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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(王都編)
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第258話 ドリムの朝 【挿絵あり】

「――では行って参る。コウメ、クラークよ。留守を頼むぞよ」


「ダーリン、皆さん、いってらっしゃーい!」


「旦那様、皆様、行ってらっしゃいませ」


 ヨネシゲたちが王都入りしてから三日目の朝。角刈りは公務のため、妻ソフィアと主君マロウータン、ドランカド、シオン、カエデ、ジョーソンと共にドリム城へと向かう。

 公務と言っても、その内容は主君マロウータンの付き添いである。

 昨日、男爵の爵位を授かったヨネシゲ。まだ右も左もわからない新米貴族であると同時にクボウの新人家臣でもある。当面の間は主君マロウータンのそばで仕事を教わり、一人前の貴族として育て上げられる予定だ。

 その主君の本日の公務は――国王ネビュラに謁見、昨夜の一件(改革戦士団の襲撃)を各大臣に報告、王都特別警備隊各責任者との会議となっている。

 そして今回、ソフィアとシオン、自宅謹慎中のドランカドも国王直々に参上するよう声が掛かっており、ヨネシゲと共に行動している次第だ。


 ヨネシゲたちは、留守番するコウメとクラークに見送られながら屋敷を後にする。

 なにはともあれ本日から本格的に公務を行うことになる角刈りは張り切った様子で雄叫びを上げる。


「ヨッシャ! 気合い入れてくぞ!」


「ウフフ。朝から元気だね」


「おうよ! 『気合があれば何でもできる!』ってよく言うだろ? 特に昨晩はあまり寝れてない。気合がなければ今日一日は乗り越えられんぞ?」


「確かにそうかもね……」


「ん? どうしたんだソフィア? 元気が無いじゃんか?」


 角刈り頭と異なり顔を強張らすソフィア。普段であれば穏やかな笑みを浮かべているが、今はそれが見られない。そんな愛妻の気持ちをヨネシゲは直ぐに察する。


「ソフィア、もしかして緊張してるのか?」


「え、ええ……陛下から直々にお声が掛かっていると思うと、なんだか落ち着かなくて……」


 角刈りの予想通り愛妻は緊張していた。無理もない。普通に生きていて国王から直接呼び出しを受けることなどまずありえない話だ。

 その一方で緊張感ゼロの者たちも居る。

 本日正式な処分が言い渡されるであろう真四角野郎は大きな欠伸。


「ふわぁ〜、流石に眠いっスねぇ〜。今日の昼飯は何かな?」


 恋する令嬢は顔を赤く染めながら上の空。


「ヒュバート王子……こんなにも早くまたお会いできるとは……」


 中年の使用人は空想術技新聞(異世界版スポーツ新聞)を片手に競獣の予想。


「う〜む……やはりここは『奈落の特務少佐』に賭けるべきか……悩ましいぜ……」


 だが若干一名、緊張感マックスの少女の姿も。


「ど、ど、ど、どうしよう!? へ、陛下に会って、な、何を話せばいいのかな?」


 その様子を横目にしながら角刈りは愛妻に言う。


「ま、ソフィアくらいに程よい緊張感があったほうがいいかもな」


「そういうものかしら……」


「そんなに心配するなって。何かあれば俺がフォローしてやるからさ」


「フフフ、ありがとう。その言葉を聞いて安心したよ」


 少し緊張が解れたのだろうか。ソフィアは微笑みを浮かべる。

 集団の先頭を闊歩するマロウータンは背後で交わされるクラフト夫妻の会話を微笑ましそうに聞いていた。


(善き哉、善き哉)


 和やかな雰囲気の中、ヨネシゲたちは朝日が照り付けるドリム城を目指すのであった。



 ――その頃、ドリム城。

 王族専用の食堂には長テーブルを囲む国王ネビュラ、王弟メテオ、第一王子エリックの姿があった。彼らは朝食を取りながら、昨晩のネビュラの活躍を称えていた。


「兄上。昨晩のご活躍お見事でございました。あの改革戦士団の女幹部に立ち向かっただけではなく、負傷した空想少女カエデちゃんや王都民たちの治癒まで行ったそうで、私は本当に感動しましたぞ……!」


 瞳を潤ませながら兄を称えるメテオ。その隣ではエリックが今朝の市井の様子を父に伝える。


「今朝の市井は父上の話題で持ち切りのようです。昨晩の父上のご活躍、多くの王都民が感銘を受けているようですよ」


 弟と息子の言葉を聞き終えたネビュラは上機嫌で鼻を鳴らす。


「フン。まるで掌返しではないか。この俺を称えても後で後悔するだけだぞ?」


 不敵に口角を上げるネビュラにメテオは苦笑を見せる。


「兄上、ご冗談を……」


 そして王弟は兄の瞳を真っ直ぐと見つめる。


「兄上、掌返しでも良いではありませんか。例えそうだとしても、兄上はたった一回の行いで民たちの心を掴んでしまわれた。これぞ、この国の頂点に立つ男に求められる素質です!」


 ネビュラは悲しげに微笑む。


「フン……今更だがな……」


「いえ、そんなことはありません。民も、貴族も、そして私も、兄上が王道を歩む日を待ち望んでいたのです。この日が来ることを私は信じておりました」


「メテオ……」


「微力ではありますが……このメテオ・ジェフ・ロバーツ、兄上の新たな国造りをお手伝いさせていただきます。幼い頃……あの日、兄上と語り合った、豊かで平和なトロイメライを実現するために……!」


