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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(王都編)
255/411

第247話 乱入者(前編)【挿絵あり】

    挿絵(By みてみん)


 グレースが突っ込んだ瓦礫の山を静かに見つめるヨネシゲ。たった今まで行われていた彼女との一騎打ちは角刈りの勝利に終わった。その様子を見守っていたサンディ軍兵士や保安官、野次馬たちから歓声が沸き起こる。その様子を横目にマロウータンが臣下の活躍を称える。


「――でかしたぞよ、ヨネシゲ。流石は我が家臣じゃ」


 白塗り顔の後方でもジョーソンとボブ、イエローラビット閣下が安堵のため息を漏らす。


「凄えな……流石、旦那様とヨネシゲさんだ。俺の鉄腕もまだまだだな……」


「へへっ。こりゃおったまげたぜ。カエデちゃんとジョーソンが苦戦した相手を簡単に倒しちまうとはな」


「うむ! これぞクボウの底力であるな」


 そして、現場からの生配信を屋敷で片時も離れずに見守っていた、コウメやドランカドたちも歓喜の声を上げる。


「流石ダーリン! ヨネシゲさんもよく頑張ったわね!」


「くう〜! 痺れるっす! ヨネさんとマロウータン様、相変わらずカッコいいっすね!」


「旦那様! ヨネシゲ殿! 紙吹雪ですぞ! そ〜れ!」


 クラークは主君たちの映像が流れる水晶玉に紙吹雪を浴びせた。

 その傍ら。表情を曇らす一人の女性――ソフィアだ。一同喜びに浸る中、彼女だけが険しい顔で水晶玉を静観。その様子に気付いたシオンがソフィアに声を掛ける。


「ソフィアさん……どうしましたか?」


 令嬢の問い掛けにソフィアが静かに口を開く。


「あ、はい。ひとまず夫が無事で私も安心しました。でも……まだ戦いは続いています。それにカエデちゃんの救出が残っていますし……まだ喜べません……」


「そ、そうでしたわね……」


 喜ぶには早かった。まだサラという強敵が健在。カエデの身柄は敵の手中にある。戦いはまだ終わっていないのだ。本当に喜ぶのは彼女を救出してからである。ソフィアの言葉を聞いた一同は反省した様子で顔を俯かせた。

 そしてソフィアが喜べない理由がもう一つ。夫ヨネシゲの心情を察してのことだ。


(――あなた、グレースさんのこと慕ってたから……とても辛い戦いだったことでしょう……)


 ――夫を励ましたい。

 ここでソフィアがコウメにある事を尋ねる。


「奥様。お尋ねしたいのですが……」


「なにかしら?」


「今、夫たちの映像をこうして見れていますけど……逆に、私たちの映像を向こうに流したりできますか?」


「ええ。できなくはないけど……ソフィアさん、どうするつもり?」


 コウメから理由を尋ねられるとソフィアは照れくさそうに返答する。


「……その……夫にエールを……」


「おーほほっ! それ名案ね! ちょっと待ってて!」


 コウメは高笑いを上げながらタンスの引き出しをあさり始めた。




 ――そしてヨネシゲ。

 今も尚、砂煙が立ち昇る瓦礫の山を眺める。角刈りの脳裏には彼女が最後に見せた涙と謝罪の言葉が焼き付いて消えなかった。


(――グレース先生。貴女がどれだけ弟さんのことを愛していたかよくわかったよ。だからこそ、貴女を止めなければならなかった。少々乱暴になっちまったが、貴女を止めれて良かったと思ってる。あとは……大人しく捕まって罪を償ってくれ……)


