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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(王都編)
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第281話 コウモリ襲来(後編)

 ヨネシゲに群がる小型コウモリ。


「痛っ! こらっ! やめろっ! 離れろっ!」


 コウモリたちは角刈りの首や腕、脚に噛み付くと、その生き血を吸い取り始める。

 勢いを失い地上に戻されたヨネシゲは、魔物たちを振り払おうと必死に藻掻く――が、纏わりついたそれは吸着したままだ。

 このままではいけないと、ヨネシゲは全身に力を送り込み、その身体から雷撃を放った。感電して力を失ったコウモリは角刈りから離れると、そのまま地上へ向かって落下、消滅した。しかし、第二陣、三陣……と魔物たちが何度もヨネシゲに襲い掛かる。彼だけではない。カエデやジョーソンもコウモリからの妨害を受けて攻めあぐねいていた。

 そうこうしているうちに、コウモリの群れが四方八方へと移動を始める。その様子を目撃したヨネシゲたちに緊張が走る。


「まずいぞ! このままじゃコウモリが王都全体に広がってしまうっ!」


「いけない! なんとかしなきゃ――きゃっ!」


「くっ! 離れやがれ! 鬱陶しいコウモリ共だぜ!」


『キッキッキッキッキッ!』


 焦りを滲ませるヨネシゲたちを嘲笑うかのように、紺色の魔物たちは新たな生き血を求めて、分散を始めた――その時だった。市場全体を強烈な疾風が駆け抜ける。


「――麻呂扇奥義っ! 鶴の翼っ! ありゃああああっ!」


 刹那。空中を埋め尽くしていた小型コウモリが疾風によって押し流されていくと、その大半が大きなダメージを受けて消え去る。コウモリの束縛から逃れた角刈りたちは、疾風を生み出した人物の元まで駆け寄る。


「「「マロウータン様っ!」」」


 そう。その人物こそ彼らの主君、マロウータンだった。白塗り顔は扇を優雅に翻しながら臣下に訊く。


「そなたら、怪我はないか?」


「「「はい!」」」


 主君の問い掛けに、ヨネシゲたちは口角を上げて答えた。だが状況は思わしくない。先程の疾風で激怒した親分が追加の子分を解き放つ。瞬く間に上空は紺色で覆われた。

 地上に向かって垂直降下してくるコウモリの大群。それを見た白塗り顔がヨネシゲに命じる。


「雑魚は()()に任せろ。そなたはあの親玉を討つのじゃ!」


「ですがマロウータン様! コイツら雑魚とはいえなかなか手強いですよ!?」


「心配無用じゃ」


「え?」


 マロウータンはお茶目な笑みを見せながらウィンク。角刈りが首を傾げていると背後から聞き慣れた咆哮が轟いてきた。


「おりゃああああっ! 全員御用だぜっ!」


 そのフケ顔の角刈り青年は十手を振り翳して魔物の群れに飛び込んでいく。フケ顔角刈りが頭上に掲げていた十手を投げ飛ばすと、それはブーメランの如く弧を描きながら、軌道上の魔物を次々と仕留めていく。やがて手元に十手が戻ると、フケ顔はニヤリと笑いながらヨネシゲを見る。


「ヨネさん、ご無事で何よりッス!」


「ド、ドランカド?! 何故ここに!?」


 そう。フケ顔の角刈り青年の正体は――同輩ドランカド・シュリーヴだった。

 現在、ドリム城で一ヶ月間の無償奉仕期間中である彼が、何故ここに居るのか? ヨネシゲが疑問を投げ掛けるも、ドランカドは説明を後回しにする。


「説明は後です! ヨネさんは早く親玉を!」


「お、おう!」


 真四角野郎に促された角刈りは、直ちに戦闘を再開させようとするも、依然として無数のコウモリが行く手を阻む。

 どうしたらよいものか……ヨネシゲが悔しそうに歯を食いしばった直後、青色の炎が魔物たちを襲う。

 角刈りは青炎が放たれてきた方向へ視線を向ける。そこには上空へ向かって飛翔する豹人間――サンディ家臣ノアの姿があった。空想術で豹に変身した彼は青炎を纏った脚で回し蹴り。上空の魔物を次々と焼き払っていく。


