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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(王都編)
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第209話 クボウ邸へGO

 朝日が昇り、降り注ぐ中、ドリム城内の中庭には、10名の程度人集りができていた。その人集りの中心では、紙吹雪を浴びながらニヤニヤと笑みを零す二人の角刈り男の姿――

 そう。ヨネシゲとドランカドだ。

 今日は二人にとって記念すべき日となった。

 

 二人はつい先程、国王ネビュラから「男爵」の爵位を授かることとなった。

 王弟メテオの進言もあり今回の叙爵が実現した訳だが、ネビュラは弟の提案に渋々応じた形である。

 昨夜の晩餐会の一件を考えると、手のひら返しのような状況であるが、ブルーム夜戦での功績、今回ダミアンら改革戦士団から王都を防衛したことは、流石のネビュラも認めざるを得ない活躍ぶりだった。

 また、今やヨネシゲとドランカドは王族と関係の深いクボウ家の家臣。ネビュラが前クボウ家当主「オジャウータン・クボウ」に恩義を感じていた事も叙爵に至った理由の一つと言えよう。


 今はソフィア、マロウータン、シオン、クラーク、そして南都五大臣バンナイ、アーロン、ダンカンが角刈り達の叙爵を祝福。

 ソフィアがヨネシゲとドランカドを称える。


「あなた、ドランカド君。本当におめでとう! 二人の功績が陛下に認められた証拠だよ! そんな二人が私の夫と友人で誇りに思うわ!」


「ありがとな、ソフィア! 君のその言葉が何よりも嬉しいよ!」


「本当っすね! ソフィアさんに褒めてもらうために、生きて帰ってきたようなものですからね〜」


「ウフフ。まったく、ドランカド君は大袈裟だね」


 一同から溢れる笑み。

 そんな中、ヨネシゲはソフィアの肩に手を添える。


「ソフィア。君も今日から男爵夫人だ。お互い新しいスタートを切るわけだが、これからも一緒に手を取り合っていこうな!」


「ええ! もちろんよ!」


「ヨッシャ! まあ、一人息子のルイスが別々の道を歩んでいる今、この『クラフト男爵家』は一代限りで終わりになると思う。だけど皆に誇れる、語り継がれるような男爵家にしていこうな!」


