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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(王都編)
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第272話 女神の正体

 王都クボウ邸。

 夕食時を過ぎた頃、ヨネシゲ、マロウータン、シオンの三人が遅めの帰宅。彼らが玄関の扉を開くとソフィア、カエデ、クラークが笑顔で出迎える。

 そして角刈りが真っ先に向かった先は――愛妻の元だった。ヨネシゲはソフィアを力強く抱きしめる。


「ソフィア!」


「あ、あなた!? 人前ですよ? み、みんな見てるから……」


 恥ずかしそうに顔を赤く染め上げるソフィア。そんな彼女を抱きしめ続ける角刈りだったが、その口が静かに開かれる。


「あんまり無茶するなよ……」


「無茶ですか? 一体何のことかしら?」


 夫の言葉を聞いたソフィアは(とぼ)けた様子を見せる。だがヨネシゲは単刀直入に尋ねる。


「王都のヒーロー『女神』――君なんだろう?」


「フフッ。バレちゃったわね!」


「バレバレだよ……」


 舌を出しながら答えるソフィア。今宵歓楽街に降臨したヒーロー女神の正体が自分であることをあっさりと認めた。続いてヨネシゲは王都のヒーロー女神に変身した経緯を愛妻に尋ねる。


「そもそも、どうしてヒーローに変身する気になったんだ?」


「えっと……それは――」


 返答に困るソフィア。その様子を見た角刈りはすぐに察したが――そこへコウメが姿を現す。


「ヨネシゲさん、ごめんなさい。ソフィアさんを無理やりヒーローに変身させたのはこの私。この新作の香水でね」


「奥様……」


 コウメは香水が入った容器(アトマイザー)を角刈りに見せつけながらドヤ顔。

 薄々勘付いていたがソフィアを王都のヒーローに仕立て上げたのはコウメの仕業のようだ。

 色々な発明をしている彼女のことだ。恐らく我が愛妻を実験台にしたのだろう。夫として決して気持ちのよいものではない。

 角刈りは表情こそ見せなかったが、呆れた様子で息を漏らす。その気持ちを察してか、ソフィアがヨネシゲに伝える。


「あなた、奥様を悪く思わないで。確かにいきなり変身させられてしまったけど、現場に赴いたのは私の意思。私も……誰かを守るために戦いたかった……ヒーローには憧れていたのよ?」


「そうだったのか? それは知らなかった……」


 「ヒーローに憧れていた」――彼女の意外な言葉に驚きつつもヨネシゲが諭すように言う。


「誰かを守りたい、悪者を倒したい――ソフィアの気持ちはよく理解できるが、君が無理に戦う必要はない。理由はともあれ戦うっていうことは相手を傷付ける行為だ。優しい君のことだ、きっと心に傷を負ってしまうことだろう。何よりソフィア、俺は君の身が心配なんだ」


 角刈りの言葉を聞き終えたソフィアがニコッと笑みを浮かべる。


「あなた――その言葉、そっくりそのままお返ししますね」


「なっ!?」


 まさかの返事に角刈りは呆気に取られた様子。一方のソフィアが胸の内を語る。


「心配してくれるのはとても嬉しいよ。だけどそれは私も同じ。本当は私だってあなたには戦ってほしくはない。あなたの身が心配で心配で仕方ないのよ? だけど――」


 ソフィアはヨネシゲの手を握り締めるとキラキラとした瞳で見つめる。


「私はそんなあなたのことを誇りに思ってる。例え傷付いてボロボロになっても、大切なものを守るために戦うあなたを尊敬してるし、これからも応援していくつもりよ」


「ソフィア……」


「だから――私のことも応援してほしい。あなたをそばで支えて、あなたと共に戦っていきたいの……」


「いや、しかしだな……」


 ヨネシゲの瞳を真っ直ぐと見つめながら訴えるソフィア。困った様子の角刈りに白塗り主君が助言する。


「よいではないか。妻の意思を尊重してやるのも夫の役目ぞよ?」


「マ、マロウータン様……」


「確かに……妻が愛らしくて大切にしたい気持ちはよくわかる。じゃが過保護は良くないぞよ。自分の不安は取り除かれるかもしれんが、妻の不満は溜まる一方じゃ。本当にソフィア殿のことを愛していて信じているのであれば――自由に行動させてやっても良いのではないか? 彼女だってヨネシゲの気持ちは十分理解しておる。そなたが想像しているような無茶な真似はせんじゃろう」


 主君の言葉を聞き終えた角刈りだったが、まだ納得いかなそうな様子で腕を組みながら唸る。すると意外な人物からも説得される。


「ヨ、ヨネシゲ様! わ、私からもお願いです!」


「カエデちゃん……」


 その人物とはカエデだった。彼女は、長い前髪の隙間から覗かす青く透き通った瞳を角刈りに向ける。


「わ、私も、最初は、お父さんとお母さんにヒーローになる事を反対されました。だけど、今では私の活躍を称えてくれて、応援してくれます。上手くは言えませんが……きっとヨネシゲ様もソフィア様のご活躍を誇りに思う筈です! だから……ソフィア様に活躍の場をお与えください! お願いします!」


 深々と頭を下げるカエデをヨネシゲが静かに見つめる。そこへジョーソンが空想術技新聞(異世界版スポーツ新聞)を片手に姿を見せる。


「俺も賛成ですよ。ソフィア様が仲間に加われば、俺の出動の機会も減って、昼寝と競獣を予想する時間が増えますからね――」


 刹那。カエデがジョーソンの尻に強烈な張り手をお見舞いする。


「痛っ!!」


「ジョーソンさん! いい加減にしてください! 私、本気で怒りますよっ?!」


「ははは……ごめんごめん……冗談だよ……」


 カエデに激怒され小さくなったジョーソン。その様子を横目にシオンもソフィアのヒーロー入りを後押しする。


「私も王都のヒーロー『女神』の次なる活躍に期待させていただきますわ!」


「シオン様……」


「ヨネシゲ殿、共に戦う夫婦なんて素敵ではありませんか。私もそんな夫婦関係を築いていきたいですね」


 シオンはそう言い終えると、一人照れた様子で両頬を押さえる。

 

 そしてソフィアが再び懇願。


「あなた、お願い。一人でも多くの人を脅威から守りたいの。私に王都のヒーローをやらせてほしい」


 ヨネシゲは大きく息を吐いたあと、優しい笑みを浮かべる。


「――わかったよ、君の思いを尊重しよう」


「あなた……」


 ぱあっと明るい笑みを見せるソフィアに角刈りが念を押す。


「くどいようだが、無理だけはしないでくれよ?」


「ええ、もちろんよ。いざとなったら自分の身を最優先する。でないと、守れるものも守れなくなっちゃうからね」


「その言葉を聞いて安心したよ。応援してるぞ!」


「ありがとう」


 クラークの紙吹雪が舞う中、夫婦は抱き合う。



つづく……

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