「王都を脅かす魔物共よ! 地獄の業火に焼かれるがいい!」


 思わずその様子を見入ってしまうヨネシゲだったが、その側方を何者かが絶叫を轟かせて疾走していく。


「24時間頑張れますかっ――?!」


 その姿は駆け抜ける新幹線。爆走する金髪の青年は――王都特別警備隊ゲッソリオ小隊長「ガンバリヤ・ゲッソリオ」だった。その爆速の進路上に居たコウモリはガンバリヤに弾き飛ばされ消滅。難を逃れた魔物たちも、折り返してきた24時間営業の新幹線(ガンバリヤ)強制乗車(連れ去られて)、その場から姿を消した。

 

 それでも尚、空中から襲いかかってくるコウモリに、壮年の男が立ち向かう。


「君たちの労働はここでお終いだ。直ちに帰宅したまえ!」


 王都特別警備隊シャチクマン小隊の長「テイジ」だ。彼は両手を魔物たちに向けると、耳を塞ぎたくなるような高音を伴った超音波を放つ。テイジの攻撃を受けたコウモリたちの動きが突然停止。と思いきや上空へ向かって飛び去って行った。


 そして刀を持ち飛翔する老年は――王都特別警備隊ディグニティ小隊の小隊長「バンナイ・ディグニティ」である。彼が刀を振る度に赤色の斬撃が魔物たちを襲う。


「これ以上、魔物の好きにはさせんわ! 誇り高き南都の戦士の一撃、食らうがいい!」


 コウモリの襲撃に駆け付けた王都特別警備隊の各小隊長たち。そしてカエデにジョーソン、珍獣、ドーナツ屋、多くの隊員たちがコウモリ相手に奮闘する。その姿に勇気を貰った角刈りが親玉――上空の巨大コウモリを睨む。


「仲間の活躍に応えねばな……巨大コウモリ! 一発で仕留めてやるよっ!」


 咆哮のヨネシゲ。

 全身に青白の光を纏わせて、地面を蹴ると、空気を歪ませながら急上昇。轟音を響かせながら地上から垂直に伸びる青白の光柱を一同が見上げる。

 対する巨大コウモリはその大きな二つの翼を一振り。発生したのは濃紫の光を纏った衝撃波だ。やがて青白と濃紫が激突。その瞬間、上空には白色の閃光が走る。と同時に地上には爆発音と爆風が到達。地上の者たちは背を低くして衝撃に耐えた。

 濃紫の衝撃波と衝突した青白の鉄拳の勢いは留まることを知らず。その強烈な圧力は猛進する角刈りの拳によって切り裂かれた。直後、青い稲妻となったヨネシゲ渾身の鉄拳が巨大コウモリの胴体を捉える。

 

「これでお終いだ! この巨大コウモリが! 王都から消え去れ!」


「ギャアアアアアッ!!」


 巨大コウモリは不気味な断末魔を轟かせると、前身を光の粒に変えて消滅。その瞬間、地上の者たちから割れんばかりの歓声が沸き起こった。




 ――同じ頃、王都北部。イタプレス王国との国境付近。その上空を飛行する金髪ロングヘアの女性は――王都のヒーロー女神だ。

 小型コウモリを引き付けるため、数十体の分身を発生させて囮となった女神。しかしその分身はコウモリから危害を加えられ全滅。彼女は苦悶の表情を浮かべながら紺色の悪魔から必死に逃げていた。

 女神自身もコウモリから吸血攻撃を受けており、その身体の至るところに噛まれた痕が残っていた。更に身に着けている白い衣は血で赤く染まっておりボロボロだ。

 大量の血を吸われて貧血状態の女神は、なんとか意識を保とうと気力を振り絞る。


(このままじゃ……このままじゃいけないわ……逃げ切らないと……殺されちゃう……!)


