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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(王都編)
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第234話 不安要素

 西の夜空へ飛び立って行った「空想少女カエデちゃん」と「鉄腕ジョーソン」。二人が纏う薄紅色と緑の光を一同が見つめていた。


「あの二人が、噂の王都のヒーローか……意外だったぜ……」


 そう呟くのはヨネシゲ。彼もまた「カルムのヒーロー」と呼ばれていた存在である。「ヒーロー」と呼ばれる者たちを目の当たりにして、角刈りは感慨深さを覚えていた。その一方でヨネシゲはある不安を抱く。


(確かにあの二人は、今日まで数々の強敵を退治してきた優秀なヒーローなのだろう。だけど……改革戦士団の幹部クラスの悪党と交戦した経験はあるのか……?)


 王都の治安維持に貢献してきた二人の実力は確かなものだろう。だがそれは、鉄壁に守られていた王都内であるから通用する話。もし彼女たちが、王都外で猛威を振るう化け物級の強敵と対峙してしまったら?

 ヨネシゲはソフィアとの会話を思い出す。それは彼女が昼間市場で見た「空想少女カエデちゃん」についてだ。


(ソフィアが言うには、大蒜(にんにく)のハブとかいう下っ端たち相手に善戦していたらしいが……裏を返せば下っ端と互角程度の強さしか持ち合わせていないということだ……)


 ――胸騒ぎ。

 王都でも名を馳せる犯罪組織「大蒜(にんにく)のハブ」。その下っ端ともなれば、それなりに空想術も扱えて常人の域を超えていることだろう。だがその程度の実力者はこの世界に五万といる。恐らくその内の一人にカエデも当てはまることだろう。そして改革幹部の実力は――その比ではない。カエデやジョーソンを凌駕する強さだ。ヨネシゲの記憶が確かなら、二人が太刀打ちできる相手ではない。だとしたら――


(二人が……危ない……!)


 今宵の爆発が改革戦士団の仕業だという確たる証拠はない。とはいえ昨日の今日だ。ダミアンらを取り逃がしてしまった以上、改革戦士団の脅威は続いている。この爆発も恐らく――


