第260話 呼び出し謁見(中編)
その存在に誰も気付いていなかった。
砲弾の如くネビュラに迫る黄色い謎の物体。それは王の腹部に直撃することになる。
「グハッ!?」
悶絶の表情を浮かべながらその場に蹲るネビュラ。それを見た王弟メテオと第三王子ヒュバート、宰相スタンが慌てた様子で駆け寄る。その彼らを守るようにして騎士たちが周囲に警戒の眼差しを向けていた。
「あ、兄上!? だ、大丈夫ですか!?」
「ち、父上! お怪我は!?」
「陛下! しっかりしてくだされ!」
「……ぬぅ……大事ない……」
弟と息子の肩を借りながら立ち上がる国王。その様子を横目にして角刈りと白塗り、空想少女と鉄腕は冷や汗を流しながら互いの顔を見合わせる。
((((……イエローラビット閣下の仕業だ……!!))))
その黄色い謎の物体の正体――
(この私を愚弄するものは何人たりとも許さぬぞ!)
そう。レースカーテン越しに国王を睨みつけるのはイエローラビット閣下。へなちょこ珍獣は先程ネビュラから「黄色い不気味な珍獣」と表現されてしまったことにご立腹。国王を襲撃した次第だ。
(何やってんだよ、閣下! せっかくいい感じで話が進んでいたのに余計なことするんじゃねえ!)
このあと、イエローラビット閣下の悪行がコウメに密告されたのは言うまでもない。
ネビュラはうめき声を漏らしながら玉座に戻る。
「くっ……今のは何だったのだ? 良からぬ魔物の仕業か? まあ、リゲルの襲撃では無さそうだが……こんなことならウィンターを控えさせておけば良かった……」
タイガー来城後、ネビュラは常にウィンターを傍らに控えさせていた。だが今日に限っては守護神を自由に行動させている。これも彼の考えが軟化したからだ。
(――大丈夫だ。奴が白昼堂々俺を襲うことは無いだろう。それにウィンターにも仕事がある。俺が王道を歩む為には、あの小僧にも動き回ってもらわねばな……)
ネビュラは一息ついた後、一行に視線を戻す。
「何があったかわからんが、とりあえず問題はない。話を続けよう――」
ネビュラはそう言うとカエデとジョーソンを見つめながら、綺麗に整えられた顎髭を撫で始める。
「空想少女カエデちゃん、並びに鉄腕ジョーソン。お前たちの活躍も素晴らしいものだった。驚嘆に値する」
「も、も、も、「勿体無きお言葉です」」
ネビュラに一礼するカエデとジョーソン。そして空想少女が国王に礼の言葉を述べる。
「へ、陛下! 昨夜は私の怪我を治癒していただきありがとうございました! お、お陰様でこの通り、げ、元気でございます! はい」
「クックックッ。礼には及ばぬ。元気そうで何よりだ。だが――」
この時、国王はある疑問を抱いていた。彼はカエデたちに問い掛ける。
「それにしても……お前たち、本当に王都のヒーローなのか? これではまるで別人ではないか。昨晩の華やかしい姿は何処にいった?」
昨晩、国王の前に姿を現したカエデとジョーソンは変身した姿。その自信に満ち溢れたキラキラとした輝かしい姿とは異なり、今謁見の間に居るヒーローと呼ばれる中年と少女はどこか冴えない地味な印象を受ける。そもそも髪の色も違う。ネビュラは本当にこの男女が王都のヒーローなのかと疑いの眼差しを向けていた。
するとカエデは漆黒の長い前髪を掻き分けると、透き通った青い瞳でネビュラを真っ直ぐと見つめる。
「陛下。私たちが紛れもない王都のヒーローと呼ばれる者たちです」
その澄み切った青い瞳を見たネビュラが納得した様子で口角を上げる。
「――疑って悪かった。その澄んだ瞳は、昨日俺が見た空想少女の瞳と同じものだ。お前たちが王都のヒーローと言うのは間違いなさそうだな」
「し、信じていただき、あ、ありがとうございます!」
するとマロウータンがネビュラに提案する。
「陛下。折角でございますから、二人が変身するところをご覧に入れましょう!」
「ほほう。それは是非見てみたいな!」
白塗り顔の提案に国王は興奮気味。一方のカエデとジョーソンは「えっ!?」といった具合に口を半開き。特にジョーソンはあからさまに嫌そうな様子で顔を歪める。しかし主君の命令は絶対。二人は互いに顔を見合わせると力強く頷く。そして――
「カエデちゃん! ジョーソン! 変身だっ!」
「「おーっ!」」
突然一同の前に現れたイエローラビット閣下の掛け声でカエデとジョーソンの変身が始まった。
カエデはリップクリームを唇に、ジョーソンは塗り薬を腕に塗り始めると二人の全身がまばゆい光に包まれる。
そこへあの男が突如乱入。
「説明しよう! カエデはリップクリームをジョーソンは塗り薬を使用することで想人としての力を最大限に解放して尚且つ心の殻を破り超絶強い王都のヒーローに変身する事ができるのだっ!」
「「ド、ドーナツ屋!? 何故ここに!?」」
その色黒のスキンヘッドはドーナツ屋兼情報屋のボブだった。
ヨネシゲは若干苛立った様子でイエローラビット閣下とボブを睨む。
(コイツら一体何処から入ってきやがった!? 本当胡散臭い連中だぜ。昨日だってそうさ。何故俺たちより後に屋敷を出た筈のアイツらが、先に現場に到着してるんだよ!? ふざけてやがる……)
そうこうしている間にカエデとジョーソンの変身は進み――
地味だった少女の黒髪は、キラキラと輝きを見せる橙色のツインテールに変わり、まるで現実世界のアイドルを彷彿させるカラフルな衣装を身に纏ったミニスカート少女に変身。
冴えない中年男もまた、茶色だった髪を金色に変えて逆立たせ、漆黒のドミノマスクを被り、自慢の鉄腕を強調させるような袖無しシャツを着た熱血野郎に変貌を遂げていた。
変身を終えた空想少女と鉄腕は腕を組み、互いに背中を合わせながら国王を見る。
「――王都を飲み込む闇があるとするならば、それをまばゆい光で照らして阻止するのが私たちの役目――超絶強いお茶目な王都のヒーロー『空想少女カエデちゃん』とっ!」
「同じく『鉄腕ジョーソン』だぜっ!」
「「王都のヒーロー、見参っ!!」」
決め台詞、決めポーズを見せる王都のヒーローたち。それを見たネビュラは興奮気味に拍手を送るのであった。
つづく……