 彼女は感じていた――死の恐怖を。

 このコウモリの群れから逃げ切らなければ、体内の血液は全て吸い取られてしまい、命を落としてしまうことだろう。

 彼女を襲う危機感と恐怖。飛行速度を上げようと全身に力を送り込むも、彼女の意に反して失速する一方。もはや飛行しているだけの体力も残されていない。彼女の瞳から一筋の涙が溢れ落ちる。


「――ごめんなさい……ごめんなさい……貴方にあれだけ言われていたのに……私……無理しちゃった……」


 悔しさ、後悔、そして約束を破ってしまった罪悪感――彼女は様々な想いが入り交ざった透明の雫を、ただただ零すことしかできなかった。


 ――その時である。


「――っ!?」


 首元に走る鋭い痛み。女神は瞳を見開くと、恐る恐る視線を横に向ける。そこには自分の首に噛み付き、血液を吸い上げる一匹のコウモリの姿。


(――貴方……ごめんなさい……私……もうだめかも……)


 その攻撃が決定打となり女神は力尽きた。と同時にその身体は白色の光に包まれると、地上へ急降下していく。






「――ん? 何だあれは?」


 上空から落下してくる光に包まれた謎の物体。

 イタプレス王国の国境付近でその存在に気が付いたのは――ゲネシス皇帝「オズウェル」だった。そんな兄の元へ皇妹「エスタ」と皇弟「ケニー」が歩み寄る。


「お兄様、どうかされましたか?」


「あれを見ろ」


「――あれは……人? でしょうか……?」


 瞳を細めながら物体を見つめる兄と姉の横でケニーが不敵に口角を上げる。


「兄様、姉様。あの物体の上を見て下さい」


「上だと?」


 弟に促されたオズウェルとエスタが、白色物体の上方に視線を移す。そこには物体を追い掛けるように急降下する紺色の群れがあった。


「あれは……先ほどお前が放ったコウモリか?」


「フフッ、そうみたいですね。どうやら守護神の小僧は俺のコウモリを取りこぼしたようです」


 しばらくの間、白色の物体とコウモリの群れを見つめるゲネシス最高峰の三人。するとオズウェルが物体に向かって右手を構える。


「大方検討はついた。恐らくあの者は、ケニーのコウモリを王都から遠ざけていたのだろう――よし、トロイメライの勇敢なる戦士を救ってやろうではないか」


 皇帝はニヤリと口角を上げると、構えた右手を赤紫に発光させた。その刹那、上空の白色物体も赤紫に変色。同時に物体の落下速度が急激に失速する。そしてオズウェルが開いていた掌を握りしめると、物体が彼に引き寄せられるようにして移動を始める。


 ――やがて、両腕を大きく広げるオズウェルの元に、意識を失った金髪ロングヘアの女性が舞い降りてきた。その身体を受け止めた皇帝は彼女の顔に視線を下ろす。


「なかなか美しい女ではないか」


 そう呟く兄に抱えられた女性の顔をエスタとケニーが覗き込む。


「あらあら可哀想に。こんなにボロボロになってしまって。ケニー、貴方のコウモリちゃんは随分と乱暴のようですね? レディを傷付けるなんて酷いわ」


「ま、まるで俺が悪いような言い方じゃないですか?」


「当たり前でしょ? 彼女を襲ったのは、貴方が召喚したコウモリで間違いなさそうですからね」


 そんな妹と弟のやり取りを横目にしながら、オズウェルは女性を抱えたままその場から移動。透かさずエスタが尋ねる。


「あら? お兄様、美女を連れてどちらに?」


 オズウェルは立ち止まると妹を見る。


「エスタよ、お前の力を借りたい」


「ウフフ、治癒ですね? お任せください」


 そしてオズウェルが弟に言う。


「ケニーよ。この女が傷付いたのはお前のせいではない。守護神が完璧に王都を防衛できなかったからだ。全てはあの小僧の責任である」


「フフッ。兄様、何をお考えで?」


 弟に訊かれた魔王はニヤリと歯を見せる。


「――ひとまずこの女は我々が保護しよう。ひょっとしたら良い交渉材料になるやもしれんからな」


 兄の悪意ある笑みに、妹と弟も同調するのであった。



つづく……

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