 ヨネシゲはグレースの更生を心から願った。


 ――だが。まるでその気持を嘲笑うかのようにある少女の高笑いが周囲に轟いた。


「フフフフフ……アハハハハハッ! やってくれたわね、ヨネシゲ・クラフト!」


「!!」


 ヨネシゲが視線を移した先。そこには不気味に顔を歪ませるサラの姿があった。赤髪少女は血走った瞳で角刈りを睨みつける。


「ブルームといい……今夜といい……どんだけ私の邪魔をすれば気が済むのよ?」


 ヨネシゲは毅然とした態度で言葉を返す。


「悪いが、邪魔をしたつもりはない。寧ろ邪魔をされているのは俺たちの方だ。これ以上罪なきものたちの生活を脅かすのは止してくれねえか?」


「偉そうに……! 人の生活をブチ壊しておいて……!」


「そのことは……理解しているつもりだ。だけどな――」


 歯を剥き出し、憎悪に満ちた表情を見せるサラ。その姿を目にした角刈りは、ブルーム夜戦の際にサラと交わした会話を思い出していた――




『一体お前らは何がしたい!? こんなことをして何が楽しい!? これは()ではなく、ただの()()だ!』


()と勝手に決めつけているのはそちらさんでしょ? 元より私たちは、殺戮を行うつもりでここまで赴いているんだから……』


『何故? 何故そんなことをする必要がある!?』


『この世界を……あなたが構築した世界を一から造り変えるためよ。そのためには、既存のものをある程度破壊する必要があるの……』


『俺が作った……世界を……?』


(とぼ)けないでちょうだい。知ってるでしょ? この世界はあなたによって構築された世界……いや、正しくは、あなたが造り変えた世界であることを』


『俺が造り変えた世界?』


『そう。覚えているでしょ? あなたは、既存のものを排除し、新たなものと置き換えた。例えばそれは、人だったり、物だったり……』


『もしかして……』


『あなたはこの世界を改竄(かいざん)し、私たちの居場所を奪った。私たちは、あなたの欲求を満たす為に排除された存在なのよ!』


『改竄、排除って……俺はそんなつもりは……!』


『まだしらを切るつもり? それとも、私みたいな小物、忘れてしまったかしら?』


『一体、何を言っている!?』


『思い出しなさい。サラという名前を。あと、もう一人、ソードという男も居るわ。フフフ……これでやっと思い出すんじゃない?』


『サラと……ソード……!』


『さあ、言ってみて。サラとソードって、一体何者なのかしら?』


『物語の……主人公の……相棒たちだ……』


『ご名答! 私とソードは、主人公ヨネシゲによって切り捨てられ、存在を消された、不運な登場人物。でも、思い出してくれて光栄だわ! ね? 主人公さん――』



 ――ここはきっと、亡きソフィアが描いた物語と自分の空想や思惑、記憶が融合した特異な世界――つまり、自分が創り出した世界だ。もし仮にそうだったとしても、何故自分はこの異世界に転移したのか? その謎は未だ解き明かされていない。

 一つ、理解していることがある。それは、自分がこの世界を創り出したことにより――正確に言えば既存の物語を作り変えてしまったことにより、不幸な人生を歩む者たちを生み出してしまったことだ。

 そのうちの一人が目の前にいる赤髪の少女。彼女はヨネシゲが現実世界から転移したことを知る数少ない人物。自分の記憶が正しければ、他にこの事情を知るのはダミアンだけだ。いや、実際はもっと多く居ることだろう。

 もしサラの言うことが本当なのであれば、自分はとんでもなく酷い事をしてしまった。だが――


(――それが罪なき人々を傷付けて良いという理由にはならねえだろうがよ!)


