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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(王都編)
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第237話 空想少女VS空想術使い

 先攻はカエデ。

 空想少女の掌から放たれた正義の鉄鎖「ジャスティスチェーン」。黄金色に発光する鎖は音速でサラに接近。その体を縛り上げる。


「や、やったか!?」


 あまりにも呆気なく捕縛されるサラをカエデは半信半疑の表情で見つめる。その様子を物陰から馬鹿デカい声で実況するのはボブとイエローラビット閣下だ。


「なんとっ! バトル開始早々、カエデちゃんの『ジャスティスチェーン』が炸裂! 改革戦士団の少女を捕らえたぞっ!?」


「流石カエデちゃんですな。あの『ジャスティスチェーン』に捕まってしまったら、そう簡単に逃れられないでしょう――」


 その刹那。サラは全身に青紫色の光を纏わすと「ジャスティスチェーン」を一瞬で粉砕。これを無力化させる。その光景を目の当たりにしたカエデは驚きを隠しきれない様子だ。


「――そんな……今までどんな相手でも捕らえてきた私の『ジャスティスチェーン』を一瞬で……!」


「甘いわね。そんなんで私を拘束できると思った?」


「まだまだ!」


 サラに冷笑されるも、カエデは間髪を入れず両手を構える。すると彼女は全身に激しい電流を纏わせ、掌には電流の球体が出現。次第に大きさを増すそれは、カエデの背丈くらいの直径に。そして――


「怒りの雷撃『アングリーサンダー』!」


 空想少女から放たれた渾身の雷撃砲。地面をえぐり、ビリビリと音を立て、空気を歪ませながらサラに迫る。だが、空想術使いは不敵に口角を上げる。


「フフッ。ネーミングセンスがどっかの誰かさんの気合玉と同レベルよ」


 空想杖を構えるサラ。その正面には青紫色に光る方陣が浮かび上がる。そこへ『アングリーサンダー』が激突。それはまるでコンクリートの壁に投げ飛ばされたガラス玉。カエデの雷撃砲は轟音と共に粉々に砕け散った。


「次は私の番よ」


 続いて攻勢に出たのはサラだ。

 彼女の構える空想杖を起点に発生したのは、赤い電流を帯びた漆黒の煙霧。それは周囲の瓦礫などを巻き上げながらサラの周りを急旋回。辺りに強風が吹き荒れる。その凄まじいエネルギーにカエデは思わず後退り。


「なんてエネルギーなの!? あの人……今まで戦ってきた相手とはレベルが違うわ……あんなので攻撃されたら受け止めきれないよ……」


 素人でも察することができるサラの戦闘力の高さ。

 格上の敵に怖気づくカエデだったが、ジョーソンに一喝される。


「おい、カエデっ! 何怖気づいてやがる!?」


「ジョーソンさん!?」


「超絶強い王都のヒーローはどこにいったんだ!? お前なら奴の攻撃を受け止めることができる! 自分を信じろっ!」


 鉄腕の熱い言葉。それを聞いたカエデは力強く頷いた。その一方で、彼の熱い言葉を冷風のように感じる者も居るようだ。


「おっさん、寒いんだよ」


「なんだと?」


「俺はアンタのような熱血野郎のセリフが大嫌いなんだよ!」


「ハッハッハッ! ならもっと聞かせてやるぜ! この熱い男の煮えたぎるような言葉の数々をなっ!」


「黙れっ!」


「!!」


 ジョーソンの一瞬の隙をついてチェイスの気合玉飛礫(つぶて)が炸裂。鉄腕は腕をクロスさせ防御する。しかしチェイスの人差し指から連続して発射される光球の弾丸は、ジョーソンの身体の至る所に傷を付けていく。


「……っ! こりゃ堪えるねぇ……」


「ジジイにしては耐えてる方だぜ?」


 両者、睨み合いながら不敵に口角を上げた。

  




