守れないのであれば――此度の和平は無かったことにしよう」


「――わかった。貴国の要求を受け入れよう」


 要求と呼べる要求ではなかったが、無理難題を突きつけられずに済んだとケニーは胸を撫で下ろす。そうなると早急に手を打つべきだ。皇弟は次なる行動をネビュラに伝える。


「早速だが、国王陛下自らイタプレスに赴いてもらいたい」


「俺が?」


「ええ。調印には国王陛下のサインが必要だ。勿論、ゲネシスの皇帝である我が兄オズウェルと、仲介役を買って出てくれたイタプレス国王陛下も調印式に参加する」


 やや動揺した様子のネビュラにケニーは薄ら笑いを浮かべる。


「怖いか? まあ無理もない。敵陣に入っていくのと同じような状況だからな。ならば……ウィンターを同行させるといい。護衛として不足は無いはずだ。それに姉様が奴に会いたがっているしな……」


 ケニーはチラッとウィンターを見る。一方の守護神は疑念を抱いた様子で眉を顰めた。


「あと、我が兄はエリック王子とロルフ王子にも会いたがっている」


「俺と会いたいだと?!」


 突然、自分の名前が出てきたことにエリックは顔を強張らせた。一方のケニーはそんな王子に微笑みかけながら言う。


「正式に和平を結んだ暁には、三カ国の王族同士で酒を酌み交わし、親睦を深めようではないか。まあ、俺はまだ酒を飲める年齢ではないので、トマトジュースで失礼させてもらうが」


「ケニー殿下。このロルフ・ジェフ・ロバーツ、喜んで同席させていただきます」


 ゲネシスからの招待。ロルフは迷うことなく受け入れる。両者は互いに顔を見合わせると僅かに口角を上げる。一方の第一王子エリックは躊躇った様子だ。


「俺は……」


「おや? まさか兄上とあろうお方が怖気付いておられるのですか?」


 不仲な弟(ロルフ)に煽られたエリックは怒りを滲ませた様子でイタプレス入りを表明。


「この俺が怖じ気付くだと?! いいだろう。俺も同席してやるよ!」


「フフッ。エリック王子、楽しみにしているよ」



 ――そしてケニーがそのスケジュールを一同に伝える。


「急かすようで申し訳ないが、本日中にイタプレス入りしてもらいたい」


「随分と急だな」


 ネビュラが不満そうに言うが、ケニーが笑顔で返す。


「我々も多忙なものでな。調印を交わしたら直ぐに帝都に戻りたい。それに膳は急げと言うだろ?」


「しかし、調印式にも準備があるだろう?」


 メテオの問い掛けにも皇弟は笑顔を崩さず。


「メテオ殿下、ご安心を。既に調印式の準備は整っている。あとは国王陛下をお出迎えするだけだ」


「随分と準備がよいな」


「勿論ですよ。国王陛下が和平を受け入れてくれると信じて準備を進めてきたのでね。晩餐会の準備もできている」 


 ネビュラは鼻で笑った後、ケニーに最終的な返答をする。


「俺も甘く見られたものだ――わかった。直ぐに準備してイタプレスへ赴こう。早いところ和平を結んで、民たちを安心させてやらねばな」


「では、早速その旨を我が兄に伝えるとしよう――」


 満足気な笑みを浮かべるケニー。ネビュラに礼の言葉を述べると一礼。謁見の間を後にしようとする――が、国王が皇弟を呼び止める。


「――時に、ケニー殿下」


「まだ何か?」


 首を傾げるケニーにネビュラがある事を尋ねる。


「今、我々は人を探している。金色の長い髪を持つ女に心当たりはないか?」


 その言葉を聞いたケニーが不敵に口角を上げた。

 ちょうどそのタイミングで角刈り頭と白塗り顔の中年男二人が謁見の間に姿を見せた。



つづく……

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