 ヨネシゲはドスの利いた声で言葉を口にする。


「――だけどな……」


「何よ?」


「姉ちゃんがやってることは間違ってる! お前たちの標的は俺一人で十分だろ!?」


 サラは空想杖をヨネシゲに向ける。


「なら……今ここで死んでくれない? そしたら私の気持ちも少しは晴れるわ」


「断る!」


「何?」


 響き渡るヨネシゲの力強い返事。赤髪少女は眉を潜める。そして角刈り頭がサラに宣言する。


「少なくとも……お前たち、改革戦士団の連中が心を改めるまで、そして、あのダミアンをこの拳で抹殺するまで……俺は死なねえ!」


「――くだらないわ……」


 ヨネシゲの言葉を聞いたサラは大きくため息。その直後、空想杖を天に向ける。そこには暗黒球体――ブラックホールがあった。

 赤髪少女は冷たい眼差しを角刈りに向けながら呟いた。


「――全部消えてしまえ――」


 刹那。暗黒球体がその猛威を振るい始めた。途轍もない引力が地上の汎ゆるものを引き寄せていく。

 その凄まじい引力は全身の皮膚を上空へと引っ張り上げる。地上のヨネシゲたちは姿勢を低くしたり、近くの街頭や建物にしがみつくなどして引力に抗う。

 まず先に空中に浮かび上がったのは、無抵抗な小石や瓦礫などだ。例えるなら床のゴミが超強力な掃除機で吸い込まれていくが如く。瓦礫は暗黒球体に吸引されて消滅する。その中には先程マロウータンと激戦を繰り広げたチェイスの亡骸もあった。

 その光景を目にしたヨネシゲとマロウータンはハッとする。


「ま、まずい! このままじゃノアさんやグレース先生も吸い込まれちまう!」


「助けるぞよ!」

 

 その矢先。二人の視界には今まさに暗黒球体に向かって浮遊を始めるノアとグレースの姿が目に入った。意識を失った二人はその引力に身を任せている状態だ。


「マロウータン様!」


「行くぞよ!」


 ヨネシゲとマロウータンは同時に地面を蹴り、飛翔。角刈り頭はグレースを、白塗り顔はノアの足を掴むことに成功した。だが、地上に降り立つことは極めて困難。飛翔時の勢いと暗黒球体の引力が相乗。ヨネシゲたちの身体は瞬く間に暗黒球体へと接近する。


「やばい! このままじゃ俺たち全員お陀仏だ!」


「ぬう! 何か良い策は、良い策はないものか!?」

 

 為す術がない。

 目と鼻の先には暗黒球体。ヨネシゲとマロウータンの顔が青ざめる。角刈りはグレースの身体を抱き寄せながら瞳を閉じた。


(……もうだめだ……)


 ヨネシゲが諦めかけたその時だった。

 電流を纏わせながら引力の暴力を働いていた暗黒球体は、突然白色に凍り付くと、粉々に砕け散り、氷のミストとなってキラキラと地上へ降り注ぎ始めた。


「な、何事!?」


 一体何が起きたのか? サラは慌てた様子で暗黒球体の残骸に視線を向けていた。

 強烈な引力を発生させていた暗黒球体が消滅したことにより、角刈りたちの身体は地上の重力に従い急降下を始める。


「ちょっ!? 今度は落下かよ!?」


「ヨネシゲよ! 着地の準備じゃ!」


「承知!」


 着地の体制に入ったヨネシゲとマロウータン。その二人に向かって空想杖を構えるのは、言うまでもなくサラだ。


「悪運の強い奴らね。いいわ。この手で直接消してやるわ――」


 刹那。空想杖を構える彼女の右腕が――凍結した。


「ぐわあぁぁぁぁっ!」


 サラは左手で右腕を押さえながら蹲る。

 その様子にヨネシゲとマロウータンは気付いていない様子。着地に備えて全神経を集中させていた。

 すると突然。聞き覚えのある中年男の声が周囲に轟いた。


「大星雲!」


「!?」


 その声と同時に辺り一帯を覆ったのは――虹色に発光する雲。ヨネシゲたちは虹色の雲に包み込まれながらゆっくりと地上へと降り立つのであった。


 ――その様子を高層住宅の屋上から見守る、銀髪の少年と薄茶色髪の中年男の姿があった。


「陛下、お見事です」


「クックックッ。宰相(スタン)から教えてもらった空想術が役に立ったな」


 乱入者、現る。



つづく……

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