「マロウータン様っ! 俺たちも急ぎましょう!」


「うむ! 我が家の使用人を危険に晒すわけにはいかんぞよ!」


 マロウータンの結論もヨネシゲと同じようだ。白塗りもまた、実際に改革戦士団幹部と交戦した者の一人。その恐ろしさを知っている。


 ヨネシゲとマロウータンは互いに顔を見合わせ力強く頷くと、最愛の者たちの元まで歩み寄る。


「ソフィア、直ぐに戻る。今日は大人しくここで待っててくれよな」


「大丈夫よ、外には出ないから。あなたも無茶はしないでね!」


「おう! 行ってくる!」


 言葉少なめに別れの挨拶を交わす夫婦。その隣では同じくコウメとシオンが白塗りを見送る。


「ダーリン、いってらっしゃーい!」


「お父様、お気を付けて……!」


「うむ、行って参る! 留守を頼むぞよ」


 ドランカドとクラークもエールを送る。


「ヨネさん! 俺の分まで暴れてきてください!」


「任せとけ!」


「旦那様、ファイトでございますよ!」


「あいわかった。爺よ。皆を頼むぞよ」


 クラークが撒き散らす紙吹雪の中、二人の主従は西の繁華街へと急行した。


 そして、イエローラビット閣下が言う。


「――ふむ。これで王都の平和は守られることだろう!」


 刹那。珍獣の両耳をコウメが掴む。


「こ、こらっ! コウメ! 離せ! 離さぬか!」


「おーほほっ! 何丸く収めようとしているのかしら? 忘れたとは言わせないわよ? お風呂沸騰事件……」


「ギクリ……な、何をすれば宜しいでしょうか?」


 見た目はぬいぐるみなのに、大量の汗を流すイエローラビット閣下。そんな珍獣にコウメが伝える。


「おーほほっ! 貴方には一仕事してもらうわ!」


「一仕事?」


「そうよ。そこのドーナツ屋と協力して私たちに情報を届けなさい!」


「任せたまえ! お安い御用だ!」


 イエローラビット閣下は力強く敬礼した。するとコウメの背後から薄ら笑い。そこには色黒スキンヘッドの男――ドーナツ屋の姿があった。


「へっへっへっ、奥様。ドーナツ屋じゃなくて、情報屋ですよ」


「あら? 本業はドーナツ屋でしょ?」


「まあ、そうなんですがね。今は『情報屋ボブ』と呼んでくだせい」


 ドーナツ陛下・王都東店の店主「ボブ」。その裏の顔は――コウメに雇われている情報屋だった。




 ――王都西保安署・地下拷問室。

 悪徳捜査官「アチャモンド」と数名の悪徳保安官たちは、外から聞こえてきた仲間の悲鳴に戦慄していた。


「なんなんだぁ!? 今の悲鳴はっ!? おい! お前らっ! 様子を見て来い!」


「「「はっ!」」」


 室内に居た保安官たちが一斉に外の廊下へ飛び出していく。その刹那、断末魔の叫びが響き渡る。その恐ろしい悲鳴にアチャモンドは顔面蒼白。咥えていた葉巻をポロリと落とした。

 

 やがて部屋の出入り口に3人の人影が姿を現す。

 その先頭。酷く怯えた表情で全身を震わす女性は、この保安署の職員。そしてその背後には見慣れない二人の女性――赤髪と桃色髪が居た。

 赤髪の少女が女性職員に伝える。


「案内してくれて、ありがとう。あとは朝まで眠っているといいわ――」


 赤髪少女は空想杖を女性職員の首元に当てる。その途端、女性職員は意識を失いその場に倒れてしまった。

 一連の様子を見ていたアチャモンドが声を荒げる。


「だらぁっ!! なんだ貴様らっ!? ここが何処だかわかっての行動かっ!?」


 しかし、赤髪少女は悪徳捜査官の問には答えず。一糸纏わぬ姿で倒れるグレースの元まで歩み寄ると、収納の空想術で隠し持っていたお気に入りのマントを取り出し、それを彼女の身体に被せる。グレースは赤髪少女を見上げる。


「サラ……来てくれたのね……それに……ジュエルまで……」


「待たせたわね、グレース」


 そう。この赤髪少女と桃色髪の女性の正体――改革戦士団・四天王「サラ」と、幹部「ジュエル」だった。サラは膝を落とすと、衰弱した状態のグレースを抱き寄せ、あることを尋ねる。


「色々と聞きたい事があるけど、一つだけ教えて。この男に何をされたの?」


「あの男に……私は――」


 その問い掛けにグレースは顔を歪ませると、唇を噛み締めながら答える。アチャモンドや保安官たちから受けた拷問や屈辱の数々を――サラの表情に怒気が宿っていく。すると、今尚壁に固定され拘束されているチェイスから声が飛んでくる。


「お〜い。俺のこと忘れてねえか? 俺も酷い拷問を受けていたんだ。聞いてくれるか?」


 だがサラはそんな彼の言葉を一蹴。


「あなたは黙ってなさい。話せる元気があるなら、自力でその拘束器具を外しなよ」


「そんな〜。相変わらず男には冷たい女だぜ……」


 苦笑を見せるチェイスを横目に、サラは悪徳捜査官に鋭い眼差しを向ける。対するアチャモンドは虚勢を張るようにして声を張り上げる。


「何者だぁ!? 貴様らも改革の連中なのかっ!? わざわざ俺の所まで拷問されに来るとはいい度胸してるなぁ!」


「王都保安局の捜査官が、私たちの顔を把握していないなんて、職務怠慢にも程があるんじゃない?」 


「何を? このクソガキが生意気にっ!」


「クソガキで結構。でも、あなたはこれからその生意気なクソガキに、恐怖と屈辱を与えられてしまうのよ?」


「つ、強がってんじゃねえぞ!? 貴様らみたいな小娘なんぞ俺一人で――ぐわあっ!!」


 刹那。サラが空想杖を振り上げると、アチャモンドの身体が浮遊。そのまま勢いよく壁に叩きつけられた。と同時に壁から突き出てきた鎖が悪徳捜査官の手足を縛り上げる。彼は壁に固定されてしまった。

 サラが冷たい眼差しをアチャモンドに向ける。


「あなたには――グレースと同じ思いを味わってもらうわ」


「な、何をするつもりだぁ!?」


「あなたは馬鹿なの? もう一度言うわよ。あなたには、グレースと同じ思いを味わってもらう――」


 直後。氷のように冷たい水がアチャモンドの頭上から降り注ぐ。



つづく……

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