 弟の熱い想い。ネビュラが言葉を返す。


「メテオよ。お前は俺が忘れかけていた大切な事を思い出させてくれた。礼を言わせてほしい。ありがとな」


「兄上……」


 見違えるように改心し始めた兄にメテオは感激。瞳から涙を零すのであった。




 ――同じ頃、ドリム城の一室。

 一人の男が意識を取り戻す。

 金色の短髪、引き締まった身体を持つこの青年は――サンディ家臣ノアだ。

 彼は昨晩行われたジュエルとの一騎打ちで相討ちとなり重傷。そのまま意識を失う。非常に危うい状態であったが、主君ウィンターの空想術でその傷と身体に蓄積されたダメージは全て取り除かれ、事なきを得た。

 ノアは瞳をゆっくりと開き、ぼやける視界の中、天井を見つめる。


「……どうやら……助かったようだな――」


 自分は生きていた。

 ノアは安堵の息を漏らしながら視線を側方に向ける。と同時に彼は瞳を大きく見開いた。


「旦那様……!?」


 彼が横たわるベッドの隣。椅子に座りながらこちらに身体を向けて、うたた寝しているのは、主君のウィンターだった。ノアが驚いた様子で声を漏らすと、守護神はハッとした様子で瞳を開く。


「……ノア……目を覚ましましたか……」


 ウィンターは安堵した様子で年相応の笑みをノアに向ける。その幼き主君に金髪の臣下が尋ねる。


「……旦那様……もしかして……ずっと俺のそばに……?」


「ええ、心配でしたからね。目覚めてくれて本当に良かったです」


 微笑む主君だったが、その顔色は青白。それを見たノアは血相を変えながら身体を起こす。


「旦那様、まさか!? あれを使ったのですか!?」


 主君は静かに頷く。


「はい。通常の治癒術では対処が難しい程の深手でしたので……」


 ノアは悔しそうに毛布を握り締める。


「旦那様……『身代わりの治癒術』を使うのはもうやめてくださいって何回もお願いしたでしょ!? これ以上ご自身の寿命を縮めるような行為はおやめください……」


「安心してください。一ヶ月もあれば体内に取り込んだダメージも浄化できるでしょう。それに――大切な家臣を見捨てるようなことはできません」


 ノアは悔し泣き。


「一ヶ月も……一ヶ月も俺が受けた苦痛を肩代わりするんですよ!? お願いですから、次は俺を見捨ててください!」


 だが、守護神はいつもの無表情で臣下に言う。


「そうはいきませんよ? もし……私の身が危険に晒された時は、ノアに助けに来てもらう予定ですから」


「……それ、どんな予定ですか……」


「ふふ。何事も保険が必要ですよ? 私だって、いつ敵の手に落ちるかわかりませんからね」


「そうならない事を祈ってますが……」


 苦笑を浮かべるノア。その臣下の表情を見たウィンターが優しく微笑む。


「良かったです。いつものノアに戻ったようで。泣いてる姿は似合ってませんからね」


「……っ!」


 恥ずかしそうに顔を俯かせるノア。すると主君は椅子から立ち上がり部屋を後にしようとする。


「旦那様?」


「私はこれから各大臣に昨晩の一件を報告して参ります。午後からはノアにも王都特別警備隊の会議と、改革戦士団戦闘長『グレース・スタージェス』の取り調べに加わってもらう予定ですので、それまでの間はゆっくりと休んでいてください――」


 ウィンターはノアに再び微笑みかけると公務のため部屋を後にした。


「一番ゆっくりしてもらいたいのは旦那様だよ……」


 ノアはそう呟きながら息を漏らした。




 ――それから程なくして、ドリム城内の庭園にはヨネシゲ一行の姿があった。


「いつ見ても綺麗な庭園だね」


「ああ、そうだな」


 朝日を浴びる庭園を瞳を輝かせながら見つめるソフィア。角刈りも相槌を打ちながら辺りを見渡していると、ある人集りを発見する。


「なんだあの人集りは? 城の使用人や兵士たちのようだが……」


 その人集りは言うまでもなく城内の関係者。使用人や兵士、中には貴族の姿があった。そして不思議なことに皆同じ方向を向いている。

 これから何が行われるのか? と思いながら人集りを見つめるヨネシゲたちの隣でマロウータンが扇を仰ぎながら呟く。


「ウホッ。始まるぞよ、ドリム城名物のアレが」


「ドリム城名物のアレ?」


 ヨネシゲが首を傾げた刹那、庭園に勇ましい男の声が響き渡る。


「皆の衆! 24時間、頑張れますかっ?!」


『おー』


 その勇まし声の問い掛けに使用人や兵士たちはやる気のない声で応えた。

 そして、彼ら彼女らが身体を向ける先には――お立ち台。そこには二人の男の姿があった。

 ヨネシゲはその人物たちに見覚えがあった。


「マロウータン様、あのお二人はもしかして?」


「ウホッ。『モーダメ・ゲッソリオ』公爵閣下と、その長子『ガンバリヤ』卿じゃよ!」


 ゲッソリオ親子が声を揃える。


「「ゲッソリオ体操・第一!」」







    挿絵(By みてみん)







 刹那、どこからともなく流れ出すメロディ。


「な、何なんだ、これは……!?」


 ゲッソリオ体操、始まる。



つづく……

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