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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(王都編)
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第222話 戦勝報告(中編)

 謁見の間に姿を見せたのは、グローリ地方領主「エドガー・ブライアン公爵」である。

 トロイメライを揺るがした大罪人は玉座の前で両膝をつくと、不敵に微笑みながらネビュラを見上げる。

 そして、宰相スタンが読み上げる国家転覆罪を始めとした数々の罪状を静かに聞く。


 トロイメライ王国中部・グローリ地方を古の時代より治めていたブライアン家は「中央の覇者」と呼ばれる名門貴族だ。しかしその「中央の覇者」に翳りが見え始めたのは、ここ最近のこと――エドガーの代からだ。

 代々自領を堅く守ることに重きを置いていたブライアン一族だったが、その先祖の言いつけを無視して他領を侵し、領土拡大を目論んだのがエドガーだった。

 長年他領への侵攻を繰り返すエドガーの軍資金の源となったのが、他でもない領民たちが納める税だ。その税金徴収額は年々増大し、民たちの生活を苦しめていた。豊かだったグローリ領もエドガーの暴政によって廃れていく。隣領からの貿易は途絶え、グローリを去る領民も数多。まさしく栄枯盛衰である。

 挙げ句の果てにエドガーがとった行動は、改革戦士団と手を組み南都大公(メテオ)に戦線布告。つまり王族に盾突き国家転覆を目論んだのだ。しかしその野望もタイガー・リゲルに打ち砕かれることとなった。

 

 やがて罪状を読み上げたスタンがエドガーに訊く。


「――以上の罪状の数々、内容に相違ないな?」


「内容に……相違なしだ」


 エドガーが罪を認めた瞬間、謁見の間のあちこちから驚嘆の声が漏れ出す。場合によってはエドガーの口から「異議あり!」の台詞が発せられると予想していた者は多かっただろう。だが素直に罪状を認めたエドガーの姿に、一同互いに顔を見合わせながら納得した様子で頷いた。

 そしてヨネシゲは目の前の大罪人に鋭い眼差しを向ける。


(――改革戦士団もそうだが、コイツが欲に目が眩んで奴らと手を組まなければ、今回の惨劇が起こらずに済んだんだ! 多くの人たちが命を失わずに……!)


 ヨネシゲは悔しそうに歯を食いしばりながら拳を握りしめる。その隣ではマロウータンも体を震わせていた。無理もない。白塗りもまた父と兄を今回の動乱で失っているのだから。だが彼は込み上げてくる感情を押し殺し、復讐の鬼に化けることを必死に堪えていた。


(今すぐここで貴様を八つ裂きにしてやりたいところじゃ! じゃが、奴を恨んでいるのは儂だけじゃない。儂の私情だけでは此奴を片付けられぬ――此奴に厳正なる裁きを! 父上も兄上も……それを望んでいる筈じゃ……) 


 マロウータンは瞳を潤ませながら天井を見上げた。


 エドガーが罪状を認めたところで、タイガーが口を開く。


「――陛下」


「なんだ!?」


「いくら罪状を並べたところで、エドガー殿は極刑を免れないであろう。じゃから、あとは煮るなり焼くなり、陛下の好きなようにされよ――」


「言われなくてもそうさせてもらうわっ!」


 ネビュラはタイガーに言葉を返すと、憎悪の表情でエドガーを睨んだ。すると虎入道が改まった様子で言葉を続ける。


「此度の動乱の首謀者エドガー・ブライアンの身柄の確保。並びに、ブライアン・改革戦士団連合軍から南都含むホープ領を奪還――儂ら頑張りましたぞ! 流石の陛下も儂らを評価してくださったかな?」


「――褒美が欲しいのか?」


 ネビュラの一言にタイガーがニヤリと微笑む。


(やはり要求してきやがったか……!)