「――ジョーソンさん!」


 相方を心配そうにして見つめるカエデ。するとサラが警告。


「余所見している場合じゃないわよ? 人の心配している余裕があったら自分の心配をしなさい」


「!!」


 その声にハッとした空想少女が両手を構える。対する空想術使いもカエデに空想杖を向けた。


「さあ、暗黒の衝撃波。受けてみなさい!」


 刹那。サラから漆黒の煙霧と融合した衝撃波が放たれた。暗黒の衝撃波は周囲のものを巻き上げながら、一瞬でカエデの体を飲み込んだ。


「「カエデちゃ〜ん!!」」


 絶望的な光景にボブとイエローラビット閣下は絶叫。屋敷で生配信を見ていたソフィアやドランカドたちも顔を青くさせていた。


 ――ところが。

 暗黒の衝撃波はまるで時が止まったかのように動きを停止。と同時に漆黒の煙霧に一筋の閃光が走る。サラが瞳を細めながらその様子を見つめていると、空想少女のソプラノボイスが周囲に響き渡る。


「暗黒を切り裂く光の聖剣『ライトソード』!」


 漆黒の煙霧の内側から漏れ出す神々しい光。やがてその光は煙霧全体を飲み込み、暗黒を飛散させる。と同時に中から飛び出してきたのはカエデだった。その彼女が握るのは光でできた大剣。空想少女はライトソードを構えながらサラに急接近する。


「覚悟ぉっ!」


「来なさい」


 カエデは構えていたライトソードをサラに向かって振り下ろす。対する空想術使いは指揮棒サイズの空想杖でそれを受け止める。

 鍔迫り合い。

 カエデは渾身の力でライトソードを相手の空想杖に押し付ける。対するサラは余裕の笑みを浮かべながら空想少女を挑発。


「そこそこ空想術は扱えるみたいだけど、その程度じゃ私を倒すことなんてできないわよ?」


「そんなの……やってみなきゃ……わからないでしょ……!」


「さて、それはどうかしらね? 王都のヒーローなんて随分と聞こえはいいけど、所詮鉄壁に守られた王都内でザコ相手に無双している井の中の蛙に過ぎない」


「井の中の……蛙ですって……!?」


「ええそうよ。貴女は外の世界を知らないカエルちゃん――いえ、それともオタマジャクシさんかしら?」


 サラは言葉を終えると空想杖を振り抜きカエデのライトソードを弾き返す。空想少女が大勢を崩している間に赤髪少女は飛翔。空中に浮遊した。そして体勢を立て直したカエデを見下ろす。


「さあ、ヒーローごっこはお終いよ。今から貴女に絶望を味わわせてあげるわ」


 サラはそう言うと空想杖を高らかに振り上げる。その姿を見上げながらカエデは額に汗を滲ませた。


「一体、何をするつもりなの……?」


「言ったでしょ? 絶望を味わってもらうって。これから貴女は二度とヒーローを名乗りたく無くなるほど恐怖するのよ」


 サラの瞳が青紫色に光る。

 振り翳す空想杖の先端に、赤い電流を纏わす暗黒の球体が発生。周囲の空気を歪ますサッカーボールサイズのそれは次第に大きさを増していき、気付けばサラの身長と同じくらいの直径にまで膨張。やがて暗黒の球体は地上の瓦礫を吸い上げるようにして飲み込んでいく。そして空想術使いがニヤリと笑う。


「――ブラックホールよ。この王都の全てを闇に飲み込んであげる」


「ブラックホール……!!」


 カエデの顔が青ざめる。

 自分の想像が正しければ、あの暗黒球体はこの王都を構成する全てを飲み込み、メルヘンの地を無に帰してしまうことだろう。現実的に考えて王都を飲み込み消滅させるなどあり得ない話だが、現に改革戦士団は南都やカルムの街を一瞬で焼け野原にしている。だとしたら、この王都を破壊することなど容易い筈だ。


