表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(王都編)
294/404

第285話 無力

 ――夕色に染まるドリム城。

 ゲネシス帝国からの使者を乗せた馬車が到着する。

 最初に馬車から降りてきたのは、使者の案内役を務めるトロイメライ王国第二王子ロルフ。続けて使者である長身の緑髪おかっぱ頭の少年――ゲネシス帝国皇弟「ケニー・グレート・ゲネシス」が降車。

 ケニーは目の前に(そび)え立つドリム城を見上げながら口角を上げる。


「――敵国ながら美しい城だ」


 その様子を警備兵たちが警戒しながら見つめる。中には剣を構えて今にも斬りかかりそうな勢いの者も居た。皇弟はそんな警備兵に視線を移すと、呆れた様子で言葉を漏らす。


「フッ。そんなに警戒するなってよ。今の俺は空想錠(首輪)を嵌められて、ガキにすらやられちまう程無力だ。お前らに喧嘩を売ったところで勝ち目はない――」


 その上でケニーは不快感を露わにする。


「命懸けで単身敵国を訪問している一国の皇弟に、随分と無礼な振る舞いじゃないか?」


 ケニーの言葉に警備兵たちが悔しそうな表情を見せていると、ロルフの怒号が周囲に轟く。


「お前たち、剣を下ろさぬか! ケニー殿下が申される通り無礼極まりない行為だぞ!」


 王子の注意を受けると警備兵たちは慌てた様子で剣を下ろす。


「ケニー殿下、大変失礼した。どうか気を悪くしないでくれ」


「フフッ、案ずるな。そこまで気にしてはいない」


「すまないな。では早速案内しよう」


 ケニーはロルフの案内で城内へ足を踏み入れた。




 ――それから程なくしてだ。ヨネシゲがドリム城に到着したのは。

 角刈りは大量の汗を流し、息を切らしながらドリム城の廊下を駆け抜ける。彼は、ゲネシスに囚われてしまった妻ソフィアの危機を伝えるため、国王ネビュラの元――使者と面会が行われるであろう謁見の間を目指していた。


(――陛下にソフィアの一大事をつたえねば! 幸いにも陛下はソフィアに理解がある。状況を知ればきっとゲネシス側に上手く掛け合ってくれる筈だ。急がねば!)


 全力疾走のヨネシゲ。途中、警備兵の制止を振り切り、長い廊下の先の角を曲がった――が、その足を急停止させる。


「ヨネシゲよ。ここで何をしておる?」


「マ、マロウータン様!?」


 ヨネシゲの行く手を阻むように立ちはだかるのは、主君のマロウータンだった。角刈りは城を訪れた理由を白塗りに伝える。


「ソフィアがゲネシスに囚われてしまいました! それでケニー殿下から言われたんです。妻を返して欲しければ、ゲネシスと和平を結ぶよう陛下に働きかけろと!」


「そうか……」


 必死に訴えるヨネシゲだったが、マロウータンの反応は素っ気ないものだった。そして白塗りが角刈りに命じる。


「現場に戻れ。そなたは王都特別警備隊クボウ小隊の分隊長。任務を疎かにするではない」


「ですがマロウータン様! このままじゃソフィアが!」


「この愚か者がっ!」


「!!」


 突然響き渡る主君の怒号。呆気に取られた様子の角刈りにマロウータンが言う。


「そなた自分の役目を忘れたか?! 先程も申したが、そなたは王都特別警備隊クボウ小隊の分隊長。部下を指揮して民たちを脅威から守る役目があるのじゃ! 儂は肩書きを与える為だけに、そなたを分隊長にした訳じゃないぞよ!」


 一方の角刈りはムッとした様子で反論。


「そんなことわかってますって! 自分の役目くらい理解してます! ですが……今は大切な人が危険な状況なんです。何としても助けたい……」


 ヨネシゲは悲痛に満ちた表情を見せながら顔を俯かせる。するとマロウータンから予想打にしなかった言葉が飛んできた。


「ヨネシゲ・クラフト。只今をもって王都特別警備隊クボウ小隊分隊長を解任する」


「なっ!?」


 突然の解任通告。ヨネシゲは驚いた様子で主君の顔を見上げる。そして白塗り顔は臣下を諭すように言う。


「妻の身が心配なのは痛いほどわかる。儂も長年妻を人質に取られていたからのう。じゃがな……儂ら貴族は何万何億という民の生命と財産を背負っておる。時には身内を切り捨ててでも、民たちを守り切る覚悟が必要じゃ。その覚悟がないのであれば貴族失格じゃ。ヨネシゲよ、そなたにその覚悟があるのか?」


「………………」


 問い掛けに答えられず黙り込むヨネシゲに主君が言葉を続ける。


「――先日の、そなたの決意表明に嘘偽りはないと儂は信じておる。儂と共にこのトロイメライを変えたいという気持ちは本物なのじゃろう。じゃが、今のそなたには覚悟が足りん。斯様なことで取り乱し、周囲を振り回すような者に大役は任せられぬ」


 主君から告げられる厳しい言葉。ここで角刈りが静かに口を開く。


「今日、思い知りましたよ。私に覚悟が足りないということが。妻が囚われたと知ってから冷静さを保つことができません。とても仕事に取り掛かれる状態じゃないです……」


「しっかりせい……ヨネシゲよ……!」


 普段のヨネシゲからは想像できない程の弱々しい言葉。マロウータンは彼を正気に戻させようと声を掛けるが効果はなく。それどころかヨネシゲは頭を抱えながらその場にしゃがみ込む。


 この時、ヨネシゲの脳内にはあの日の忌まわしい記憶が蘇っていた。


(二度もソフィアを失うなんてごめんだぞ! それなのに何もできない自分が腹立たしい! 絶対に守り切るって誓ったのに……俺は……俺は……無力だ……)


 己の無力さに悔し涙を流すヨネシゲ。マロウータンは臣下の肩に手を添える。


「――ソフィア殿の件は既に陛下にお伝えしてある。今は陛下に全てを委ねようぞ」


 ヨネシゲは啜り泣きながらゆっくりと頷いた。




 ――その頃、謁見の間。

 玉座へと伸びる赤い絨毯を闊歩するのはゲネシス皇弟ケニー。その様子を壁際で見守る王都貴族たち。そして玉座に腰掛けるのはトロイメライの頂点――ネビュラ・ジェフ・ロバーツだ。その両隣には王弟メテオ、宰相スタン、護衛のウィンターを控えさせていた。


 やがて玉座の前に辿り着いたケニーが、薄ら笑いを浮かべて敵国の王を見上げる。


「お初にお目に掛かります。トロイメライ国王陛下……」


 対するネビュラは毅然とした態度で言葉を返す。


「よくぞ参られた。ゲネシス皇弟殿下」


 ケニーは八重歯を覗かせながらネビュラに言う。


「そんじゃ早速始めましょう。ゲネシスとトロイメライ、明るい未来のための話し合いを……!」


 ネビュラは眉を潜めた。



つづく……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