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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(王都編)
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第252話 王兄スター(前編)【挿絵あり】

 時は少しだけ遡る。

 それは王都保安署前でヨネシゲたちが改革戦士団メンバーと激戦を繰り広げていた頃だ。


 ――ここはトロイメライ王都の最北端。

 隣国「イタプレス王国」と国境を面するこの場所は、意外にも閑静な住宅地となっている。国境付近にも拘らず治安が良いのは、両国の関係が非常に良好であることが理由の一つだ。故に両国の民たちは隣町にショッピングに行く感覚で国境を往来している。

 その国境を面する住宅地の一角。一際目をひく大豪邸が佇んでいる。だが、その豪邸の周りは見上げる程高い柵。まるで檻のようだ。そしてその豪邸の周囲を王国軍の兵士たちが巡回。彼らの鋭い眼差しは常に豪邸の敷地内へ向けられていた。

 ――そう。豪邸の主を外部へ逃さないように。


 その豪邸の主。

 デスクライトだけが灯された私室で、不安気な表情で窓の外を見つめる中年男。

 輝きを失った青い瞳。伸び切った薄茶色の髪はボサボサで、顎と口周りには無精髭。この覇気が感じられない男の正体は、トロイメライ王「ネビュラ」の実兄――「スター・ジェフ・ロバーツ」だ。

 王子時代は「一等星」と呼ばれる程輝かしい活躍を見せていたスター。まさしく「期待の星」として貴族や民たちの期待を背負っていた。しかし前国王が死去すると弟ネビュラと王位継承を巡って激しく対立。その最中、不運にもスターは病に倒れてしまう。その隙をネビュラが見逃す筈もなく、結果として王の座を弟に譲ることになった。その後、スターはこの屋敷に軟禁されることになる。

 それからだ。彼が輝きを失い無気力になったのは。

 かれこれ20年近く軟禁生活を続けているスターだが、昨晩に続いてかつてない不安に襲われていた。

 王兄は遠くに見える歓楽街のネオンを見つめながら言葉を漏らす。


「――昨晩の巨大ドクロといい、今夜のこの皮膚が引っ張られるような感覚……一体、王都で何が起きているというのだ? またあの改革戦士団とかいう輩の仕業なのか?」


 昨晩、王都の夜空に出現した巨大ドクロ。そして今夜は、自身の身体が南の方角に引っ張られるような感覚に陥っている。その他、机の上に置かれていたメモ用紙やハンカチなどの軽い物が、謎の引力に引き寄せられ南側の壁に貼り付いている状態だ。


「不気味だ……」


 その時である。

 部屋をノックする音が聞こえてきた。


「誰だ!?」


 スターが尋ねると、扉の外から聞き慣れた老婆の声。


「殿下……」


「婆やか? 入れ」


 その声の主は、この屋敷に長年使用人として務める老婆のものだった。スターは躊躇うことなく使用人を部屋の中へ招き入れる。

 やがて開かれる扉。

 だが――スターは使用人の表情を見た瞬間、その異変を感じ取った。


「ば、婆や!?」


「殿下……お逃げ……くだ……」


 使用人は最後まで言葉を言い終えることなく、その場に倒れてしまった。驚いたスターは急いで老婆の元まで駆け寄る。


「婆や! 婆や! しっかりしろ! 一体何があったんだ!?」


 使用人の身体を揺さぶりながら動揺するスター。

 直後、不気味な笑い声が王兄の耳に届く。


「オッホッホッ。ご安心ください。彼女には少し眠っていただいているだけです。(じき)に目を覚ましましょう」


「だ、誰だ!?」


 スターが扉の向こうに視線を移すと、そこには三人の人影が見えた。







    挿絵(By みてみん)







 王兄が尋ねると、先程から不気味な笑い声を漏らす、フェイスベールを身に付けた中年男が、その正体を明かす。


「オッホッホッ。殿下、突然の無礼、お許しください。私は改革戦士団総帥『マスター』と申します」


「か、改革戦士団だと!?」


 スターは唇を震わせながら腰を抜かす。

 何故なら今この王国を荒らし回るテロ集団の首領が目の前に居るのだから。

 一方のマスターは王兄の反応など気にも留めず、相方の紹介を始める。総帥が右手を向けた先には、ドミノマスクを身に着ける銀髪青年の姿――


「こちらの者が私の右腕『ソード』でございます」


 続けて、銀髪青年が自らの口で名乗り始める。


「殿下。お初にお目にかかります。私はソードと申します。改革戦士団四天王の一角を任されている者です。以後お見知りおきを……」


 ソードは自己紹介を終えると、僅かに口角を上げながら一礼する。その優雅な立ち振舞にスターは思わず会釈を返してしまう。

 その様子を見届けたマスターがもう一人の男の紹介を始めようとする。


「そして殿下。こちらのお方が――オッホッホッ。言わなくてもわかりますな?」


 マスターはそう言いながら背後の緑髪中年男に右手を向ける。その緑髪中年男を目にしたスターが瞳を大きく見開いた。


「お、お前は……!?」


「フッフッフッ。お久しゅうございますな、殿下」


 その緑髪中年男――スターもよく知る人物だった。

 不気味に口角を上げるこの男。その緑髪から伸びるアホ毛はポニーテール……否、巨大な一枚の葉っぱの如く。独特な髪型を持つこの男の正体は――


「『ネコソギア・ルッコラ』! 大臣のお前が、何故このような輩と行動を共にしている!?」


 壮大なアホ毛を持つ緑髪中年男は、トロイメライ王国の大臣「ネコソギア・ルッコラ」。王妃に忠実な第二王子ロルフの――側近だった。



つづく……

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