 次第に増していく暗黒球体の引力。周囲の建物の外壁や窓ガラス、舗装された石畳の路面を剥がし、吸い寄せる。

 サラがこの暗黒球体の力を解放させた時、王都に居る全員が絶望を目の当たりにすることだろう。今はその準備段階に過ぎないが、この世の終わりを予感させる恐ろしい光景に変わりはない。

 イエローラビット閣下とボブは勿論、流石のジョーソンも顔を強張らせる。彼らだけではない。改革戦士団のジュエル、グレース、チェイスですら固唾を飲みながら絶望の襲来を静観していた。


 ちょうどそこへある集団が到着する。

 「猫」の一文字が書かれた白地の軍旗を掲げる、淡い寒色の鎧兜に身を包む兵士たち――サンディ軍(フィーニス領軍)だ。その彼らを先導するのは金髪の青年。サンディ家臣「ノア」だ。国王の護衛を任されている主君ウィンターに代わり、兵を率いて現場に急行してきた。しかし彼は空中に浮かぶ暗黒球体を見上げながら早々に後悔に明け暮れる。


「なんだあの真っ黒な球体は!? それになんて凄まじいエネルギーなんだ。察するにあの球体は、この辺りのもの全てを力任せに吸い寄せるつもりなんだろう。このまま放っておいたら甚大な被害が及ぶぞ!? こんな事なら旦那様に付いてきてもらえばよかったな……」


 ノアは苦笑を浮かべると兵士たちに周辺住民たちを退避させるよう命令を出した。




 同じ頃、王都西保安署の近くの道中。

 ヨネシゲとマロウータンもただならぬ異変を察していた。


「何なんだ? この、物凄いエネルギーに吸い寄せられるような感覚は? 一体この先で何が起きてやがる!?」


 苛立ちを隠しきれないヨネシゲの隣で、マロウータンも白塗り顔に汗を滲ませる。


「一つ言えることは、悪意ある者が強力な空想術を発動しているようじゃ。おまけに離れたこの場所からでも感じ取ることができるエネルギー。そんな大技をこんな街中で使われてしまったら――」


 ヨネシゲは拳を強く握りしめる。


「王都を瓦礫の山なんかにはさせねぇ! カルムの二の舞は絶対にごめんだからなっ!」


 主従は悪意とエネルギーが放たれる根源へと急ぐのであった。




 赤い電流を纏わせて、周囲の空気を歪ます暗黒球体。気付くと保安署庁舎や周囲の建物の上層階は、暗黒球体の引力に吸い寄せられてしまい、原型を留めていない。だが、暗黒球体が宿す強大な力はまだ温存された状態。それを制御しているサラが地上の空想少女を見下ろす。


「さあ、さあ、さあ! カエデちゃん、そこでずっと突っ立ってても何も始まらないわよ? このままじゃ王都の街も市民たちも、そして貴女もこのブラックホールに飲み込まれてお陀仏よ。王都のヒーローの名が泣いているねえ」


「くっ!」


 嘲笑うサラにカエデは悔しそうに唇を噛む。


(――絶対絶命とはこのことね。だけど、今ここで私が諦めたら、多くの罪なき王都民の命が失われてしまう。例え絶望的な結末が待っていたとしても、守るべきものがある限り、諦めちゃいけない! だって私は、王都のヒーローなんだからっ!)


 刹那。カエデの全身が黄金色に発光。と同時に空想少女の周りを黄金に輝く楓の葉が旋回。身に纏ったとも表現できるそれはまるで楓の鎧だ。

 カエデは光の聖剣「ライトソード」を構えると、暗黒球体を翳しながら浮遊するサラの元まで飛翔する。


「これ以上、あなたの好きにはさせない!!」


 絶叫しながらライトソードを振り上げるカエデだったが――


「フフッ……受けてみなさい」


「!!」


 サラが空想杖を振り下ろす。と同時に暗黒球体がカエデに向かって放たれた。その勢い凄まじく、彼女に回避する隙も与えなかった。そして――


「ぐはっ!!」


 激突。

 暗黒球体を全身で受けてしまったカエデは力なく地上へ墜落していくのであった。



つづく……

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