「はい!」


 希望に満ち溢れた表情で語るヨネシゲ。ソフィアの瞳もキラキラと輝かせながら頷いた。


 新たな門出を迎えた二人の角刈り臣下に、白塗り顔の主君マロウータンが激励の言葉を掛ける。


「流石は我が家臣じゃ! 仕官して早々に爵位までものにするとはのう。そなたらの成長が楽しみじゃ!」


 そして白塗りは角刈りたちの肩を力強く叩く。


「ヨネシゲ、ドランカドよ! そなたらの働きを期待しておる。この儂を超えてみせよ!」


 ヨネシゲとドランカドは姿勢を正すと、力強い声で宣言する。


「このヨネシゲ・クラフト! マロウータン様のご期待に応えられるよう日々精進し、全力で任務に取り組んでいく所存でございます!」


「同じくドランカドも、名門クボウ家を支える、太い柱になってみせます! マロウータン様を超える偉大な男に!」


 マロウータンは奥義を広げながら高笑いを上げる。


「ウッホッハッハッハッ!! 善き哉、善き哉! そなたらの暴れる姿、見てみとうなったわっ! 責任は儂が取る! 何も恐れずその手腕を振るってみせるのじゃ!」


「「ははっ!!」」


 ヨネシゲとドランカドはさらなる飛躍を主君に誓った。


 白塗り顔の隣では、シオンとクラークが角刈り二人に期待を寄せる。


「ヨネシゲ殿にドランカド殿。きっと、お二人はこの衰退したクボウの――そしてトロイメライの救世主となられることでしょう」


「ええ。お嬢様の仰る通りでございます。お二人のご活躍が楽しみですな!」


 そして、アーロンとダンカンが口を揃えて言う。


「うむ、マロウータンも良い家臣を持ったな。羨ましい限りだ」


「違いない。私もあの二人みたいな家臣が欲しいのう……」


 その二人の肩をバンナイが叩く。


「儂も欲しい! だが、彼らのような者たちが儂らの味方で良かったではないか。儂はそれだけで満足だ」


 一同、ヨネシゲたちの叙爵を喜び合う中、マロウータンがこの後の予定を角刈りたちに伝える。


「――ヨネシゲ、ドランカド。そなたらの祝賀会は今夜行うことにしよう。楽しみにしておれ」


「「ありがとうございます!」」


 マロウータンの粋な計らいを聞いて、ヨネシゲとドランカドは嬉しそうに互いの顔を見合わせた。

 マロウータンが言葉を続ける。


「それでこの後なんじゃが、そなたらに会わせたい人物がおるのじゃ」


「会わせたい人物ですか? それは……?」


 ヨネシゲが尋ねるとマロウータンが口角を上げる。


「儂の妻じゃ!」


「マロウータン様の、奥様……!?」


 ――ヨネシゲたちはこの後、マロウータンの妻と対面することになる。そして、新たな出会いも待っていた。




 同じ頃、ドリム城・国王ネビュラの私室。

 向かい合うようにしてソファーに腰掛ける兄弟は――ネビュラとメテオだ。二人は珈琲を味わいながら言葉を交わしていた。

 王弟が嬉しそうに言う。


「――兄上、ヨネシゲとドランカドの叙爵、ご英断でしたぞ。私の提案を受け入れていただき、改めてお礼を申し上げます!」


「なあに、可愛い弟のたっての願いだ。叶えてやらねばな。それに、仮にも奴らはクボウの家臣だ。亡きオジャウータンから受けた恩を仇で返すわけにはいかぬ……」


 ネビュラは何処か照れくさそうな表情を浮かべながら珈琲に口を付ける。その様子をメテオが微笑ましく見つめる。


(――私は知っている。今では暴君と呼ばれている兄上だが、本当はもっとお優しいお方なのだ。――国王という重責が兄上を変えてしまった……)


 悲しげな笑みを浮かべるメテオに兄が尋ねる。


「メテオよ。どうかしたか?」


「い、いえ! 何でもございません!」


 メテオは慌てた様子で話題を変える。


「して、兄上。昨晩お話しした王都特別警備隊の件ですが――」


 それは昨晩、改革戦士団の襲撃を受け、メテオが提案した臨時となる治安部隊についてだ。

 王都の治安を司る2つの組織、王都領軍と王都保安局は昨晩の襲撃で大打撃を受けた。

 不穏分子(ダミアンら)が王都に潜伏している可能性がある中、その警備体制に現在大きな穴が空いている状態だ。その穴埋めを行うためメテオが考えた対策が、各王都貴族や王都近郊領主の兵、その他多くの有志を集い、王都内の警備を行う「王都特別警備隊」の編成だった。

 王都内で起きた今回の襲撃はネビュラも見過ごせない事案となっており、王都特別警備隊の編成に前向きである。そうなると誰が王都特別警備隊の総括を行うのか? 兄弟は王都特別警備隊の司令官について意見を交わす。


「――やはり司令官は王族の者に任せたい」


「しかし兄上。既にエリック(第一王子)は、王室騎士団の第一騎士団長として。ロルフ(第二王子)は防災局の幹部として此度の襲撃の対応に当たっております。私も先日から城内本部の総括を任されている故、余裕がありませぬ。他に適任が――」