 タイガーからの要求にネビュラは眉を顰めると、メテオに視線を向ける。兄とアイコンタクトをとった王弟が虎入道に褒美について言及する。


「タイガー殿。もちろん褒美は用意してありますぞ」


「おお! それは有り難い! 早速お聞かせくだされ」


 期待の表情を見せるタイガーに、メテオは緊張した様子でその内容について説明を行う。


「先ず、タイガー殿にはグローリ領を治めてもらいたい」


 大罪人エドガーが治めていたグローリ領。現在リゲルの手中にある広大な領土は、そのまま彼らに引き継がせる考えだ。タイガーは納得した様子で頷くも――まだ足りない。そう猛虎の瞳が訴えている。だがそれも想定の内。メテオがもう一つの褒美をタイガーに伝える。


「そして、もう一つ。新たな役職を設けました」


「新たな役職?」


「はい。その誇り高き役職をタイガー殿に与えたい」


「して……その誇り高き役職とは?」


 タイガーに尋ねられると、メテオが力強い声でその役職の名を口にする。


「タイガー殿を『東都守護役』に任命したい!」


 ――守護役。

 それはトロイメライ王国の重職。国境や都、重要拠点の警備・防衛が主な任務である。現在トロイメライには「王都」「南都」「西海」の3つの守護役が存在しているが、別名「東都」と呼ばれるアルプ領サンライトには守護役が存在していなかった。

 それもその筈。アルプ領を治めているのは何を隠そう国王ネビュラと対立関係にある「タイガー・リゲル」だ。そして東都と呼ばれる都市を築き上げたのもタイガーである。

 故に今日まで東都サンライトに守護役を設けるに至らなかった。仮にネビュラが「東都守護役」の重職を設けようとしても、タイガーはそれを却下することだろう。虎は自領に王国の息が掛かることを酷く嫌っている。それは今も同じだ――

 タイガーが鼻で笑う。


「フン! 儂がそのような肩書きで満足するとお思いか? 寧ろ、そのような肩書きは願い下げじゃ。守護役など所詮王国の犬。そんな犬に成り下がり、儂が築き上げ、守り抜いてきたアルプに、暴君の指など触れさせてたまるかっ!」


「ぬうっ! 無礼な……!」


 猛虎は心底不愉快そうな表情でネビュラに鋭い眼差しを向ける。一方の暴君も息を荒立てながらタイガーを睨む。そこにメテオが割って入るようにして虎に問う。


「不満か? なら、貴方の望みをお聞かせください」


 タイガーはそのままの鋭い眼光で王弟を見る。


「儂の望みは――南都とホープ領を我がものにすることじゃ!」


 南都に対して野心を露わにするタイガー。マロウータンやバンナイら南都所縁貴族は顔を強張らせた。一方の虎は、この場に居る全ての者に訴え掛けるようにして言葉を続ける。


「南都と広大な平野を有するホープ領は、山岳地帯の田舎貴族にとって憧れの地じゃ。都がある、港がある、運河がある、そして平野全体に広がる豊かな田畑。アルプがどれほど背伸びしようと、決して敵うことができない土地じゃ。儂は――そんな憧れの都を手に入れることが長年の夢じゃ……!」


 タイガーはそこまで言い終えると天井を見上げる。謁見の間は沈黙に支配され、一同固唾を呑みながら虎の次なる言葉を待った。

 だが、沈黙を破ったのはメテオの一言だった。


「タイガー殿……南都は焼け野原……憧れの都はもう……ありません……」


 その言葉を聞いたタイガーは瞳を大きく見開くと、ゆっくりとメテオに視線を向ける。そして次に王弟の口から発せられた言葉は衝撃的なものだった。


「だから……都を移します。南都の機能を――東都に……!」


 メテオの発言に一同驚愕の表情を見せる。そして南都貴族たち――マロウータンが声を震わせる。


「嘘じゃろ? これでは――本当に南都が消えてしまうぞよ……!」


 南都存続の危機?



つづく……

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