 ネビュラは口角を上げる。


「ククッ。居るではないか?」


 兄の思惑を理解したメテオが渋る。


「兄上、まさか? あの子には少々荷が重すぎます。まともに公務すら経験させていないのに……」


「案ずるな。大臣か誰かに補佐させれば問題ない」


「しかし――」


 その時。扉をノックする音が部屋に響き渡る。

 噂の人物が姿を現したのだ。


「父上、ヒュバートです」


「おお、ヒュバートか。待っておったぞ。入れ」


「失礼します」


 ネビュラの元を訪れたのは、第三王子「ヒュバート」だった。彼は部屋に入るなり顔を強張らせながら父親に要件を尋ねる。


「父上。私に何かご用でしょうか?」


 息子に訊かれたネビュラは珈琲をひと啜り。口を開く。


「――昨晩の晩餐会は散々だったが、良い女子とは出会えたか?」


「――いえ。これと言って……」


「ほほう……」


 実はヒュバート。普段からあまり晩餐会に参加する機会は無かった。だが昨晩は、父ネビュラから『そろそろ結婚相手を探しておけ』と伝えられており、渋々晩餐会に出席した次第だ。

 息子の返事を聞いたネビュラが意地悪そうにして口角を上げる。


「ククッ。その割には、クボウの令嬢と仲睦まじくしていたではないか? ウィリアムの妹(ボニー嬢)が妬いておったぞ」


「そ、それは……」


 顔を真っ赤に染め上げるヒュバート。ネビュラが続ける。


「お前にその気があるなら、俺が取り計らってやってもいいぞ? それとも大人しくウィリアムの妹を妻に迎えるか?」


「それはっ!」


「まあ良い。よく考えておくのだな」


「はい……」


 顔を俯かせるヒュバートにネビュラがもう一つの話題を切り出した。


「――それと、ヒュバートよ」


「はい、父上……」


「――お前に、王都特別警備隊司令官を任命する!」


「王都特別警備隊司令官!?」


 状況を理解できていないヒュバート。その隣では、メテオが困った様子で頭を押さえていた。




 ――王都北東部にある「王都クボウ邸」を目指すヨネシゲ一行。マロウータンの先導で商店街が建ち並ぶ通りを歩いていた。

 王都で生まれ育ったドランカドが懐かしそうに言う。


「いや〜懐かしいっすね! 俺、保安官になって最初に配属されたの、この辺りの派出所だったんですよ!」


「へえ、そうだったのか」


 久々に見る王都の光景に、ドランカドは興奮気味の様子。そんな彼の話をヨネシゲは興味深そうに聞いていた。すると真四角野郎が突然に騒ぎ始める。


「おっ! ヨネさん! あれあれっ! あれを見てください!」


 ヨネシゲは瞳を見開く。


「な、何だあれはっ!? 事件でも起きたのかっ!?」


 ヨネシゲの視線の先。そこには十数名もの保安官が一箇所に集まる姿があった。これは何かの事件なのでは? ヨネシゲが顔を強張らせていると、ドランカドが高笑いを上げる。


「ガッハッハッ! ヨネさん、事件じゃないっすよ。ほら、あれを見てください!」


「むむっ!? あ、あれはっ!?」


 保安官たちが(たむろ)する場所。そこは王都でも有名だというドーナツ屋前だった。そして保安官たちが両手に持つお好みのドーナツを頬張っていた――異様な光景である。


「俺も保安官時代は毎日のように通い詰めましたよ。中でもあんドーナツが絶品で――」


 ドランカドは懐かしそうに解説を始めるのであった。


 そのドーナツ屋店内。


「らっしゃい……おっ! これは旦那。いつもので良いですかい?」


「ああ。あんドーナツ5個、砂糖マシマシ、こしあんで」


「あいよっ!」


 色黒スキンヘッドのドーナツ屋店主から旦那と呼ばれる、角張った顔の中年男。白髪交じりの黒髪オールバックが特徴的。眉間にシワを寄せ不機嫌そうな顔をしているが、決して怒っているわけではない。彼の正体――この王都の治安を司る二大組織の一つ、王都保安局の頂点に立つ長官「ルドラ・シュリーヴ伯爵」である。ドランカドの実父だ。

 店主はドーナツを紙袋に詰めながら昨晩の事件についてルドラに尋ねる。


「それにしても旦那。昨晩の襲撃事件でお疲れでしょう」


「ああ。朝方に仮眠を取ったが、一時間程しか寝れていない」


「あらら、そりゃ大変ですな。それにしても、あの黒髪が現れたって本当ですかい?」


「嘘であってほしいが、目撃者が多数いる。あのウィンターが言うのだから本当なのだろう……」


 そして今度はルドラが店主に訊く。

 

「時にドーナツ屋」


「へい、何でしょう?」


「――ドランカドを見かけていないか?」


 店主は不思議そうに首を傾げる。


「どうして今更そんなことを? ドラ坊は――旦那が追放したのでは……?」


「昨晩、ドリム城の晩餐会に姿を現したのだ。クボウ南都伯閣下の家臣としてな」


 店主は更に驚いた表情を見せる。


「こりゃおったまげた! 旦那、まだ俺の頭の中が混乱してます。百歩譲ってドラ坊がクボウ家臣になったのは頷けますが、南都伯閣下(マロウータン)はブルームで亡くなられたのでは?」


「それが生きておったのだ! 俺もまだ頭の中が整理できていない……」


「左様でございましたか――!?」


 突然店主の顔が強張る。透かさずルドラが尋ねる。


「どうした? ドーナツ屋?」


「いえいえ……なんでも……」


 店主は何事も無かったように、あんドーナツが入った紙袋をルドラに手渡す。


「まあ、旦那。あまり無理はなさらずに」


「ああ、ありがとな」


「まいど〜!」


 ドーナツ屋を後にするルドラ。それを見届けた店主が不敵に口角を上げる。


「旦那。ドラ坊は――息子さんは案外近くを彷徨いていますぜ!」


 先程、顔を強張らせたドーナツ屋店主。あの時彼は、店の前の通りを通過するヨネシゲ一行を目撃していたのだ。その中にはあのドランカドの姿もあった。




 やがてヨネシゲたちは、王都の中心部から北東に少し離れた場所に位置する「王都クボウ邸」の前に到着。ここにマロウータンの妻が住んでいる。

 屋敷へ通ずる門の前に護衛は居らず、白塗り顔は自ら門を開き、角刈り一行を中へと招き入れる。


「さあ、入るがよい」


「お邪魔します!」


 ヨネシゲたちは両サイドに広々とした庭園が広がる通路を進み、屋敷の玄関前に到着した。


 ――だが、一同異変を察知する。


 屋敷の中から漏れ出してくるのは白色の煙。玄関扉がこちら側に向かって膨張を始める。

 マロウータンが叫ぶ。


「皆っ! 扉から離れるのじゃ! 回避っ! 回避っ!」


 一同、咄嗟に扉から離れる。

 ヨネシゲはソフィアを抱えながら、近くの植え込みに身を隠した。


 刹那。大きな爆発音を轟かせながら玄関扉が吹き飛んだ。気付くと周囲は暗転。黒い霧に飲み込まれていた。

 突然の出来事にヨネシゲが顔を強張らせる。


「一体、何が起きたんだっ!?」


 そんな彼の服をソフィアが不安げな表情で握りしめた。


 そして、扉が吹き飛んだ玄関からは黒いシルエット――人影が見えてきた。

 人影は長い髪を靡かせながら、瞳を紫色に発光させる。


「ソフィア! 俺の後ろに隠れていろっ!」


「え、ええ……」


 ヨネシゲは怯えた様子のソフィアを自身の背中に隠すと、ドランカドと共に戦闘態勢に入った――


 だがしかし。シオンは両手を組みながら嬉しそうな表情で瞳を輝かせ、クラークは紙吹雪が入った籠を抱えながら右手を構えていた。

 ヨネシゲは冷や汗を流す。


(これはどういう状況だ!?)


 困惑の角刈り。だが、シオンが漏らした言葉を聞いて、その状況が次第に明らかになる。


「――お母様……相変わらずお元気そうで……!」


「え? お、お母様……!?」


 目を丸くさせるヨネシゲ、ソフィア、ドランカド。そんな中、マロウータンは顔を強張らせて、冷や汗を流しながら声を震わせる。


「またしても……やりおったな……コウメよ……!」


 マロウータンの妻「コウメ・クボウ」、出現。



つづく……

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